さて、「卵は一つの籠に盛るな」とは、分散投資の重要性を謳った有名な言葉ですが…。最近よく耳にするのは、

「リーマンショック時には分散投資をしていても意味がなかった」
「分散投資をしていれば、いかなる時も儲かると思っていたけど…全然違った」
「上昇しそうなアセットクラスに一点集中する方が得策ではないか?」

 等といったお話しです。

2008年度は極端でイレギュラーな年

 では、本当に分散投資には意味がないのでしょうか?

 それを考えるには、「リーマンショック」というイレギュラー性の高い出来事を考慮する必要があると考えています。というのも、リーマンショックのあった2008年度は、1年間で20%近くも円高に振れましたが、このような事は、これまで20年の間に一度もありませんでした。

 また、この間には各アセットクラスの相関係数が限りなく1に近づく、すなわち、日本株式も海外株式も海外債券もリートもコモディティさえも、ことごとく同じ方向に向けて下がってしまうということが起きました。これは、世界中の投資家が、ことごとく、リスク資産を売却し安全資産へ逃避するといった行動をとったためと考えています。

 このように、2008年度は、かなり極端でイレギュラーな動きがあった年であることは否めないからです。したがって、この期間を含む間に「分散投資」を行っていたとしても、確かに効果が感じられなかったことは無理もないものと思われます。

 振り返ってみますと…2008年9月のリーマンショック、翌月10月の世界同時株安以降の状況は、分散投資をしていた投資家にも、大きなキャピタルロスが生じる事態をもたらしました。国内株式、外国株式REIT、ドルは大幅に下落し、それまで堅調に推移をしていた外国債券でさえ、為替相場の急激な円高により大幅な下落に見舞われました。

 ポートフォリオ理論上、株価と債券の価格には負の相関性があり、異なる動きをしやすいので、株が下落しても、債券を組み合わせて保有していれば、ポートフォリオ全体としては大幅な下落は免れるなどと言います。

 しかし、世界同時株安が起きた当初、米国を中心に各国が協調して積極的な金融政策をとり、金利を引き下げたことで、海外債券の価格自体は上昇したものの、日本の投資家にとっては、為替が米ドルに対して円高に振れたため、海外債券ファンドのパフォーマンスは大幅マイナスとなるものが目立ちました。

「分散投資」の本当の意義は「痛恨の一撃」を避けること

 さて、そのようなイレギュラーな年となった2008年の1月から2008年12月末までの1年間の各資産クラスのパフォーマンスは、国内株式:約△41.8%、国内債券:約3.4%、外国株式:約△54.0%、外国債券:約△15.5%となりました。結果として、仮にこの4つのアセットクラスに均等に分散投資を行っていた場合のパフォーマンスは、マイナス約27.0%でした。

 つまり、分散投資をしていても、100万円が、27%下落して73万円になったというわけです。

 しかしながら、仮に国内株式だけに投資していた人は、41.8%の下落、外国株式だけに投資をしていた人は、54%も下落したことになります。

 現実的には全財産を国内株式、海外株式に投資している人はいないと思われますが、ここで筆者が申し上げたいことは、流動性資産、安全性資産も含めて、「分散投資」を行っていない(ある特定のアセットクラスに偏る)と、リーマンショックのようなイレギュラーなことが起きた場合、立ち直れないほどのダメージを受けてしまう可能性があるということです。

 そして、このような大きな損失を一度にしてしまうと、それを元に戻すエネルギーは非常に大きなものが必要になるということです。当たり前と言えば当たり前の話ですが、「50%下落したら、そこから50%戻しても元本には戻らない」のです。50%の下落を元に戻すには、2倍(100%)の上昇が必要なわけです。

 つまり、分散投資の意義は、マーケットという不確定・不安定なものの中で、「どのような相場状況であっても必ず勝てること」などではなく、「仮に100年に一度と言われるようなイレギュラーな相場状況であっても、大きな損失を避ける」、「決定的なダメージを食らうな!」といったことだと考えています。

分散投資のメリット

 また、分散投資のメリットとして、「リスクが低減できるから」ということは、概念的には理解している向きは多いと思います。では、そもそもそのリスクを表す数値である、「標準偏差」の意味するものは、何だったでしょうか?

 それは、あるバラついた投資結果を正規分布曲線で示した場合、統計学的に、全体の約68%が平均値±1標準偏差の間にあり,約95%が平均値±2標準偏差の間に入るということでしたよね。

 つまり,標準偏差(シグマとも言います)の意味は、100個のデータの内、およそ68個が平均値から±1シグマの間に入り、およそ95個が平均値から±2シグマの間にあることを示すバロメータということなのです。

 そう考えた時に、分散投資に、リスクを減らす、すなわち、バラつき具合を抑える効果があり、それが決定的なダメージを避けるための方策であるならば、やはり分散投資は重要という結論が見いだせるのではないでしょうか?

 「卵は一つの籠に盛るな!」

 確かに一つの籠に盛った卵が全部ぐしゃぐしゃになって取り返しがつかなくなったことを想像した時、この言葉の意味が、スムーズに腑に落ちてくるかもしれません。(執筆者:阿部 重利)