銀行員が起こす不祥事が大きな問題になっている昨今ですが、いまだからこそ皆さんに知って欲しいことがあります。それは、銀行員がお金に関わるからこそ禁じられていることがあるのです。
今回は銀行員である私が、自分自身をもう一度戒める意味でも解説させていただきます。

やってはいけないこと1.自分一人で金融機関になるな!~浮貸し
これは銀行員個人のお金を融資して金利を受取る、というのが一番わかりやすいパターンです。サイトで浮貸しを検索すると共通するのが「その地位を利用して」「自分あるいは第三者の利益のため」銀行を通さず貸付などをするという点です。

やろうと思えば銀行員に浮き貸しはカンタン?
やろうと思えば私も浮貸しはできます。ですが、もちろん、絶対にしません!禁止されていますし、絶対にバレます。また浮貸しをするにも協力者(つまり共犯者)が必要になりますが、そこまで他人を信じられません。
過去、浮貸しでは支店長が自分で借り入れた巨額の資金を使って融資の媒介、つまり自分一人で金貸し(金融機関とは表現したくありませんので)になり、手数料として不当に利益を得た事件がありました。
また別の事件では信頼を寄せてくれたお年寄りの預金を他人に貸して(浮貸し)、回収ができなくなり追い詰められた挙げ句そのお年寄りを殺害した銀行員もいました。人間とは弱いものです、「やろうと思えばできる」と言いましたが、どれだけ金融システムが発達しセキュリティーを強化しても、職員が悪意を持てば浮貸しはできてしまうのです。
追い詰められて浮き貸しをしてしまう場合も
また、最近では本来の「自己又は第三者の利益を図る」目的とは違うケースが増えています。それは相談ごとへの対応放置と隠蔽が原因で、金融機関職員が浮貸しをする事例です。
融資業務の金融マンは相談ごとを常に抱えています。言うまでもなく「お金を貸して!」というものです。
しかしすべてのお客様に融資ができるわけではなく、断わらなければいけない場合も多いのです。
融資を断り切れず、困り果てた職員が自分の預金、あるいは借金をしてウソの融資をする、というケースが特に若い職員で増えています。職員自身は金銭的に何の利益もありません。借金しているなら利息で損しているかも知れません。しかしウソの融資をすることで追い詰められた状況から脱出できたのですから、「金融機関の職員がその地位を利用して、自己の利益を図った」浮貸しになります。
では、なぜ追い詰められるのか?次項で詳しく説明します。
やってはいけないことその2.一人で握りつぶすな!~相談ごとへの対応放置と隠蔽
融資業務に携わる金融マンが融資することができずに、お客様の依頼を断わらなければいけない場合には非常に神経を使います。外部の人には理解しにくいと思いますが、金融マンという人種はサービス業でありながら「お金を貸して!」と頼まれているのです。顧客が頭を下げるサービス業は金融業くらいかも知れませんので、その立場は実に微妙です。
仕事の抱え込み~銀行員の場合は「被害」が大きい
言いにくいことなので後回しにしていくと時がたち、事態はどんどん悪くなるばかり。最初は頼みごとをしているので物腰が柔らかかった顧客も段々といらだってきます。(当然です)
対応が遅れ、一人で抱え込んだ銀行員は「今相談中です」「明日には結論を出します」などとその場を取りつくろう返事を繰り返すばかりで、融資希望の日が近づくといよいよ追い詰められてしまいます。たとえば「融資証明書」などといったウソの書類を偽造する者や、「浮貸し」に手を染める人間も出てきます。
損害を被った顧客から賠償請求されれば勤務する金融機関も対応に追われることになり、当然ですが本人は懲戒解雇されます。また浮貸しは最悪犯罪になりますし、書類偽造も犯罪になる可能性があります。顧客と金融機関双方から損害賠償請求され、告訴されることもあるので対応放置は危険なことです。
ある銀行員の事例
とはいえ金融マンなら誰もが抱える悩みであり、もちろん上手く(あるいは運良く)対処できただけかも知れず、私自身にも苦い記憶、胃が痛くなる嫌な思い出はいくつもありますので、こうした職員を一方的に責めるつもりはありません。
しかし、対応放置と隠蔽は絶対にいけないことです。これからお話しするのは元後輩の例です。
住宅ローンの融資相談を受け、審査が進まずに対応を放置して、建売住宅を申込む日が来ました。
住宅ローン融資を受けられるという証明書が必要になり、後輩は本物の証明用紙に支店長しか押すことができない印鑑を勝手に押してお客様に渡しました。申込み手続きが進んで家の鍵を受け取る日、お金を振り込まなければなりませんのでお客様が来店されましたが、後輩は固まったまま何も言葉を発することができなくなりました。
ウソの証明書を発行してごまかしましたが、融資はできていないので当然お客様は家を手に入れることができずに大騒ぎとなりました。
しかし、一番不幸なのはもちろんお客様です。後輩のことを信じて迎えた家を受け取る日、普通なら人生の中でも晴れがましく嬉しい一日が最悪の結果になったのです。
後輩は会社を去りました。犯罪に問われることは無かったのですが、私は今でも彼を許すことはできません。
やってはいけないことその3.金融マンの家計はガラス張り
「客と比べて半分以下の、ウソみたいな低金利で銀行員は住宅ローンを借りている」
「銀行員は社内預金で金利も高い」
「保険会社の社員は、自分の生命保険の配当がものすごく良い」
これはお客様と接してきた中で実際に聞いたことばかりですが、そんなことはありません。事実はむしろ逆です。
住宅ローンはお客様より高金利
たとえば住宅ローンでは、金利ディスカウントなどほとんどありません。お客様のように他の銀行と比べて競争させることなどできるわけがありません。お客様より厳しい条件で住宅ローンを借りている銀行員ばかりです。
中には他の金融機関で住宅ローンを借りる「強者」もいるようですが、これはいずれバレます。クビになることはありませんが、私の勤務する銀行では他で住宅ローンを借りたことがバレた場合、借り換えする(借り換えさせられる?)のがほとんどです。また彼らは出世が遅くなります。金融マンでありながら、ライバルである他社で融資を受ける思考が、会社から見れば「不適格」で、私もその判断は間違っていないと思います。
銀行員の家計は「ガラス張り」
上記した住宅ローンは極端な話しですが、金融マンは自分の家計、預貯金、借金などガラス張りでなくてはつとまりません。これは上記した浮貸しや対応放置につながる不祥事の未然防止、という目的で職員のお金に関することは会社が把握していなければ安心できないのです。
銀行員に限らず、証券会社でも保険会社でもお金に関わる仕事に従事する金融マンが犯罪に手を染める理由は、やはりお金がらみが一番多いのも事実です。「金に困って目の前にある金につい手を出してしまった」下世話な表現かも知れませんが、金融マンにはそれができてしまいますし、だから絶対にしてはいけません。
会社から疑われたくなければ、全部見せる覚悟が必要ですし、見られても困らないようにしておくべきです。私は会社からすべて見せろと言われたことはありませんが、隠すほど持っていないのも恥ずかしながら事実ですし、悪いことはしていないと胸を張って言えるので、いつでも見せることができます。
まとめ
今回は銀行員がやってはいけないことについてお話ししました。皆さんには参考とはならないかも知れません。しかし、皆さんのお金に関わる銀行員の陥るかも知れない闇を知っていただきたくてこの記事を書きました。お金は大事、だからお金は怖い、その事実は変わりません。