「混合診療の全面解禁」で何が変わる? メリットとデメリットを知っておこう

 6月9日、政府は新たな成長戦略の1つとして、以前から忍び寄るように議論になっていた混合診療の対象を拡大する法案を提出しました。法案が通過すれば2016年から「患者申出療養(仮称)」という新たな制度がスタートするそうです。

 「公的保険で使える薬や治療法はもうありません」と告げられた、難病やがんを患う患者の中には、海外で使われている薬や治療法を試したいと熱望している方々がいます。藁をもつかむ思いです。

 国内では未承認の薬や治療法は、大学病院などの限られた医療機関で「先進医療」とか「高度医療」として実施されています。しかし、医療費の全てが自己負担なので、お金の無い人との医療格差が生じている現実があります。

 そこで、国内で未承認となっている薬や治療を患者が希望した場合、患者の地元の病院が実績のある大病院(大学病院などの中核病院)と連携しながらスピーディーにケアすることで、混合診療を認めましょう、そして安全性や有効性の実績に応じて公的保険で承認してゆきましょう、というのが今回の新たな制度の主旨です。

(1) そもそも混合診療って何?

 国民健康保険や健康保険など、公的保険が使える治療と使えない治療を併用して受けることを混合診療といいます。現在日本では、混合診療は原則禁止です。そう言われてもよくわからないですね。極端ですが、例を上げて説明します。

 美容診療の1つに歯のホワイトニングってありますよね。黄色っぽい歯を、見た目キレイな白い歯に漂白するという治療です。美容診療ですから公的保険が使えません。自由診療として、病院や医師が自由に提示した金額の全額を自己負担する必要があります。

 さて、ホワイトニングと同時に虫歯の治療をしたとしましょう。虫歯の治療は公的保険が使えます。では、治療費はどうなるか。ホワイトニングの治療費は10万円、虫歯の治療は5万円である場合

(A) ホワイトニング・・・自由診療(全額自己負担)・・・10万円
                   +
  虫歯・・・・・・・・公的保険適用(3割負担)・・・15,000円

 合計11万5,000円とはならず

(B) ホワイトニング・・・自由診療(全額自己負担)・・・10万円
                   +
  虫歯・・・・・・・・自由診療(全額自己負担)・・・・5万円

 合計15万円となります。

 つまり混合診療の禁止とは、公的保険が使える治療についても全額自己負担してもらいますよ、という意味なのです。

※実際は虫歯とホワイトニングは同時に行わないと思います。説明を簡易にするため、正確性を欠いております。ご了承ください。また、子どもや高齢者は自己負担が1割または2割の場合があります。

(2) 現在は一部解禁の混合診療

 現在日本において、混合診療は原則禁止です。なんですが、そうでない場合もあります。公的保険が使える治療に加え、

1. 公的保険適用とはなっていない高度医療や先進医療など(評価療養)を同時に受けた場合

2. 公的保険が使える治療をしたけれど、差額ベッド代がかかる個室に入院したり時間外診療を受けた場合(選定療養)

 です。

 先の(A) のように、公的保険が使える部分については医療費の7割が公的保険の保険外併用療養費という項目でまかなわれるので自己負担は3割でよく、評価療養や選定療養に当たる部分だけを全額自己負担します。

 評価療養や選定療養は次のように決まっています。

<評価療養(7種類)>
 先進医療(高度医療を含む)
 医薬品の治験に係る診療
 医療機器の治験に係る診療
 薬事法承認後で保険収載前の医薬品の使用
 薬事法承認後で保険収載前の医療機器の使用
 適応外の医薬品の使用
 適応外の医療機器の使用

<選定療養(10種類)>
 特別の療養環境(差額ベッド)
 歯科の金合金等
 金属床総義歯
 予約診療
 時間外診療
 大病院の初診
 小児う触の指導管理
 大病院の再診
 180日以上の入院
 制限回数を超える医療行為

 「患者申出療養(仮称)」は、これらの範囲をさらに広げる制度です。

(3) 将来、混合診療が全面解禁されたら何が変わる?

 さて、今回提出された「患者申出療養(仮称)」は、一部認められている混合診療を拡大するものですが、以前より「混合診療の全面解禁」が議論されています。

 全面解禁とは、(2) で取り上げた評価療養や選定療養、法案が通過したことで広がった範囲に限らず、公的医療の対象でない全ての自由診療についても公的医療の対象部分は自己負担3割でやりましょう、という意味です。

 「全額自己負担にならないんだったら、その方がいいじゃん」

 うん。確かに大きなメリットですね。メリットとしては他に

・公的保険が利用できる部分の自己負担が軽くなる
・付き添いや外食など、治療に付随するサービスを利用しやすくなる

・海外では一般的に使われているのに日本では未承認である薬や治療法を、今以上に利用しやすくなる

・持病のある人など、健康上の理由で新たな保険に入れない人のための商品が増え、選択肢が広がる

・公的保険の財源の1つである税金投入が少なくなる

 などが考えられるでしょう。

 一方、デメリットもありそうです。

・安全性や有効性が十分に確認できていない薬や治療法を利用する人が増える

・公的保険で取り扱えるまでの手続きが煩雑であることから、自由診療のままでよしとする薬や治療が増える

・公的保険の財源不足を理由に、現在公的保険が使える治療も自由診療に見直されてしまうおそれがある

・自由診療が増えることで、医療保険の「先進医療特約」等の保険料が値上がりし、長生きする人が増えれば生命保険の保険料全体が値上がりする。同時に介護費の負担も増える

・医療格差が広がる

 といったところでしょうか。

 消費税増税など、日々のくらしに直接マイナスの影響がでることはわかりやすいのですが、一見プラスだらけにみえそうな制度改革こそ、しっかり説明して欲しいんだけどな、と思います

 そういえば、10年ほど前にも同じようなことがありました。年金が減らされるとか、老人保健制度から後期高齢者医療制度に変わるとか。本決まりになり、数か月後にいよいよ導入となって初めて世間の目にふれる。今回の混合診療の対象拡大も(もしかしたら数年後、全面解禁になる?)そうなってしまうのでしょうか。(執筆者:古川 みほ)

この記事を書いた人

古川 みほ 古川 みほ»筆者の記事一覧 (21) http://www.fpmiporin.com

暮らしのお金の保健室
帝京大学非常勤講師、NPO法人FPネットワーク神奈川理事長。旅行会社、電話会社、損害保険会社、投資顧問会社、生命保険会社、保険代理店に勤務後、2000年に独立。知識やデータだけでは解決できない、ライフプランや家計にまつわる相談、講師、FP養成講座テキスト等執筆活動を行っている。不安や迷いやグチをしっかり聴き、相談者ご自身で解決できる力を蓄えるため、必要に応じて手とり足とりサポートできることが持ち味。
<保有資格>:ファイナンシャルプランナー(CFP®、1級ファイナンシャルプランニング技能士 ※登録名「仲井間 美穂」)、社会教育主事、2級キャリア・コンサルティング技能士
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