2024年7月30日、厚生労働省の「第17回社会保障審議会年金部会」が開催されました。
今回、見直しの対象となったのは、配偶者と死別して遺族厚生年金の対象となった男女です。
ただし、18歳以下(高校卒業まで)または障害のある20歳未満の子どもがいるケースは、今まで通りの遺族厚生年金が支払われます。
問題は、子どものいないケースです。
この見直し案については、「遺族厚生年金がもらえなくなる」などSNS上で取りざたされています。
ただし、間違った内容が多いので、この見直し案について説明をします。
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遺族年金とは
遺族年金とは、年金を受給中の方や国民年金や厚生年金保険に加入中の方が亡くなったとき、条件を満たしていれば遺族に支給される年金です。
「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類があり、それぞれ条件が異なります。
遺族基礎年金は、国民年金の加入者や老齢基礎年金を受け取る資格のある方が亡くなったときに、遺族へ支給される年金です。
受け取れる対象者としては、子どものいる配偶者または子どもになります。
つまり、子どもがいなければ配偶者であっても遺族基礎年金は受け取れないということです。
また、子どもが成長して対象でなくなると、子どもも配偶者も対象外となり遺族基礎年金は支給されなくなります。
遺族厚生年金は、厚生年金保険の加入者や老齢厚生年金を受け取る資格のある方、あるいは障害厚生年金を受給中の方が亡くなったときに、遺族へ支給される年金です。
支給される金額は、亡くなった方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3です。
遺族厚生年金の問題点
遺族厚生年金の問題点は、男女に受給要件の差があることです。
夫を亡くした子どものいない妻は、30歳未満の場合、5年間の有期での給付になり、30歳以上であれば終身となります。また、夫の死亡時に40歳~65歳未満で子どもがいない場合は、遺族厚生年金の他に中高齢寡婦加算が上乗せされます。
これに対して、妻が死亡した夫は子どもがいない場合、55歳以上にならないともらえません。
さらに、女性が受給できる中高齢寡婦加算もありません。つまり、男女によって差があるということです。
この差を縮小しようというのが、今回の見直しのポイントです。
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≪画像元:NHK≫
現在の年金制度
現在の年金制度は、夫は働いて妻は専業主婦というケースを想定して設計されています。
つまり、夫が亡くなると妻は収入がないため、生活に困ると考えて遺族厚生年金を手厚くしました。
反対に夫は、自分自身が働けば収入を得られるので生活に困ることはないというわけです。
しかし、現実は共働きが増えて専業主婦は減っています。また、男性でも病気で働けないとか事情を抱えている人もいます。
令和4年の総務省の「労働力調査」によると女性の就業率は53.0%となり、毎年増え続けています。
特に25~44歳の働く女性の比率は79.8%と15~64歳の男性の就業率84.2%と比べても、働く女性が多くなったことがわかります。
見直し案のポイント
見直し案の中身は、男女差をなくすことを第一としています。
そこで、大きな見直しは、有期の遺族厚生年金と中高齢寡婦加算についてです。
5年間の有期の遺族厚生年金
男女ともに受給できるようにしますが、最終的には一律60歳未満とします。
現在受給の要件である子どものいない30歳未満を40歳未満に引き上げます。
その後、20年かけて60歳未満まで段階的に引き上げます。
段階的ではありますが、夫婦どちらが亡くなっても、5年の有期給付が受けられ男女差がなくなります。
中高齢寡婦加算
遺族厚生年金に上乗せされて支給する年金です。
現在夫が死亡した時に40~64歳の妻に支給され、金額は2024年現在61万2,000円です。
しかし、妻には加算されるのに、夫には加算されないということで制度の公平性にかけるということから廃止の方向です。
遺族厚生年金の大きな見直し案は2つです。現在の社会に合う男女差のない制度へと変わっていく予定です。
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≪画像元:NHK≫
この見直し案は審議をつくして時代に合う制度へ
「遺族厚生年金が5年で打ち切り」など世間を騒がせていますが、急に来年から打ち切りになるわけではなく、20年かけて徐々に配偶者の死亡時に60歳未満の場合の遺族厚生年金は全て5年の有期になります。
また、18歳以下または障害のある20歳未満の子どもがいる場合は、現行のまま終身です。
年金を受給している高齢になって配偶者を失くした場合も遺族厚生年金は5年の有期ではなく、終身で受取れます。
注意してほしいのは、この見直し案は確定ではなく、時間をかけて審議をつくして時代に合う制度に代えていくものです。
遺族年金については、今後も審議会の内容について、新聞でもテレビニュースでのよいので注視してきましょう。