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【母親の熟年離婚】息子娘からの相談実例~退職金や年金、介護はどうなる?~

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【母親の熟年離婚】息子娘からの相談実例~退職金や年金、介護はどうなる?~

※本記事は長文です。(所要時間:20分程度)

 この統計をご覧ください。

<厚生労働省・人口動態統計>

(平成17年)
◆ 夫が初婚 妻が再婚 7.1%(50,078組)
◆ 夫が再婚 妻が初婚 9.3%(66,193組)
◆ 夫、妻ともの再婚 9%(63,996組)

(昭和50年)
◆ 夫が初婚 妻が再婚 3.6%(33,443組)
◆ 夫が再婚 妻が初婚 5.2%(44,042組)
◆ 夫、妻ともの再婚 3.9%(36,470組)

 この統計から分かるのは、再婚件数がここ30年の間で2~3倍に増えたことですが、むしろ驚くべきなのは10人の1人は「再婚」という現実(現在、婚姻数が約70万組なので)かもしれませんね。

 毎年、一定数の男女が離婚するので、離婚経験者は年々、増える一方なのですが、だからこそ、離婚経験者の増加に比例し、再婚の相談が増えるのは間違いありません。

増える熟年離婚 母親と息子の利害が一致しないことも

 ここまでは相談者のうち、半分近くを占める30代女性の「よくある相談事例」をご紹介しましたが、一方で50代以上は男性が全体の3.4%(50人)女性が2.2%(32人)という具合で、お世辞にも多いとは言えませんが、当事者は自分と年が近い相手に相談したいと思うのは自然なこと。

 私自身が30代(現在33歳)なので、50代との相性が悪いのは無理もありませんが、それでも「熟年離婚」の相談者は一定数、やってきます。

 なぜでしょう?

 実際のところ、50代以上の熟年男性は、女性がたった1人で事務所を訪れるよりは、本人の息子や娘、年下の兄弟姉妹、そして息子の嫁などに連れられて来ることの方が多い印象です。周りの人間が20~40代だと、私と年齢が近いので、親近感を持ち、相談に至るというわけです。

 ところで熟年離婚は20年、30年という長い間連れ添った夫婦が離婚するのですが、だからこそ長年積もり積もった恨みつらみは相当なもので、本人から年金や退職金、老後の生活設計などを聞き出そうとしても、質問とは違ったことが返ってくることも

 例えば、配偶者への悪口や愚痴、不満などですが、いくら聞いても、それしか口から出てこなくて、私が困ってしまうこともしばしば。

 一方で周囲の人間、例えば、熟年女性の息子が相談に同席している場合はどうでしょうか?

 相談の前に、ある程度、母親(熟年女性)と息子との間で話し合いをし、考えをまとめてきてくれるので、世間話や人生相談で終わるという心配はありません。

 それはそれで有難いのですが、このようなケースで注意したいのは相談当日、母親はほとんど口を開かず、息子に任せっきりにしている場合です。

 なぜなら、母親と息子の利害は必ずしも一致するわけではないからです。

 もし、母親は「一刻も早く、夫と縁を切りたい」と思っているのに、息子は「離婚したら、父はすぐに別の女性と再婚だろうけれど、そうしたら父の遺産相続時、自分の取り分が減る可能性があるから、母には離婚を思いとどまって欲しい」(父の再婚相手が遺産の内容をすべて明らかにするかどうか分からないので)と思っているとしたら…。

 息子の言うことを真に受けたせいで、本人(熟年女性、母親)を蔑ろにするようでは本末転倒です。事前に話を整理してくれるのは助かるのですが、「誰のための相談なのか」を忘れないよう、気をつけたいですね。

熟年離婚で必ず問題になるのは「年金」

 なお、厚生労働省が公表している人口動態統計によると、50歳以上の離婚件数は、1980年は夫が7,036件、妻が4,244件でしたが、2010年には38,452件、妻が23,753件まで増えているので夫と妻、どちらも「30年で5倍」です。

 この統計を踏まえると、熟年離婚のニーズは年々、増加傾向なので、50代以上の離婚相談はもちろん、周囲にいる若者からの「熟年離婚の相談」も今後、増えていくことが予想されます。


 今回は72歳の妻と、46歳の娘が一緒に相談しに来たケースをご紹介しましょう。相談当時、夫と妻(娘の両親)はすでに4年間、別居生活を続けており、別居期間中も、夫は妻に対し、絶え間なく「離婚して欲しい」と言い続けてきたのですが妻はいっこうに首を縦に振ろうとしなかったようです。

 しかし、離婚協議の途中で夫が大病を患い、いったん話が止まってしまったのですが、むしろこれがきっかけで離婚の問題は一気に解決へと向かったのです。

 これはどういうことでしょうか?

