病気やケガで入院した時に、快適な個室で治療を受けたいと考えた場合、差額ベッド代を支払わなければなりません。
全額自費となります。
ところが、個室を利用しても差額ベッド代がかからないケースがあるのです。
どのような場合にかからないのかご紹介します。

目次
差額ベッド代とは
差額ベッド代とは、病気やケガをして入院した時に、一般的な大部屋ではなく条件のよい個室等を利用した場合に、請求される大部屋との差額費用です。
この費用は、健康保険の対象外であり、また高額療養費制度も利用できません。
差額ベッド代は、「特別療養環境室料」といい、これがかかる部屋を「特別療養環境室」といいます。
この差額ベッド代は、1人部屋の個室だけでなく、4人部屋でも必要となるときがあります。
ただし、特別療養環境室は1人部屋の割合が高いので、ほとんどの場合個室と考えてよいかもしれません。
では、差額ベッド代としていくらかかるのでしょうか。
1日あたり最低額は50円、最高額は37万8,000円で病院によって料金は異なります。
1日当たりの差額ベッド代の平均額は6,354円(令和元年7月1日現在)です。
入院が長引けば、健康保険の対象外なので、結構な金額になります。
【平均的な差額ベッド代(令和元年7月1日現在)】

参照:厚生労働省(pdf)
差額ベッド代がかかる理由
なぜ差額ベッド代がかかるのかというと、厚生労働省の通知によって部屋の環境について下記の4つの要件を満たす必要があるからです。
特別療養環境室(差額ベッド)の要件
・ 病室の面積が、1人当たり6.4平方メートル以上であること
・ 病床ごとにプライバシーを確保するための設備を備えていること
・ 少なくとも「個人用の私物の収納設備」「個人用の照明」「小机等及び椅子」の設備を備えていること
この要件は最低の基準であり、病院によってはトイレや洗面台、冷蔵庫、テレビ等の設備が整っている部屋もあります。
この要件を見ると確かに健康保険が適用される大部屋よりも快適かもしれません。
個室でも差額ベッド代がかからないケース
快適な個室に入院した場合でも、差額ベッド代がかからないケースがあります。
それが下記の場合です。
(1) 病院側の病棟管理の必要性から入院するケース
患者本人の希望ではないため、差額ベッド代を支払う必要はありません。
例としては、新型コロナのように感染力の強いウィルスにかかった患者は、他者への感染を防ぐために病院側管理の都合上、個室に入院することになります。
(2) 患者本人の「治療上の必要性」から個室に入院させるケース
例としては、救急患者、手術後の患者等で症状が重く安静等が必要な患者や感染症にかかるリスクが高い患者等が当てはまります。
救急患者でも、個室に入院して差額ベッド代がかかるかかからないかは、その症状により異なります。
(3) 患者本人が、差額ベッド代がかかる部屋に入院することに同意していないケース
差額ベッド代は、患者本人が個室を希望して利用する場合にかかるものであり、同意がないのに請求をすることはできません。
この場合には、病院が作成した同意書に同意して個室を利用することになります。
同意書は必ず確認をしてからサインをする

差額ベッド代がかかる部屋に入院をした場合、患者の希望で利用したことの確認として同意書にサインをすることになります。
実はこの同意書のサインは、非常に重要なのです。
まず、同意書の説明がなかった、説明が不十分でよくわからなかった場合は、いくらサインをしても支払う必要はありません。
説明責任は病院側にあります。
また、緊急の入院時によくあるケースとして、大部屋を希望していたのにベッドに空きがなく、やむを得ず個室を利用した時は、本来差額ベッド代を支払う必要はありません。
しかし、同意書にサインをしてしまうと、差額ベッド代を支払わなければならなくなります。
ベッドに空きがない場合は、いくら同意書の説明を受けたとしてもサインはする必要はないのです。
ただし、大部屋のベッドが空けば、すぐに移動しなければならないことは言うまでもありません。
差額ベッド代を支払う必要がないケースは多々ある
個室を利用しても差額ベッド代がかからないケースのあることがお分かりになったでしょうか。
ただし、原則は差額ベッド代がかかりますので、症状がよくなったときなどは、そのまま差額を支払って個室を利用するのか、大部屋に移動するのかの選択になります。
差額ベッド代は、全額自己負担となり、医療費が一定の金額を超えた場合払い戻される高額療養費の対象外です。
また、年間10万円以上の医療費を支払った場合に、確定申告で一部税金が還付されるという医療費控除も適用対象外となります。
つまり医療でかかったお金なのに1円も戻ってこないということです。
患者本人が希望しなくても、個室を利用して差額ベッド代を支払う必要がないケースは多々ありますので、その時にあわてて同意書にサインをしないように気を付けてください。(執筆者:特定社会保険労務士、1級FP技能士 菅田 芳恵)