年金に関する今年一番の話題は、なんといっても社会保険(健康保険、厚生年金保険)の適用拡大だと思うのです。

すでにご存知の方も多く、いまさら説明する必要もないかと思いますが、平成28年10月から次のような要件をすべて満たすと、社会保険に加入する必要があります。

・1週間の所定労働時間が20時間以上
・給与の月額が8万8,000円以上
・勤務期間が1年以上
・学生でないこと
・従業員数が501人以上の企業に勤務していること

給与の月額8万8,000円を年収に換算すると、106万円になりますので、この社会保険の適用拡大は一般的に、「106万の壁」と呼ばれております。

配偶者の扶養となり、国民年金の保険料を納付しなくても良い第3号被保険者の方は、この106万の壁を超えないように、勤務時間や給与の金額を調整するかもしれません。

また正社員を定年退職した後に、パートなどで働いている方も、厚生年金保険に加入すると「在職老齢年金」の仕組みにより、年金を減額される可能性があるので、勤務時間や給与の金額を調整するかもしれません。

しかし106万の壁を超えて、あともう少し厚生年金保険に加入した方が良い方もおり、例えば次のような3つのケースになります。

(1)1年以上なら特別支給の老齢厚生年金


厚生年金保険に原則25年以上加入していた方が65歳になると、国民年金から「老齢基礎年金」、またその上乗せとして厚生年金保険から、「老齢厚生年金」が支給されます。

この老齢厚生年金はかつて、60歳から支給されておりましたが、平成6年と12年の法改正により、上記のように65歳に引き上げされました。

ただいきなり65歳にするのではなく、長い年月をかけて段階的に、65歳に引き上げしているため、現在でもまだ60歳から65歳になるまでの間に、老齢厚生年金を受給できる方がいるのです。

この60歳から65歳になるまでの間に支給される老齢厚生年金は、65歳になると支給される老齢厚生年金と区別するため、「特別支給の老齢厚生年金」と呼ばれております。

特別支給の老齢厚生年金は、「定額部分」と「報酬比例部分」で構成されており、先に定額部分が引き上げされ、それが完了した後に、報酬比例部分の引き上げが始まります。

昭和36年4月1日以前に生まれた男性、また昭和41年4月1日以前に生まれた女性であれば、生年月日によって支給開始年齢に差がありますが、この特別支給の老齢厚生年金を受給できる可能性があるのです。

ただ老齢厚生年金を受給するには、厚生年金保険の加入期間が1カ月以上あれば良いのに対して、特別支給の老齢厚生年金を受給するには、厚生年金保険の加入期間が、1年以上なければなりません。

例えば新卒で採用された会社を、数カ月で退職した後に結婚し、自分で保険料を納付しなくても良い、国民年金の第3号被保険者になった方がいたとします。

こういった方は厚生年金保険の保険料を納付した期間や、第3号被保険者であった期間などを通算して、原則25年以上になれば上記のように、65歳から老齢基礎年金と老齢厚生年金を受給できます。

しかし厚生年金保険に加入した期間が1年に満たないため、特別支給の老齢厚生年金を受給できる生年月日に該当していたとしても、これを受給することはできません。

そのためこのようなケースでは106万の壁を超えて、あともう少し厚生年金保険に加入した方がお得です。

(2)20年以上なら加給年金


老齢厚生年金、または特別支給の老齢厚生年金の定額部分を受給している方に、その者によって生計を維持する、65歳未満の配偶者や、18歳の年度末までの子などがいる場合、「加給年金」が加算されます

ただ加給年金が加算されるのは、厚生年金保険の加入期間が原則として、20年以上ある方になりますので、それに満たない場合は加算されません

例えば中高年になってから自営業を廃業して会社員になり、厚生年金保険に加入した方がいたとします。

こういった方は老齢厚生年金や、特別支給の老齢厚生年金の定額部分を受給できる年齢になっても、厚生年金保険の加入期間が、原則20年に満たない可能性があります。

そのためこのようなケースでも106万の壁を超えて、あともう少しだけ厚生年金保険に加入した方がお得です。

なお例えば夫が厚生年金保険に原則20年以上加入している場合、生計を維持する65歳未満の妻を対象に、加給年金が加算されます。

しかし妻の厚生年金保険の加入期間も、原則20年以上になってしまった場合、妻に対して老齢厚生年金、または特別支給の老齢厚生年金の支給が始まった時に、その加給年金は支給停止になります。

そのためこういったケースでは逆に106万の壁を超えて、厚生年金保険に加入しない方がお得です。

ただ妻が厚生年金保険に加入する期間が長くなると、「加給年金 < 妻が受給する老齢厚生年金」になる可能性もありますので、必ずしも厚生年金保険に加入しない方が良いケースばかりではありません

(3)44年(528月)以上なら長期加入者の特例


特別支給の老齢厚生年金は上記のように、先に定額部分が65歳に引き上げされ、それが完了した後に報酬比例部分が、65歳に引き上げされます。

厚生年金保険に加入していた男性の場合、すでに定額部分の引き上げは完了され、現在は報酬比例部分の引き上げが実施されている最中です。

しかし厚生年金保険に44年以上加入した長期加入者は、定額部分と報酬比例部分の引き上げが、同時に実施されます。

そのため通常なら報酬比例部分しか受給できない生年月日の方も、厚生年金保険の加入期間が44年以上あれば、報酬比例部分に加えて、定額部分も受給できるのです。

例えば高校を卒業してから会社員になり、それから60歳で正社員の定年退職を迎えるまで継続して、厚生年金保険に加入した方がいたとします。

こういった方はあと数年で長期加入者に該当するので、106万の壁を超えてもう少しだけ、厚生年金保険に加入した方がお得です。(執筆者:木村 公司)