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差額ベッド代は返還請求できるか? 医療費控除の申請とともに考えてみる

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差額ベッド代は返還請求できるか? 医療費控除の申請とともに考えてみる

1月も下旬になり、昨年の所得税確定申告のシーズンが近づいてきた。申告書の提出期間は2月16日~3月15日であるが、自営業者はもちろんのこと高額所得の会社員の方々はそろそろ申告書作成の準備に取り掛かる時期であろう。


一般のサラリーマンや公務員であれば、勤務先で年末調整を行っているので通常は確定申告の必要がないケースが多いと思われる。

ただ、昨年、住宅ローンを組んで住宅を取得もしくは増改築をした人は、住宅ローン控除の適用を受けるため初年分だけは自分自身で確定申告をする必要(次年分から年末調整で住宅ローン控除の処理を勤務先が自動計算してくれる)がある

また多額の医療費(保険給付を差し引いた自己負担分)を支払った世帯であれば、その世帯主は確定申告をすることで医療費控除が受けられ、所得税・住民税の還付が受けられる。筆者は昨年2月に、医療費控除に関する下記タイトルのコラムを寄稿した。

「医療費控除」は受けなければ損! でも領収書をなくしてしまった場合はどうするの?

一般の会社員であれ自営業者であれ、不慮の事故に遭ったり大病を患ったりすることがなくても、病院で治療を受けたり、薬局で薬(風邪薬などの治療を目的にするものに限る)を購入したりすることは日常茶飯事のことあり。

ましてや生計を一にする扶養家族が多ければ、年間10万円(課税所得が200万円以上の場合)を超える医療費を家族全体で払っているケースは案外多いものだ

よって、金額的および内容的に、医療費控除の適用が受けられるかどうかは別として、とりあえず病院からもらった領収書や薬局で受け取ったレシートは必ず保管しておくことが大切であることを昨年寄稿したコラムで述べたのである。

「差額ベッド代」に関するトラブル事例


さて、本コラムでは差額ベッド代に関するトラブルと医療費控除申請について、筆者が実際に受けた相談事例から紹介したいと思う。


ある50歳代の女性相談者Aさんによれば、昨年ご主人が大きな交通事故に遭いその怪我の治療のために3週間程入院された。

幸いにも命に別状はなかったのだが、事故後に救急搬送された病院では、一般の病床ベッドに空きがなく、個室(特別室と言われる1人部屋)に入院することになった

事故の連絡を聞いて病院に駆け付けたAさんは、ご主人が搬送された病院の担当者から

「あいにく今は、大部屋のベッドが空いておりません。個室にご入院頂くことになりす…云々。」

と何種類かの入院手続きに関する書類を渡されながら言われたとのこと。

ご主人が入院されたことで気が動転していたこともあり、Aさんは書類の内容をよく確認せずに複数個所に署名をした。交通事故により膝を複雑骨折されたご主人は入院直後に手術を受け、その後2週間程経ってから個室から一般の大部屋にある病床へ移ることができた。

ご主人は膝関節をボルトで繋げギブスで固定する治療を選択されたため、比較的早くリハビリができるので治りが早いと医師から診断されたとのこと。

術後の経過も良好で約3週間で退院することができた。退院後もリハビリを精力的にこなせば3か月後には膝は完治して歩けるようになるとのことだった。

トラブル発生!

ご主人の膝の治療はおおむね順調に進んだのだが、病院から請求された治療費の内容・金額でトラブルが起きたのだ。

ご主人は民間の医療保険には加入していなかったものの、すべての治療は公的保険が適用されていると考えていたため、手術と入院費用は自己負担で15~20万円程を想定していました。

これくらいの負担であれば、ご主人が昨年会社を早期退職されたAさんご夫妻でも、預貯金の範囲内で十分まかなえるし、リハビリ費用を含め治療費が多少増えても高額療養費制度が使えるので安心していた。

ところが、病院からは公的医療の自己負担分とは別に、個室利用料(消費税込)30万円程が請求された。一般病床である大部屋のベッドに空きがなかったため入院初日から15日間個室を使用していたためだ。

個室(正式には特別療養環境室という)の料金は、一般的に差額ベッド代とよばれており公的保険の適用外なので全額が自己負担となる。

Aさんのご主人の入院ケースでは、個室利用料は単純計算で日額2万円ということになるが、かなり豪華な設備の個室だったこともあり、平均的な差額ベッド代の5000~7000円よりもはるかに高額だ。

Aさんは、ご主人の入院に際し、確かに複数の書類とともに個室使用に関する同意書にサインをしたが、決して自ら希望して個室を利用したわけではないので高額の使用料を支払うのに納得はできなかったが、病院ともめ事を起こしたくない一心で結局しぶしぶ請求書通りに支払ったとのこと。

差額ベッド代は返還請求できるか?


