スポーツやコンサートのチケットを購入したりイベントへ入場したりする際、マイナンバーカードを活用した本人確認を行うことが政府により検討されているようです。
本人確認のためにマイナンバーカードを提出させることで、高額転売防止の実効性をあげるものです。
人気のコンサートや舞台、スポーツイベントなどのチケットを業者や個人が買い占め、フリマアプリやオークション、チケット転売サイトなどで定価を大幅に上回る価格で販売する高額転売行為は、法律で禁止されているにもかかわらず、なお活発に行われているという背景があります。
目次
転売禁止規制
チケットの高額転売行為については、これを直接規制する法律があります。
この法律は、正式名称を「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」、略称を「チケット不正転売禁止法」(以下略称で記載します)といいます。
まだ新しいもので、平成30年12月14日に平成30年法律第103号として公布され、令和元年の6月14日から施行されています。
この法律が施行されるまで、チケットの高額転売には何の法的問題もなかったというわけではありません。
従来から各都道府県の迷惑防止条例ではいわゆるダフ屋行為についての規制は存在していました。
また、チケットの転売に反復継続性があったものが古物営業法違反(無許可営業)とされた事例もあります。
比較的最近の事例では、神戸地裁の平成29年9月22日判決が詐欺罪を適用して処罰しています。
この事例では、営利目的の転売禁止コンサートチケットについてチケットの抽選販売予約申込みをしたことが、営利目的転売の意思を有していないとの意思表示を含むとして、申し込みが販売担当者らを欺く行為に該当するとされています。
法律の内容
チケット不正転売禁止法は全9条からなる比較的短い法律で、直接にチケットの高額転売や高額転売のための入手を禁じています。
具体的な禁止行為、罰則は、それぞれ以下のように定められています。
禁止行為
特定興行入場券の不正転売(3条)
特定興行入場券の不正転売を目的とした特定興行入場券の譲り受け(4条)
特定興行入場券とは、コンサートや舞台、スポーツイベントのチケットのことですが、全てのチケットが該当するわけではなく、
- 日時・場所や座席、入場資格者などが指定されていること
- 主催者の同意がない有償譲渡が禁止されていること
など、一定の要件のものだけが該当します。
「特定興行入場券の不正転売」とは、興行主の事前の同意を得ない特定興行入場券の業として行う有償譲渡であって、興行主等の当該特定興行入場券の販売価格を超える価格をその販売価格とするものです(2条の4)。
不正転売にあたるかのポイントは、「業として」「有償譲渡」「販売価格」です。
同様の行為を繰り返したり、副業として行おうとするような場合は、反復継続の意思をもって行うものとして「業として」にあたる可能性が出てきます。
仮に「業として」にあたっても、無償(ただ)で譲ったり、主催者の販売価格よりも安く譲る場合は問題ありませんが、販売価格を超えて譲る場合は問題となります。
罰則
一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金、又はこれの併科(9条)
有罪とされた事例(大阪地裁令和2年8月27日判決)
チケット不正転売禁止法は、施行されてから現在まで3年半と新しいものではありますが、既にこの法律により、アイドルグループの公演チケットの不正転売事例、プロ野球入場券の不正転売事例など、各地で転売行為が摘発されているニュースがみられます。
チケット不正転売禁止法について全国で初めて摘発され、有罪判決が出たのが大阪地方裁判所の令和2年8月27日判決です。
人気アイドルグループ「嵐」の転売されているコンサートチケットを複数入手し、パソコンやプリンターを用いて作成した偽造身分証明書を利用して公演に入場し、自分が使わなかった残りのチケットは転売し、得た利益をチケットの購入代金に充てていたというものです。
転売したチケットについての主催者の販売代金は判決文からは不明ですが、業として譲渡を行っていたことが認められており、販売価格を超える4万円での譲渡行為、13万3,000円及び12万5,000円での譲渡行為がチケット不正転売禁止法が禁止する不正転売行為とされました。
この事例では、チケット不正転売禁止法違反だけではなく、公演への入場に際して偽造身分証を作成し、利用した点が、有印私文書偽造・同行使罪にも該当するとされたため、
が言い渡されています。
転売も、転売者からの購入もしない
アーティストやアイドルなどの熱心なファンとして自分ができるだけいい席を取るためにチケットを複数入手し、一番いい席のチケットを自分が実際に使い、使わなかった分のチケットだけを売るという行為は、転売による利益だけを目的とするものではなく、罪の意識を持ちにくいものなのかもしれません。
しかし業として行う実態があったり、主催者の販売価格よりも高額で使わなかった分のチケットを譲渡する場合は、チケット不正転売禁止法の禁止する不正転売にあたりうる可能性があるものです。
チケット不正転売禁止法の目的は、文化庁のホームページにあるように、興行入場券の適正な流通を確保し、もって興行の振興を通じた文化及びスポーツの振興並びに国民の消費生活の安定に寄与するとともに、心豊かな国民生活の実現に資することなのですが、熱心さゆえのファンの行為であっても、チケットの適正な流通は阻害されますし、高額でしかチケットを購入できなくなる人が出てくることで、興業、文化やスポーツの振興、国民の消費生活の安定も実現できなくなります。
転売をしないだけではなく、転売が疑われるチケットの購入をしないことも重要です。
チケットのインターネットにおける転売トラブルについて全国消費者センター等に寄せられる相談は増加の傾向にあるようで、これに関して、令和4年8月に独立行政法人国民生活センターからも注意喚起がされています。
参照:国民生活センター “推し”に会えない!?転売チケットの購入トラブルが急増中!
高額の代金を支払ったのに入場できない
代金を払ったのにチケットが手に入らない
≪画像元:国民生活センター(pdf)≫
インターネットを利用すると匿名でも取引が完了でき、他人の取引履歴も見られる、昔よりも取引を行う心理的ハードルは低くなっています。
しかし、不正な高額転売は法律で規制されているものであること、購入においても多数のトラブルが発生しており注意喚起がされていることは知っておく必要があるものです。(執筆者:弁護士 古賀 麻里子)