本題に入る前に、私が「ファイナンス」という考え方に傾注していった経緯を物語的に話たいと思います。前回、書いたように私は早期退職をし実家を継ぐ道を選びました。これを一言で表現すると、「証券からの逃避」ということであろうかと思います。証券営業に限界を感じていたところに早期退職の勧奨があり、手を挙げたのでした。

  その当時を今、振り返ってみると色んな出来事が蘇ってきます。1997年の消費税再引き上げ、アジア通貨危機、1998年の日本銀行法施行、日本版金融ビックバンスタート、ロシア財政危機から米LTCM破綻と激変の時代であったことを思い出します。

  この年は吉本佳生氏によると日本経済の特別な転換点として捉えられる時期なのです。今でいうデフレ時代の始まりでした。私の身の回りにも複雑な金融商品の登場、「金融工学」とかいう得体のしれないもの(文系出身の私には到底理解不可能)は未知との遭遇と思えたのでした。

  山崎元氏の言葉を借りれば、「分からないものには手を出さない!」だったのです。金融先物、デリバティブ、オプションなどを理解しようという気持ちより、それらを危ないものと決めつけ逃げ避けていたのでした。

  それから2~3年後のことと思いますが、私に転機が訪れたのです。一つの本との出会いでした。野口悠紀雄先生の「金融工学こんなにおもしろい」という題名の、文系の私にも解かりやすく、難しくないものでした。その時の感動を今でも忘れることができません。

「割引現在価値」とは

  さて、前置きが長くなりました。本題に入りましょう。今日のテーマは「割引現在価値」です。「割引」という言葉の通り、割り算を使って計算することを意味します。投資指標は割り算のオンパレードです。割り算を理解すればほとんどすべてがわかるといってもいいと思います。そして「現在価値」という意味が加味されます。モノの現在の価値です。

  特に金融においては、「キャッシュフロー」の現在価値が重要です。この「キャッシュフロー」とは将来のお金の受け取りと支払いのことです。

  この将来価値にお金の値段である「金利」から導かれる割引率(ディスカウントファクター)をかけることによって現在の価値に置き換える操作をします。将来受け取れる価値が、もしも現在受け取る事ができたら、どのぐらいの価値が持っているのか?これを表すのが「割引現在価値」です。

  ディスカウントファクターは数式で表すと 1/〖(1+r)〗^n r:金利、n:期間(年) 「金利」がプラスである限り、1より小さいので現在価値<将来価値になります。

  また、ここが重要ですが、将来のモノの価値と現在価値を比べ評価することが可能になるのです。この操作によって将来のキャッシュフローの値段が現在価値で評価できるのでどんなものでも交換可能になるという金融商品の基本概念の理解へと導きます。

  どうでしょうか?この割り算の関係式が頭の中にすーと入ってきますでしょうか?

  私の経験を申しますと大変難しいことでした。どうも、ハッキリと理解出来なかったことを覚えています。私は「割引現在価値」がわかることが「金融リテラシー」の第一歩であると同時に、ほとんどすべてではないかと思うようになりました。時間をかけてもいいですので、十分に理解するまで考え抜いてみてください。

「金融電卓」のススメ

  そこで、私の経験を紹介しましょう。文系の頭には少々荷が重いので「金融電卓」を使って計算してみることをお勧めします。この金融電卓を知ったのは今から数年前のことです。木村弘之亮先生の「HP12cによるときめきひらめき金融数学」という本でした。理系と文系という壁を感じ、諦めていたことが、わかったときの驚きはありませんでした。

  とにかく、金融電卓に数値を入力し、時間(n)、金利(i)、現在価値(PV)、年金(PMT)、将来価値(FV)の5つのキーを操作するだけで答えが出ますし、これらの変数の関係がわかってきます。難しいと敬遠していたものがあっという間に計算できることを知ってしまえば、ほとんど、専門家と同じ立場で物事を話し合える自分を発見できるでしょう! 自分で金融取引の判断ができるでしょう!

  この寄稿文を読んでくださっている皆様にも是非、味わっていただきたいと思います。自ずと関係式が頭に入ってくるようになります。不思議なことに!「金融リテラシー」は難しいものではありません。私が難解なものだと敬遠していたことは私の側の問題で決して理解不能ではないのです。一歩踏み込むキッカケが出来さえすれば新しい世界が広がっていくでしょう。自分で判断できる力を養うために!

  次回は野口悠紀雄先生の「我が国の年金計算の間違い」と、高橋洋一教授の「我が国の日銀の金融政策の失敗」という主張を題材に「割引現在価値」、「金利」のキーワードの重要性を確認したいと思います。