2年前に話題になった「老後資金2,000万円問題」。
その後、新型コロナウイルスの感染拡大により、話題になることはすっかり影を潜めました。
ただし、ライフプランを考える上では気になっている方もいるのではないでしょうか。
今、あらためて話題になった内容を振り返ってみましょう。
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目次
話題の発端はこの報告書
金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」が令和元年6月に公表されました。
老後資金の不足や公的年金の今後を中心に取り上げられたイメージがありますが、この報告書の目次を抜粋すると下記の内容でした。
・ 高齢社会を取り巻く環境変化(長寿化、単身世帯等の増加、認知症の人の増加など)
・ 基本的な視点及び考え方(資産寿命を延ばすことが必要など)
・ 考えられる対応(金融サービスのあり方、資産形成・資産承継制度の充実.金融リテラシーの向上、アドバイザーの充実、高齢顧客保護のあり方など)
そして、マスコミなどで大きく取り上げられることになった「老後資金2,000万円問題」の発端となった文面は次の部分ではないかと思われます。
(1)長寿化に伴い、資産寿命を延ばすことが必要
前述のとおり、夫 65歳以上、妻 60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では 毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1,300 万円~2,000 万円になる。
この金額はあくまで平均の不足額から導きだしたものであり、不足額は各々の収入・支 出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる。
当然不足しない場合もありうるが、これまでより長く生きる以上、いずれにせよ今までより多くのお金が必要となり、長く生きることに応じて資産寿命を延ばすことが必要になってくるものと考えられる。
金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」21ページより転載
老後破産や公的年金制度の破綻まで話が広がりマスコミでは騒がれましたが、報告書では、その部分を視点に当てたものではありませんでした。
老後資金の不足の根拠は?
報告書にも記載があった、老後の「毎月の不足額の平均は約5万円」ですが、総務省・家計調査報告での数値を根拠として計算しています。
高齢夫婦無職世帯の家計収支(2017年) 総務省・家計調査報告
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・ 実収入:20万9,198円(うち社会保障給付:19万1,880円・91.8%)
・ 総支出:26万3,717円(消費支出※:23万5,477円、非消費支出※:2万8,240円)
実収入-総支出=▲5万4,519円(毎月の生活費の不足)
※消費支出:食費、住居費、水道光熱費、交際費など生活を維持するための支出
※非消費支出:税金や社会保険料
総務省・家計調査報告の推移は?
この調査は毎年実施されています。
年によって変化はあるのでしょうか。
老後2,000万円問題の前
【高齢夫婦無職世帯の家計収支(2015年) 総務省・家計調査報告】
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・ 実収入:21万3,379円(うち社会保障給付:19万4,874円・91.3%)
・ 総支出:27万5,706円(消費支出:24万3,864円、非消費支出:3万1,842円)
実収入-総支出=▲6万2,326円(毎月の生活費の不足)
老後2,000万円問題の後
【高齢夫婦無職世帯の家計収支(2018年) 総務省・家計調査報告】
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・ 実収入:22万2,834円(うち社会保障給付:20万3,824円・91.5%)
・ 総支出:26万4,707円(消費支出:23万5,615円、非消費支出:2万9,092円)
実収入-総支出=▲4万1,872円(毎月の生活費の不足)
【高齢夫婦無職世帯の家計収支(2019年) 総務省・家計調査報告】
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・ 実収入:23万7,659円(うち社会保障給付:21万6,910円・91.3%)
・ 総支出:27万929円(消費支出:23万9,947円、非消費支出:3万982円)
実収入-総支出=▲3万3,269円(毎月の生活費の不足)
このように、調査を行った年によって不足額に変化があります。
この報告書を作成した直近の統計データが毎月5万円の生活費が不足していたのであって、もし、2019年の総務省 家計調査報告を用いた場合には、毎月3.3万円の赤字ですので30年間で約1,200万円の不足、言い換えると「1,200万円問題」になっており、どこまで注目されていたかは疑問であると言えます。
なお、最新の高齢夫婦無職世帯の家計収支(2020年)では、毎月の収支は1,111円の黒字になっています。
ただし、コロナ禍において支出が例年よりも制限されており、あくまで参考値でしかありませんので、注意は必要です。
この問題から知っておきたいこと
「老後資金2,000万円問題」が話題になった時に、元の報告書を確認することで、大騒ぎすることはなかったかもしれません。
今後も、マネー問題に関して、大きく取り上げられる話題も出てくるでしょう。
その時には、話の発端となったデータや内容を確認する必要があります。
話には尾ひれがついてしあうことはよくある話です。
そのことで、注目される話題を提供できるからかもしれません。
老後の生活資金の準備は必要ではありますが、世間に流されずに地に足を付けた状況で進めたいものです。(執筆者:CFP、FP技能士1級 岡田 佳久)