 年配の夫婦が離婚する場合、必ずといって良いほど、問題になるのは「年金」です。夫が婚姻期間中に納めた厚生年金(共済年金)の最大2分の1を妻に付け替える制度を年金分割といいます。

 このケースでは夫が現役時代、会社勤めだったので、年金事務所で「夫の厚生年金の2分の1を妻に付け替えたら、具体的に夫の年金がいくら減り、妻の年金がいくら増えるのか」を試算してもらうことが可能です。

 そのため、私は妻に対し、試算を出してもらうよう、アドバイスをしました。そうすると今、離婚して分割の手続をすれば、妻の年金が毎月4万円、増えるという結果でした。このケースでは、夫がすでに年金を受給しているので、年金を分割する時期が遅れれば遅れるほど、分割対象の年金が減り、妻のメリットは少なくなります。

 ところで、妻は別居期間中、夫から毎月7万円の生活費をもらっていたようです。

 もちろん、理想を言えば、離婚した後も、夫から同額の生活費をもらった上で年金を分割すれば良いのですが、相談当時、夫は年金分割の制度を知りませんでした。だから、妻は「『離婚後も生活費を送って欲しい』と頼んだら、夫の機嫌を損ね、年金分割を断わられたり『2分の1ではなく、3分の1、4分の1しか分割しない』と言われたりしたら、どうしよう」と心配していました。

 もし、離婚した後、夫から生活費をもらわず、年金分割の手続だけを行った場合、妻の毎月のお金は3万円も減ってしまいますが、必ずしも年金分割より生活費を優先すべきとは言い切れません。

 なぜでしょうか?

 万が一、妻が離婚せず、夫から生活費をもらい続けた場合、夫がずっと元気なら良いですが年も年ですから、何があるか分かりません。一方、年金分割の手続をしておけば夫の生き死にに関係なく、分割された年金は妻に支給され続けます。

 例えば、夫が3年後に亡くなった場合、妻が受け取る生活費の合計は252万円ですが、妻が78歳まで生きていた場合、妻が受け取る(夫から分割された)年金は288万円ですので、この年に年金は生活費を逆転し、そして妻が長生きすればするほど、生活費より年金の方が有利になるのです。

 だから、妻は「年金分割さえ、夫が協力してくれれば、離婚に応じよう」という結論を出しました。しかし、娘の考えは母親(妻)とは違っており、せっかく離婚に応じるのなら父親(夫)から、もっとお金をもらうべきだと話していました。

 なぜでしょうか?

 娘は一人っ子なので、母親が年老いて体の自由が利かなくなった場合、娘が母親を引き取り、一緒に暮らすことも検討しなければなりません。とはいえ、娘もお金に余裕があるわけではありません。娘は結婚していて、夫との間に2人の子供がいたのですが当時、子供は高校生でお金がかかる時期にさしかかっていました。

 だから、母親と同居することになった場合、母親の財産は多ければ多いほど助かるので多少、時間をかけても、父親(夫)から多くのお金を受け取って欲しいと思っていました。娘はもちろん、娘の夫の意見も反映されていたようです。

 もちろん、夫にまとまった財産があり、離婚せずに、年金分割もせずに夫が亡くなっても、年金分割に見合うほどの財産を妻が相続することができれば良いですが妻いわく、夫には借金はあっても、貯金はないだろうと。

 このケースでは夫婦間で会話が成り立たないので、娘が夫婦間の窓口になっていたのですが電話口の父親の声が次第に小さくなり、病院に通う回数が増えていき、娘は父親(夫)を早くこの件から解放し、楽にしてあげたいという気持ちが芽生えていったようです。

 もちろん、先延ばしにするデメリットを知ったことも理由の1つでしょうが、最終的には娘も「夫が年金分割の手続に協力すれば、離婚に応じる」という条件を了承し、そして夫は年金分割の按分割合を渋ることなく、無事、離婚が成立したのです。

62歳の妻と、33歳の息子が一緒に相談しに来たケース

 次に62歳の妻と、33歳の息子が一緒に相談しに来たケースをご紹介しましょう。

 相談当時、夫と妻(息子の両親)はすでに26年間、別居生活を続けていました。2年前、夫が定年退職をしたので、夫婦の間で離婚の話が動き出したのですが、そんな矢先でした。

