筆者が20年働いた相続専門部署にて1番もめた遺産分割は、子である相続人が兄と妹のケースでした。
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兄と妹の遺産分割はもめやすいのか?
夫が亡くなり相続人は、妻の陽子さんと、長男(兄)の健さんと長女(妹)の恵子さんでした。夫は再婚しており、相続人である長男(兄)と長女(妹)は、2人とも先妻の子です。
故人である夫は、預金だけで相続税の基礎控除を超え、不動産も自宅以外に数か所ありました。
長年公務員であった妻はと故人と同じくらいの預貯金があるとのことで、「遺産は子供二人で分けてください」と話されます。

夫から妻へ預金を生前に移動していませんか?
故人との婚姻期間がいくら少なくても、相続時の配偶者には法定割合(今回は、1/2)を主張でき、再婚の配偶者と先妻の子は比較的もめやすいですが、今回の案件は、配偶者が、事実上の放棄を宣言されていますので遺産分割もスムーズに進むかと筆者も安心していました。
ただ、妻名義の預金が、夫からの生前贈与によるもの、妻名義に資金移動してあるだけであることもよくあり、その点は故人の通帳も含め調査を行いましたが、問題ありませんでした。
兄と妹の関係
故人の財産目録をエクセルで作成し、「妹に全くあげないなんて考えていませんよ。この預金は妹に相続させるつもりです」と話す健さん(兄)に
とアドバイスしました。
兄曰く、「我が家のきょうだい関係はこれまで良好でした。私も妹をかわいがっていましたから大丈夫です」といいます。
兄は妹に電話にて提案
兄は妹さんに直接電話を入れ、「長年同居していた父の面倒も見ていたので、黙ってハンを押してくれ」と話したようで、その際、妹さんとけんかになってしまったようです。
今度は、妹さんより兄の配偶者である良子さんに電話が入り、
それを否定したようなことを言われてさすがに怒りがわいてきた。正直な話をいうと、お義姉さんのことを父は良く言ってなかった」
といった話まで飛び出してきた。
妹は、兄への伝言を兄の配偶者(義姉)へ
「とにかく、財産目録を送ってほしいこと。その財産の、法定割合を希望すると兄に伝えてほしい」と妹は義姉に言ってきたそうです。
それに対し兄は「あんな奴、ほっとけ!!」と妻にいいます。
今度は、兄の配偶者である良子さんから筆者に電話が入りました
「夫は、ほっとけと言っていますが、そうしたら申告はどうなるのですか?」と電話で確認してきました。
当方は
と答えました。
そして、その後は妹の恵子さんとの会話でこころのケアが必要と考えひたすら傾聴いたしました。
相続問題は相続人以外もまきこんで複雑に

筆者は、その時、「兄と妹の関係より、兄の妻と妹の関係が、むつかしい?」などと考えていましたが、今回はもうひとつポイントがありました。
子のきょうだい間でもめてしまったら妻がいったん相続し母の相続時に再協議をするといった方法をとることがありますが、今回の相続では配偶者は、後妻であり、健さんと恵子さんの実母ではありません。
しかも、兄の健さんのみ後妻の陽子さんと養子縁組をしていました。そのため、妹の恵子さんは、陽子さんとの間に相続はありません。
つまり今回が最後チャンスだったのも強く出られた原因だったかもしれません。
再婚している方は、遺言書作成の検討が必要です。(執筆者:1級FP、相続一筋20年 橋本 玄也)