人生100年時代、老後の2,000万円問題、今後の公的年金制度など、老後(セカンドライフ)の資金問題は今後も消えることはないでしょう。
その中で、つみたてNISAやiDeCoなど資産運用にて老後の生活資金の不足を補うことが言われています。
今回は定年退職時に支給される退職金は資産運用に回すべきなのか? の注意点をお伝えします。

目次
資産運用でお金の寿命が延びる?
定期預金だけでは増えない時代だからこそ、資産運用を行うことでお金の寿命を延ばしましょう。
このフレーズを聞いた方は多いかもしれません。
確かに、下記の例を見ていただくと、運用しない場合と想定利回りを3%とした場合では、同じ金融資産の残高であっても、金融資産が底をつく年齢が異なります。
・ 金融資産:2,000万円・毎月の取り崩し額:10万円・65歳から取り崩し開始
想定利回りによって何歳で金融資産が底をついてしまうか?
・ 想定利回り0%:81歳8か月(16年8か月)で残高が0円になる(運用しない場合)
・ 想定利回り1%:83歳3か月(18年3か月)で残高が0円になる
・ 想定利回り3%:88歳2か月(23年2か月)で残高が0円になる
※複利計算、税金等の諸費用は考慮していません。
しかし、上記の例でのポイントは当たり前のことですが、想定利回りを確保できた場合です。
この想定利回りは資産運用を始めることで誰でも得られるものではありません。
それでは、次にこれまでの資産運用の経験の有無に応じて注意点に触れていきます。
これまで資産運用の経験が「ない」場合
退職金が支給されると同時に金融機関や投資商品を販売している企業等から、資産運用に関する勧誘や提案を受ける機会が多くなります。
一定の金融資産を保有していることからその年代層を中心に営業のターゲットになっています。
また、周りやニュース、ネット上などから資産運用で成功している人の話を聞くこともあるでしょう。
しかし、資産運用は第三者から提案や勧められて開始したとしても、その後の運用成績には責任は取ってくれません。
あくまで、資産運用という「航海」のスタート位置に誘導しただけです。
おいしい話は向こうからはやってきません。
その後の航海については波の状況を判断しながら自ら舵を切っていく必要がある訳です。
その時には、航海の経験が物を言う時も多いです。
第三者から提案や勧められる時には、メリットだけでなくデメリットも自ら確認する必要があります。
購入時点ではメリットのみを認識しており、いざ購入した後にデメリットに気付く場合も多いです。
これまで資産運用の経験が「ない」場合の方が退職金を資産運用に回すことに対して否定はしません。
しかし、開始時は大きく減少してしまった場合でも今後の生活設計が大きく変化しないぐらいの金額(少額)に留めていくことが鉄則です。
また、収益率(利回り)も5%以上など大きな収益率を求めるのではなく、値動きが分かりやすいシンプルな投資商品で知識や経験値を積むことを最初の目的としてスタートさせましょう。
徐々に慣れてくることで、金額を増やすなど次の戦略を考えましょう。
山登りで例えると、未経験者がいきなりエベレストに登山することのないようにしてください。
これまで資産運用の経験が「ある」場合
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資産運用特有の値動きに慣れており、長年投資をされているのであれば、過去の大幅な下落時期も経験されていることでしょう。
荒波を乗り越えられてきた経験は老後の資産運用でも活かされます。
しかし、退職金が入ったことで資産運用の金額を増やす場合には注意が必要です。
そのことで、価格変動幅が大きくなるからです。
例えば、これまで200万円を資産運用に回していた方が1,000万円に増加させた場合、資産運用の金額が増えれば増えるほど収益率も高くなります。
一方で一時的にも損失が発生するとなると含み損も含めた損失額が大きくなります。
上記に例で見ますと、-10%の含み損が発生している状況ですと、運用残高が200万円であれば-20万円ですが、これが1,000万円になると-100万円になってしまいます。
-100万円となると、目の前の100万円の札束が消えたわけではありませんが、数字上の値動きだけでそれが一時的であったとしても、精神衛生上よくありません。
また、多額の退職金は一生のうちに何度も支給されるものではありません。
したがって、現役時代と比べると、大きな損失を確定させてしまうような状況になった時には、その損失を取り戻す機会や時間が限られてしまうことも、頭の中に入れておきましょう。
自ら「選択・判断・行動」を
今後の勘定(生活設計)と感情(精神面)の2つのバランスとこれまでの経験を鵜吞みにしないことが重要です。
これまでの投資経験の有無に関係なく、資産運用は年代に関係なく必要な時代になってきていますが、「資産運用=全員が収益を得られる」ではありません。
必要以上に恐れる必要はありませんが、自らの足で「選択する・判断する・行動する」の3つを行いたいところです。(執筆者:CFP、FP技能士1級 岡田 佳久)