今後も更なる増税と年金削減が避けられない日本経済

  2011年末、当時の野田首相が、「逃げるつもりはない。逃げたらこの国はどうなるのか」と言って退路を断ってようやく、消費増税を柱とする社会保障と税の一体改革案がまとまりました。消費税率を2014年に8%、15年に10%へ、所得税の最高税率を40%から45%へ、相続税の控除額を5,000万円から3,000万円に縮小し、最高税率を50%から55%へ引き上げることを柱とした内容です。

  消費税の引き上げは経済情勢の好転を条件としていましたが、今年はアベノミクス効果で景気回復の兆しが顕著になってきているので、来年から消費税が引き上げられる可能性は高いと言えます。

  安倍内閣は「危機脱出内閣」と言っていましたが、過去5年間の円高・株安の影響で日本経済は疲弊しており、来年、消費税の引き上げが実現したとしても、日本国家の危機的な財政状況が首の皮一枚でつながったに過ぎず、今後も更なる増税と年金の削減が避けられない情勢となっています。

  2004年の年金法改正で、当時の坂口力厚労大臣が「100年安心の年金を作った」と発言しましたが、わずか7年後に同じ厚労省が年金支給開始年齢を68歳~70歳に引き上げる案を提示したことで、100年安心の年金は脆くも崩れ去りました。

  学習院大学の鈴木亘教授の試算によると、現行制度のままでは、厚生年金は2033年に、国民年金は2037年に積立金が底を突いてしまうそうです。100年どころか20年強しか持たない、これが現行の年金制度の現状です。

自分の老後は自分で守らなければならない時代が来た

  2006年から社会保障審議会年金部会委員を務められた西沢和彦氏によると、厚生労働省は現行の年金制度について若い世代でも支払った保険料の2.3倍の年金が将来戻ってくると公表しているが、運用利回り4.1%、賃金上昇率2.5%など現実と乖離した前提で試算されており、一般会計の財政状況が一層深刻化するなかで、年金財政のみが100年安心などということはあり得ないと主張しています。

  実際の給付負担倍率は、単身世帯で0.5倍、夫婦世帯で0.8倍かそれ以下、すなわち、一生独身もしくは夫婦共働き世帯は支払った保険料の半分程度の年金が将来戻ってくれば良い方であり、専業主婦が優遇される夫婦世帯でも支払った保険料に対する元本割れは避けられない情勢となっています。

  2011年に厚生労働省が作成した社会保障と税の一体改革の原案は、2015年までに消費税率を10%まで引き上げ、70歳~74歳の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げ、基礎年金の支給開始年齢を68歳~70歳に引き上げるというものでした。

  その一方で、子育て支援や低所得者対策など給付拡充策も盛り込んだため、社会保障費は公費だけで2015年度に現在より3.8兆円増えることになってしまいました。費用が膨らむほど消費税の引き上げ幅も大きくなる問題からは目をそらし、社会保障を持続可能な制度にするという視点は、完全に抜け落ちています。

  日本の財政が危機的な状況であることは1990年代から明らかであったにもかかわらず、ここまで問題を放置してきたことで、今の現役世代が払わされる代償はあまりにも大きいと言わざるを得ません。

  内閣府調査によると、国民年金や厚生年金などの公的年金をもらえる額から支払った額を差し引いた生涯収支を世代間で比べると、1955年生まれ世代の収支は数千円のプラスに縮小し、それ以下の世代の収支はマイナスになることが分かりました。最も損をする1985年生まれは712万円の受け取り不足になるとのことです。1955年生まれ世代以下の人達は、自分の老後は自分で守らなければならない時代がやって来たと考えるのが賢明でしょう。