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「ブラック地主」を考える 新しそうで古くからある問題

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「ブラック地主」を考える 新しそうで古くからある問題

最近話題になっているキーワードでブラック地主というのがあるそうです。


借家・借地問題に取り組んできた弁護士7人が「ブラック地主・家主対策弁護団」を設立し、今月、東京・霞ヶ関の司法記者クラブで弁護団がその被害などについて記者会見を開きました。

記事によると、それは所有者の移転を理由に無理矢理借地契約の解除と立ち退きを要求したり、恫喝などをして底地の買い取りを強要する行為のようであります。

ちょっと前には「地上げ屋」問題として取り扱われていたようですが、今回はそんな業者にお願いするような地主そのものが悪いということで、有利な立場を利用し、弱い借地人をいじめるブラックなヤツ、ということで命名されているようであります。

ただ彼らの「日本には『借りたものは返せ』という文化があり、貸している人に対して借りている人が弱い立場にあることが、こうしたトラブルが起こる要因です」とか「借地借家法という法律で、『期間満了は契約の終了ではなく、原則として契約を更新すること』と具体的に定められています。」という主張には少々疑問を持ちました。

確かに借地借家法の理念として借地人の保護があり、土地が売買されても借地人は建物の登記をすることで新所有者に対抗できます。また契約の更新にあたっても地主がその更新の拒絶をするには正当事由が必要となり、その正当事由を補完するものとして財産上の給付、すなわち立ち退き料が必要とされています。

簡単にいえば、登記をしていれば第三者に土地が売買されても借地権は継続するしその借地権を終了させるには地主はお金を払って終了させなくてはならないのです。そしてそもそも論として、わが国では力を持って解決にあたる自力救済が禁止されているわけで、地主に代わって借地人と法的交渉することも弁護士法違反の可能性もあります。

以上のような観点にたち、”対抗要件の問題”とか”正当事由の問題”とか”自力救済の問題”としてこのブラック地主問題を説明して頂ければいいのですが、”日本の文化的背景が悪い”とか、”契約は更新することが原則”とかいってしまうと、せっかくの主張が曲解されそうな気がしてなりません。

弱い立場の借地人を保護するために作られたこの法律で、安定的に居住権を確保できている借地人さんも多いのも事実ですが、その一方で、世帯が分離し相続などでどんどん資産が減ってしまっているのに、地代も上がらず相続が発生し売却したいのに処分できず困っている”弱い”地主さんも多くいらっしゃるのも事実です。そしてそれぞれがそれぞれを”ブラック”扱いしてしまうとキリがなく問題の解決からは遠のいてしまいそうです。

この新しそうで古くからある問題は、はやりのキーワードで判断する事なく、原理原則に遡って考える必要がありそうであります。(執筆者:田井 能久)

《田井 能久》
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田井 能久

執筆者:不動産鑑定士 田井 能久 田井 能久

株式会社 タイ・バリュエーション・サービシーズ 代表取締役/専任不動産鑑定士 大学卒業後、国内最大手の不動産鑑定事務所に勤務し、1995年に不動産鑑定士資格を取得。その後、米国系不動産投資ファンドに転職し、資産評価業務を担当。全国各地でさまざまな物件の現地調査と価格査定を行った。2006年に独立し、株式会社タイ・バリュエーション・サービシーズ(http://www.valuation.co.jp/)を設立。1,000件以上の評価実績を有し特に相続や訴訟に関連する案件を得意とする。海外事業では滞在型余暇を楽しむ人に助言する「ロングステイアドバイザー」業務を行い、2015年にマレーシアの企業と業務提携開始。MM2H取得アドバイス業務や海外不動産投資アドバイスを行い(https://malaysia-longstay.com/)自身も2018年にMM2Hを取得。元愛知大学非常勤講師で現在セミナー活動もしながら各種WEBメディアに記事提供を行う。 <保有資格>:不動産鑑定士 寄稿者にメッセージを送る

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