一般的な戸建住宅やマンションの売買であれば、無料査定で市場価値の把握が可能です。
しかし、多くの不動産はさまざまな個性があり、法律上の規制が特殊なものや事業用の不動産の価値は無料査定では十分に調査されません。
現在多くの不動産検索サイトで無料査定サービスが提供されていますが、その利用を誤ると思わぬ見落としや判断ミスから大きな損失を被ることがあります。
無料査定と有料鑑定の違いを確認し賢く活用してみましょう。
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目次
無料の不動産価格査定とは
無料査定を行うのは宅建業者(宅地建物取引士)が行います。
その目的は不動産の取引に関して仲介を行う場合には、取引価格の根拠となる資料を提供しなければならない、と宅地建物取引業法で取り決められているからです(宅地建物取引業法第34条の2第2項)。
つまり不動産業者は、売主と買主の取引がうまくいくようにアドバイスをする一環として価格の情報を提供します。
そうなると、ネット上では契約の当事者でなく、誰に対しても査定無料にしていることが不思議に思えます。
不動産の価格を査定してみたいと思う人は、やがて不動産を売買したいという意思がある潜在的顧客であると解釈して、不動産業者はサービスを提供しているのです。
不動産業者がその報酬を得ることができるのは、不動産仲介料によってのみなので、この価格査定のサービスを切り離して、料金を得ることはできません。
このように不動産業者が無料で査定を行うのは、法律上仲介料以外で料金を得ることができないからなのです。
有料の不動産価格査定とは
有料の価格査定は一般に不動産鑑定といい、それを行うのは不動産鑑定士です。
不動産鑑定業者(不動産鑑定士)は不動産鑑定業法に基づき、他人の求めに応じて報酬をいただいて継続的に不動産の価格調査を行います。
そして、意外に知られていませんが報酬をもらって不動産の価格査定を行えるのは不動産鑑定士だけなのです。
不動産鑑定業者が価格査定を行うのは、売買のために限りません。
むしろ売買よりも相続や訴訟など、不動産の価格に対するもめ事が生じて、それに対する客観的な判断が必要な場合に多く行われます。
考えてみれば、不動産の売買で意見が合わなければ売買をやめればいいだけですが、相続などはもめたといっても簡単に親族の縁を切れるわけではありません。
当事者が納得できる資料が必要となり、そのために不動産鑑定が活用されるのです。
不動産鑑定費用は15万円から25万円が相場といわれますが不動産の複雑さや手間暇の違いなどでその料金も変わります。
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無料と有料の選び方
不動産の価格査定にあたり以下のような場合に注意して無料か有料か慎重に選ぶ必要があります。
(1) 不動産の査定を行う目的は何か
相続や訴訟の場合には無料よりも有料の鑑定評価を利用すべきです。
不動産売買に関する場合は、無料の査定でも問題なく、不動産業者は親身に対応してくれます。
裏を返せば、売買につながらないような相続や訴訟関係で価格査定を行うことは、不動産業者にとってメリットはないので注意が必要です。
争点の主要となる不動産の価格に対する判断が無料で行われる場合には、その内容の検証や検討が十分にできない可能性もあり、間違った判断・情報が提供されても、無料の場合はその責任を追及するのも難しいです。
これらのリスクを考慮すればむしろ有料で得られる安心感のほうが価値が高いと考えられます。
(2) 不動産のタイプは事業用か
法人の事業用資産の場合は、有料の鑑定評価を利用すべきです。
事業用は個人用の戸建住宅やマンションとは異なり、不動産それぞれの個別性が強いです。
場合によっては何万平方メートルの土地や何十棟もある建物の場合もあり、物件の確定さえも難しいこともあります。
そのような理由から無料で査定することに難色を示す不動産業者もいます。
従って物件のタイプが典型的な個人向けならば無料査定でもいいですが、法人の場合には 有料の鑑定評価の利用が望ましいです。
(3) 査定のおける想定があるか
現状と違う状態を想定して不動産の価格を調査する場合、有料の不動産鑑定を利用すべきです。
不動産が第三者間で取引されるのは、「土地」だけか「土地と」が中心で、「建物だけ」という取引はなく、実際には借地権などの土地の利用権も一緒でなければ建物を利用はできません。
しかし、相続や裁判ではむしろ土地と建物を分けて価値判断をする場合や、建物が存在しているのに、存在していない状態を想定して価値判断することが多いです。
このように現状と違うさまざまな想定条件を付けた価格査定は有料の不動産鑑定でしかできないと思います。
これら以外にも不動産には複雑な規制があるとか権利関係が交錯していることがよくあります。
得するために選んだ無料の不動産価格査定が、適正な価格が反映されていない場合には逆に大きな損失を被ることもあるので、利用するわれわれがその無料でできる範囲を理解しておく必要があるといえます。(執筆者:田井 能久)