会計事務所にいた時のことです。
「相談があるのですが」とアポなしで来所された渡辺英子(仮名)さんは一見して分かるぐらい憔悴しきっていました。
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3回忌で見つけた夫の定期預金
たまたま在席していた当方が対応したところ「夫の3回忌法要の準備で仏壇を整理していたところ、知らなかったN銀行の定期預金ができました」とのことでした。
実は、夫の遺産は1年がかりで名義変更を終えたつもりでしたが、英子さんが知らない「へそくり」があったようです。
そこで、その定期証書を持ってN銀行に行ったところ、「おろせません」と言われたといいます。

銀行の名義変更に必要なもの(遺言書・分割協議書がない場合)
・ 相続人を確認できる、戸籍謄本一式(法務局が発行する、法定相続情報一覧図の写し)
・ 相続人全員の印鑑証明
未成年または認知症等(被後見人)の場合は、法定代理人(特別代理人)の印鑑証明書
海外にいる場合は、「サイン証明書」と「在留証明書」
・ 各銀行の所定の届出書に、相続人全員の署名が必要
遺言書・分割協議書を作成していれば、手続きは簡便化できる
分割協議書にその預金の記載があれば、銀行所定の届出書に原則、該当預金を「もらえる人の署名」と印鑑証明書で、預金の解約は可能です。
遺言書も同様で、原則、受遺者(遺言でもらえる人)の戸籍謄本と印鑑証明があれば、預金は解約できますが、英子さんのご主人は、遺言書を作成していなかったそうです。
今回の相続では、結婚した夫の相続で夫婦に子供がなく、夫の親はすでに亡くなっていました。
相続人は、妻である、英子さんと、夫のきょうだいである姉・弟・妹が相続人でした。
当初判明していた遺産を分ける際にも、義姉、義弟、義妹との話し合いが難航したそうです。
その際、何か書類を作成した記憶があり、戸籍とともに、その書類も銀行に持参したところ、「この書類ではおろせません」といわれ途方に暮れたとのことです。
分割協議書には、判明している遺産のみが記載
英子さんに、その書類を見せていただいたところ、英子さんが居住していた不動産と、ゆうちょ銀行と農協の記載はされていましたが、N銀行の記載はありませんでした。
確かに、銀行の担当者の方が言う通り、この分割協議書では、預金を下ろすことはできません。
N銀行の預金を下ろすためには、再度、相続人全員の署名と、印鑑証明が必要になることが判明いたしました。
後日、判明した遺産をどう分けるか
分割協議書の作成には、後日判明した財産について記載するこことは大切なことです。
配偶者と子が相続人の場合は、「配偶者が取得する」としておいても、通常もめません。
しかし、今回のようにもめていた場合は、例えば「後日判明した遺産は、法定割合で取得する」と事前に書いておくことが大切なことでした。

遺言書に「記載されていない財産」がある場合は、かえってもめることも
分割協議書の作成で、葬儀、未払い費用についての取得者の記載も大切なことです。
これは相続人への確認と相続税申告書での計算上必要となります。
当方も遺言書が作成してあったのに、ある遺言書は不動産の取得者のみ記載されている内容だったため、記載されていない財産に対し、さんざんもめてしまい、結局、遺言書は使わず、分割協議書を作成することとなった経験があります。
遺言書を作成する場合は、「預金含め、その他一切の財産についても記載」することが大切です。(執筆者:1級FP、相続一筋20年 橋本 玄也)