 妻が病気で倒れ、長期の入院を余儀なくされたのです。しかし、それでも妻の離婚の意思は変わりませんでした。

 なぜなら、妻はすでに自分の両親から、ある程度の財産を相続しており、このまま離婚せず、自分(妻)が亡くなった場合、夫が実家の財産を相続する可能性があるからです。もちろん、離婚すれば、夫には妻の財産の法定相続分(法律で定められた相続分)はなくなります。

 だから、病気がきっかけで妻は、むしろ離婚の覚悟が強まったようで、妻は私に対して「お金は1円もいらないから、一刻も早く離婚したい」と相談してきたのです。

 しかし、息子の思惑は母親(妻)とは異なっていました。後日、息子とメールでやり取りをしたのですが、どうやら、夫(父親)は家庭を顧みないような人間で26年前に家を出て行った後、生活費として毎月15万円を振り込んでくるものの、父親らしいことをしてもらった記憶はなく、父親にはきちんと償ってもらいたいし償う方法がお金しかないのなら、しかるべきお金を払って欲しいと思っていたようです。

 もちろん、「一刻も早い離婚」という点では、母親と同じ考えなのですが「お金は1円もいらない」という点では、母親と息子の意見は必ずしも一致していなかったのです。

 妻と息子の思いの相違はさて置き、私は参考程度に、夫側にどのくらいの財産があるのか、あくまで概算ですが、預貯金、退職金、年金の順で計算し、妻そして息子に提示しました。

 まず預貯金ですが、夫の退職直前の給与は毎月44万円なので、妻に対し、生活費として毎月15万円を支払っても、まだ29万円も残ります。

 今回の場合、夫は国家公務員で、退職するまでの間、官舎に住んでおり、住居費はかなり安く抑えられたので、毎月19万円の生活費があれば1人暮らしでは十分でしょう。

 だから、少なくとも毎月10万円は貯金していたはずで、離婚時点で計3,120万円の預貯金を貯めていたと推測することができます。(もちろん、全期間、夫の給与が同じではないので、あくまで概算です)

 また総務省が公表している国家公務員の退職手当制度によると、例えば、勤務期間40年から44年の場合、退職手当は平均で2,807万円支給されるようですが、今回の場合、夫婦の結婚期間は35年でした。一方で夫の勤務期間は42年なので、結婚期間と勤務期間が重複している部分については、離婚財産分与の対象になりえます。(2,339万円)

 そして年金ですが、婚姻期間中、夫が婚姻期間中に納めた厚生年金(共済年金)の最大2分の1を妻に付け替える制度を年金分割といいます。

 国家公務員の場合、国家公務員共済組合で「夫の共済年金の2分の1を妻に付け替えたら、具体的に夫の年金がいくら減り、妻の年金がいくら増えるのか」の試算を出してもらうことが可能です。

 仮に妻が65歳から年金を受給したとしてこのケースでは毎月65,000円の増減でした。このように私は夫の財産の概算を2人に提示し、どうするのかの判断を仰いだのですが結局のところ、目の前に具体的な数字が出てきても、妻の意思(1円もいらない)が変わることはありませんでした。

 息子も最後には「母がそれで良いのなら」と折れて、夫婦間でお金のやり取りはせず、離婚が成立したのです。

 妻が実家の財産をいくら相続したのか、具体的な金額を聞きそびれたのですが、もし、前述の通り、私が夫の財産の概算を計算しなければ、夫の財産と実家の財産どちらが多いのかを知らないまま、離婚に伴う財産を放棄していたでしょう。

 もしかすると妻は、夫の財産を知ろうが、知るまいが、その意思は変わらなかったのかもしれません。

 一方で息子はおそらく「夫の財産<実家の財産」だから、母の離婚に反対するのをやめた可能性が高く、この試算は息子を納得させるのに一役買ったと言えそうです。(執筆者:露木 幸彦)

《露木 幸彦》
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露木 幸彦

露木 幸彦

露木行政書士事務所 代表 1980年生まれ。国学院大学・法学部出身。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。離婚に特化し行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7,000件、離婚協議書作成900件を達成した。サイト「離婚サポートnet」は1日訪問者3,300人。会員数は20,000人と業界では最大規模にまで成長させる。「情報格差の解消」に熱心で、積極的にメディアに登場。読売、朝日、毎日、日経各新聞、雑誌「アエラ」「女性セブン」「週刊エコノミスト」テレビ朝日「スーパーJチャンネル」TBS「世界のこわ〜い女たち」などに取り上げられるなどメディア実績多数。また心理学、交渉術、法律に関する著書を数多く出版し、累計部数は50,000部を超え、根強い人気がある。 <保有資格>:行政書士、AFP 寄稿者にメッセージを送る

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