今回のケースの様に、入院患者が自ら希望して個室を利用していない場合(大部屋が空いていないという病院側の都合である場合)でも、差額ベッド代を支払わなければならないのだろうか?


Aさんはご自身でもいろいろ調べられた様だが、これまで医療費や公的医療保険制度についてあまりに不勉強だったことが本当に悔やまれるとご相談時におっしゃっていたことが印象的だった。

厚生労働省では、平成20年3月に保険局医療課長名の通知を出して、医療機関が患者に差額ベッド料を請求してはならない具体的なケースとして、次の3つをあげている。

(1) 同意書による患者の同意を得ていない場合
(2) 治療上の必要があった場合
(3) 病棟管理の必要性があった場合

Aさんのご主人の場合、本人や家族の都合で個室を利用したわけではなく、あくまで病院側の都合すなわち、上記ケース(3)の「病棟管理の必要性があった場合」に該当する可能性があり、そもそも差額ベッド代は請求されないものとなりそうだ。

しかしながら、今回Aさんはご主人の入院時に同意書にサインをしていることから、病院側は患者の同意を得た上で差額ベッド代を請求しているので、厚労省保健局の通知に従っているとの立場なのであろう


Aさんが取りうる行動としては、あくまで本人や家族の都合ではなく、一般病床のベッドに空きがなかったという病院側の都合により、仕方なく個室を利用したのだと主張をして、病院に差額ベッド代の返還を求めることでしょう。

ご主人が救急搬送された直後にAさんがサインした同意書は、個室しか空きがないという選択肢がなかった状況でやむを得ず署名したことであり、病院担当者からは高額な個室料が発生するといった丁寧かつ明確な説明がなかったことも訴えるべきだろう。

現時点では、病院側との交渉の結果がどうなるのかは分からない。残念ながら今回は同意書へサインしていることが、患者や家族が納得した上で個室に入院したと最終的には判断される可能性が高いと思われる

差額ベッド代は医療費控除の対象か?


差額ベッド代が病院から返還されなかった場合、次善の策として差額ベッド代を医療費控除として申請する様、Aさんへはアドバイスをした。


国税局タックスアンサーや各地の税務署によれば「治療の都合や大部屋が開いていないなど病院の都合で、やむをえず個室などを利用した場合の差額ベッド料は医療費控除の対象になります」といった見解が確認できる

Aさんは個室利用の同意書にサインはしたものの、あくまで一般病床に空きがないという病院側の都合によりご主人は個室に入院し利用料を支払ったのだから、確定申告の際、差額ベッド代の領収書を添付して医療費控除の申請ができる。

ご主人の所得金額次第であるが、差額ベッド代と公的医療費の自己負担分を合わせた昨年の医療費合計が50万円と仮定すると、所得税率20%・住民税率10%を前提に、還付される所得税及び住民税は12万円程と計算(※)される。
※医療費控除申請による還付される税金の計算例

(年間の医療費合計50万円-控除額10万円)×30%(所得税率および住民税率)=12万円

治療や病院の都合で個室などを利用した場合は、本来差額ベッド料を支払う必要はないのだから、本来は確定申告での医療費控除ではなく、入院した医療機関に返還要求するべきである。

このようなトラブルが起こる根本原因は、前出の厚生労働省の通知が周知徹底されておらず、本来なら請求してはならないケースでも差額ベッド料を患者からとっている医療機関が実際に多く存在するからだ。

また、患者に差額ベッド料を請求しなければ、病院経営が成り立たないほど、長年に渡って国が医療費を削減してきたという事情もあるのかもしれない。

いずれにしても、患者として支払う必要のない差額ベッド代に対しては、請求に応じるべきではないし、そもそも「差額ベッド料のかかる部屋への入院は希望をしていない」ことを病院側へ伝えることが大切である。

もし個室に入らなければいけないのであれば、その理由、そして希望ではない場合に個室に入った場合の料金はどうなるのか、大部屋にはいつ移れるのか、等々を病院側と話し合うようにすることが重要である。

個室利用に納得ができないのに、安易に同意書にサインをしてはいけない

。(執筆者:完山 芳男)

《完山 芳男》
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完山 芳男

完山 芳男

独立系FP事務所 FPオフィスK 代表 米国公認会計士(ハワイ州)、日本FP協認定CFP(国際上級資格)、1級ファイナンシャルプランニング技能士(国家資格) 慶応義塾大学商学部卒業。大手自動車メーカーや外資系企業等の経理財務部勤務を経て、カリフォルニア大学バークレーへ1年間留学し、ファイナンスを履修。帰国後、米系・欧州系企業において経理責任者を務める。2004年愛知県名古屋市にて、独立系FPとして事務所を開所し現在に至る。 寄稿者にメッセージを送る

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