新年度が始まる4月になると、賃金や物価の変動率を元にして、国民年金の保険料は金額が改定されます。
2023年度の国民年金の保険料は、前年度より月70円ほど減って、月1万6,520円という結果になりました。
国民年金の第1号被保険者(国内に住む20歳以上60歳未満の自営業者、フリーランス、無職者、学生など)は、納付書や口座振替などにより、この金額の保険料を各人が納付する必要があります。
一方で国民年金と厚生年金保険に同時加入する、次のような第2号被保険者は、各人が国民年金の保険料を納付する必要はありません。
・ 65歳未満の厚生年金保険の加入者(20歳未満も含む)
・ 公的年金の保険料を納付した期間などが原則10年に満たないため、国民年金から支給される老齢基礎年金を65歳から受給できない、65歳以上の厚生年金保険の加入者
また第2号被保険者に扶養されている、年収130万円未満の配偶者(20歳以上60歳未満)のうち、所定の届出によって第3号被保険者になった方も、納付する必要はありません。
その理由として給与から控除された厚生年金保険の保険料は、その一部が第2号被保険者と第3号被保険者の、国民年金の保険料に変わるからです。
このように第3号被保険者は国民年金の保険料を、各人が納付しなくても良いのですが、第3号被保険者として認められた期間は、月1万6,520円の保険料を納付した場合と、同様の取り扱いになります。
目次
免除ごとに老齢基礎年金の金額に対する反映が変わる
国民年金には収入がない方や、収入が低下した方を対象にした、次のような免除などがあるため、この要件を満たす場合には、保険料の全部または一部を納付する必要はないのです。
(1) 申請免除と納付猶予
所定の申請を実施すると、全額免除、一部免除(4分の3免除、半額免除、4分の1免除)、納付猶予(50歳未満が対象)の、いずれかを受けられる制度です。
この中のいずれを受けられるのかは、申請した本人だけでなく、その配偶者や世帯主の、前年(1~6月の申請は前々年)の所得によって変わります。
また納付猶予を受けた期間には、消費税などを税源にした国庫負担がないため、追納(保険料の後払い)しないと、老齢基礎年金の金額には反映されないのです。
一方で他の免除には国庫負担があるため、追納しなかった場合でも、次のような割合で老齢基礎年金の金額に反映されます。
・ 全額免除:月1万6,520円を納付した場合の「2分の1」
・ 4分の3免除:月1万6,520円を納付した場合の「8分の5」
・ 半額免除:月1万6,520円を納付した場合の「8分の6」
・ 4分の1免除:月1万6,520円を納付した場合の「8分の7」
なお納付猶予を受けた期間は、老齢基礎年金を受給するために必要な原則10年の受給資格期間の中に含めても良いため、未納期間よりはメリットがあるのです。
(2) 学生納付特例
収入がない学生や、収入が低い学生の方は (1) ではなく、この制度を利用する必要があります。
これを受けた期間については、国民年金の保険料を納付する必要はないのですが、納付猶予と同じように国庫負担がないため、追納しないと老齢基礎年金の金額に反映されません。
また学生納付特例は申請者である学生の、前年の所得が審査対象になるため、世帯主である親が高収入であっても影響を受けないのです。
(3) 産前産後期間の免除
所定の届出を実施すると、出産予定日または出産日が属する月の前月から4か月間(多胎妊娠の場合は最大で6か月間)の保険料の納付が、全額免除される制度です。
この産前産後期間の免除を受けた期間は、月1万6,520円の保険料を納付した場合と同様の取り扱いになるため、他の制度と違って老齢基礎年金は減額しないのです。
以上のようになりますが、 (3) 以外の免除などを受けると、その期間分だけ老齢基礎年金が減額します。
そのため将来に受給する老齢基礎年金を減らしたくない場合には、免除などを受けない方が良いのです。
また次のような3つのケースに該当する場合にも、免除などを受けない方が良いと思います。
ケース1:付加年金、国民年金基金、iDeCoを継続したい場合
第1号被保険者が国民年金の保険料に加えて、月400円の付加保険料を納付すると、次のような金額の付加年金が、老齢基礎年金の上乗せとして支給されます。
・ 200円×付加保険料を納付した月数(最大で年9万6,000円)
このように付加年金の金額は決して多くはないのですが、受給開始から僅か2年で元がとれるのです。
もっと多くの上乗せが欲しい場合には、国民年金基金やiDeCo(個人型の確定拠出年金)に加入して、これらの掛金を拠出した方が良いと思います。
付加年金と国民年金基金は併用できませんが、付加年金とiDeCoは掛金の金額によっては、併用が可能になります。
これらを利用する時に注意すべきなのは、(1)や(2)を受けた期間は、付加保険料を納付できなくなったり、国民年金基金やiDeCoの掛金を拠出できなくなったりする点です。
そのため付加年金、国民年金基金、iDeCoを継続したい場合には、所定の要件を満たす場合でも、 (1) や (2) を受けない方が良いのです。
一方で(3)を受けた期間は付加保険料を納付したり、国民年金基金やiDeCoの掛金を拠出できたりするので、他の制度とは取り扱いが変わるのです。
ケース2:同居の家族が社会保険料控除を受けたい場合
国民年金の保険料を納付すると、確定申告や年末調整の際に社会保険料控除を受けられるため、納付した金額分だけ課税所得が低くなります。
また所得税や住民税は課税所得に対して、それぞれの税率を掛けて算出するため、国民年金の保険料を納付すると節税になるのです。
国民年金や後期高齢者医療などの、社会保険料控除の対象になる制度の保険料を、同居する家族が代わりに納付した場合、その方が社会保険料控除を受けられます。
例えば妻の保険料を夫が代わりに納付した場合、または子供の保険料を親が代わりに納付した場合には、夫や親が確定申告や年末調整の際に、社会保険料控除を受けられるのです。
そのため同居する家族が節税のため、社会保険料控除を受けたい場合には、所定の要件を満たす場合でも、(1)や(2)を受けない方が良いのです。
ケース3:年収の見込額が130万円未満になりそうな場合
例えば年の途中に会社員を辞めて無職になった方の、1月から退職までの給与の合計が、130万円以上という場合があると思います。
このような条件に該当する方でも、配偶者が厚生年金保険に加入しており、かつ退職後は配偶者の扶養に入った場合には、第3号被保険者になれる可能性があります。
その理由として第3号被保険者に該当するか否かは、暦年(1~12月)の年収ではなく、配偶者の扶養に入った日以降の、将来の年収の見込額で判断するからです。
こういった事情があるため、将来の年収の見込額が130万円未満になりそうな方は、第1号被保険者に種別変更して(1)を受けるのではなく、第3号被保険者になるための届出を行った方が良いのです。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)