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投資信託の相続に潜む落とし穴 実際の事例で解説

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投資信託の相続に潜む落とし穴 実際の事例で解説

 今年2月に、筆者の相談依頼者Kさんのお母様が亡くなられました。享年80歳代後半とのこと。お母様が残された主な財産は、お住まいの土地・家屋、そして金融資産として預貯金およそ800万円と、投資信託(国内公募投信のみで複数銘柄、取得時の価額で約3000万円)でした。。

 配偶者であるお父様は、10年前にすでに他界されておりますので、推定相続人は、被相続人の子のみで、ご長男であるKさんを含めて3人おられるとのこと。遺言書は残されていないため、相続人の間で遺産分割協議を行い、相続財産をおおむね3等分にしてそれぞれが相続してゆこうと合意がなされた様です。

 相続税申告期限まで、まだ期間はありますが、早めに遺産の現況を確認しつつ財産目録を作成する過程で、Kさんが筆者のFP事務所へご相談にお越しになったというわけです。

 その際、ご相談されたテーマの一つを本コラムで紹介します。

投資信託の相続はどうしたらいいのか?

「相続財産の中にある投資信託ですが、母親が購入した時より、現在の基準価額が大幅に下落しています。相場の先行きは分からないが、ある程度価額が戻るまで、投資信託は全てKさんが相続および管理をし、その後売却・換金して兄弟3人でおおむね均等に分けようと思いますが、税金上、何か問題はありますか?

 というのが相談内容です。

 筆者がKさんへアドバイスした内容は以下の通りです。尚、読者に分かり易い様、投資信託の価額を示しているが、実際の金額とは異なる架空の数値を用いている。

1. 被相続人の取得価額は税務上、関係がなくなる

 投資信託のもともとの取得価額は、お母様が購入された時の価額3000万円だが、相続財産として投資信託を引き継ぐ場合、相続時(お母様が亡くなった日)の基準価額が、相続税算定上の評価額となります。つまり、投資信託を相続財産として捉えた場合、もともとの取得価額は関係なくなる。お母様が取引されていていた金融機関に、相続発生の連絡をされると同時に、相続時の価額を尋ね、まずは確認すること。

2. 相続後の売却価格次第では、相続人に所得税がかかる

 Kさんが、相続する投資信託の取得価額は、お母様の購入された時の価額3000万円を引き継ぎます。その後、相場の回復とともに価額が上昇し、3000万円を上回った時点で売却をすれば、Kさんに譲渡益および、それに伴う所得税・住民税が発生する。

 つまり、投資信託がお母様の取得された時の価額3000万円をいまだに下回っている価額でKさんが売却すれば、所得税は発生しませんが、3000万円を超えた価額で売却すれば、その上回った差額すなわち譲渡所得に対して、所得税と住民税を合わせた20%の税負担が発生します。

3. 投資信託を売却し贈与すれば贈与税が発生する

 お母様の取得価額3000万円に戻るまで、相場は回復してはいないが、Kさんは相続した投資信託をすべて売却し、2400万円の資金が用意できた場合を仮定します。これを遺産分割の一環として、弟Lさんと妹Mさんの2人へ、それぞれ、800万円ずつ渡せば、Lさんおよび、Mさんに対し贈与したことになる。

 つまり、800万円を受け取った、LさんとMさんには、贈与税の支払い義務が発生する。贈与税の基礎控除110万円を考慮した上で、贈与税額を単純計算すると、Lさん、Mさんともに226万円(※)の税負担となる。

※計算例
(贈与財産800万円-基礎控除額110万円-控除額125万円)×40%=226万円

 アドバイスの内容を要約すれば、投資信託を相続することになった場合、被相続人の取得価額は相続人が引き継ぐ(相続人の所得税を考える上で)ため、その価格まで値が戻るのを待ってから投資信託を売却したいお気持ちはよく理解できます。

 ただし、投資信託の相続財産評価は、たとえ含み損失を抱えていても、あくまで相続発生時の時価となること、また相続税が発生する場合(*注釈)、その納税資金を確保するのであれば、相場次第で価格がさらに下落する可能性がある投資信託を、被相続人の取得価額まで値が戻るまで待つことは必ずしも得策ではありません。

 また、Kさんが相続した投資信託の売却資金を、そのまま兄弟3人で均等に分ける際、弟Lさんと妹Mさんに贈与税の支払い義務が発生することには留意が必要です。尚、もしKさんが手持ちの預貯金にゆとりがあり、上記の例にあるようなLさんとMさんへ分けた与える資金1600万円を、今回相続する財産とは別に保有されているのであれば、遺産分割協議において代償分割する旨を明記し、Kさんから、LさんとMさんへ別途、資金を渡すことができれば、お2人に贈与税がかからなくすることも可能です。

 尚、相続税に限らず、所得税や贈与税の個別具体的な相談は、税理士や最寄りの税務署へ相談、あるいは、国税庁のHP「タックスアンサー」を活用することをお勧めします。(執筆者:完山 芳男)

*注釈
今回のケースでは、相続人がKさんを含め3人であることから、相続税の基礎控除は8000円万円(基礎控除の計算は、5000万円+1000万円×相続人の数となる)と計算できます。よって、お母様の残された土地・家屋と金融資産といったすべての相続財産の評価額が8000万円以下であれば、相続税はかからないと解することができます。

《完山 芳男》
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完山 芳男

完山 芳男

独立系FP事務所 FPオフィスK 代表 米国公認会計士(ハワイ州)、日本FP協認定CFP(国際上級資格)、1級ファイナンシャルプランニング技能士(国家資格) 慶応義塾大学商学部卒業。大手自動車メーカーや外資系企業等の経理財務部勤務を経て、カリフォルニア大学バークレーへ1年間留学し、ファイナンスを履修。帰国後、米系・欧州系企業において経理責任者を務める。2004年愛知県名古屋市にて、独立系FPとして事務所を開所し現在に至る。 寄稿者にメッセージを送る

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