2016年7月29日に、年金積立金を運用している「年金積立金管理運用独立行政法人(以下では「GPIF」で記述)」は、

2015年度の運用損が、5兆3098億円に上った

と発表しました。

そもそも日本の公的年金は原則的に、現役世代が納付した保険料を、その時点の年金受給者に年金として配分する、「賦課方式」で運営されております。

しかしすべての年金受給者に年金を配分するには、現役世代が納付した保険料だけでは足りません。

そのため年金受給者の人数が少なく

現役世代が納付した保険料 > 年金受給者に配分する年金

という状態だった時代に貯めていた、年金積立金を取り崩して、保険料と一緒に配分しているのです。

この年金積立金はGPIFによって、国内債券、外国債券、日本株式、外国株式などで運用され、年金積立金が枯渇しないようにしております。

しかし2015年度は上記のように、運用損が約5兆円に上ってしまったので、逆に年金積立金の枯渇を早める結果になりました

この背景は安倍総理の指示により2014年10月から、日本株式と外国株式の比率が、それぞれ12%から25%に引き上げされ、またその引き上げ後に、中国の景気減速などの影響によって、株価の大幅な下落が起きたからです。

年金財政の検証で示された40年後の年金積立金の枯渇

野党はこれを受け、株式比率を元に戻すことなどを求めておりますが、それだけでは根本的な解決にはならないと思うのです。

年金財政の健全性を確認するため、5年に一度のペースで年金財政の検証が行われており、直近では2014年に検証が実施されました。

ただ2014年といっても、検証結果が発表されたのは6月なので、安倍総理の指示により日本株式と外国株式の比率が、引き上げされる前の話です。

年金財政の検証の結果として、労働力率、賃金上昇率、物価上昇率、運用利回りなどが異なる、8つのシナリオが発表され、そのうちの最も悲観的なシナリオHでは、2055年度に国民年金の年金積立金が、枯渇すると試算されました。

つまり日本株式と外国株式の比率を引き上げする前に、年金積立金はあと40年程度で枯渇すると試算されていたので、野党の要求通りに、株式比率を元に戻したとしても根本的な解決にはならないと思ったのです。

年金積立金はあと20年程度しか持たない試算

なお2014年3月に発売された「社会保障亡国論」という本を読むと、厚生年金保険は2038年度、国民年金は2040年度に、年金積立金が枯渇すると試算されており、そうなれば年金積立金は、あと20年程度しか持たないことになります。

この理由について著者の鈴木亘さんは、現在の日本の公的年金は「保険料収入」よりも「年金支出」の方がはるかに多いという、構造的な問題を抱えているからだと説明されております。

年金積立金が枯渇したら負担増と給付減が待っている

年金積立金が枯渇した後は、公的年金が崩壊すると考える方もいるようですが、そんなことはありえないと思います

2014年に実施された年金財政の検証では、年金積立金が枯渇した後は、完全な賦課方式に移行すると予想されており、こちらの方が現実的だと思うのです。

つまり現在は

現役世代が納付した保険料 + 年金積立金の取り崩し

を、年金受給者に年金として配分しておりますが、年金積立金が枯渇した後は、年金受給者に配分する年金を、現役世代が納付した保険料だけで賄うことになります。

そのため年金積立金の枯渇が近づいてきた場合、現役世代が納付する保険料が、現在より値上げされる可能性があります。

また社会保険(健康保険、厚生年金保険)の適用を拡大して、現在より多くの方から、保険料を徴収する可能性もあります。

例えば国民年金の第3号被保険者となる専業主婦の方は、国民年金の保険料を納付する必要はありませんが、社会保険の適用が拡大されて、厚生年金保険の保険料を納付することになるかもしれません。

ただ現役世代だけに負担を求めると、不満が高まってしまうので、年金受給者に配分する年金を、減らす可能性もあります。

実際のところ安倍総理は、2016年2月15日に開催された衆院予算委員会で、

「想定の利益が出ないなら当然支払いに影響する。給付に耐える状況にない場合は、給付で調整するしかない」

と発言しました。

なお年金受給者に配分する年金を減らす方法としては、金額そのものを減らす以外に、年金の支給開始年齢を現在の原則65歳から、70歳程度まで引き上げするという方法も考えられます

これからに備えて、自分たちがすべきこと

年金積立金の運用損が約5兆円にも上ると聞いて、怒りや不安を感じた方は多いと思います。

しかし株価の上昇を重視する安倍内閣が続く限りは、株式比率を元に戻すことは考えられないので、国民は自分でできる対策を行い影響を少なくするしかありません。

将来的な年金の減額に対しては、例えば2017年1月から対象者が拡大される個人型の確定拠出年金に加入して、減額分を自分の資産で穴埋めするのです。

また現役世代が納付する保険料が、現在より値上げされるということは、給与の手取りの減少につながりますので、生命保険の保険料や携帯電話の料金などの、固定費の見直しを行い、節約に努めるのです。

高齢になっても働き続けるには健康維持が不可欠

一般的に節約というと、食費などの変動費から始める方が多いようですが、それは後にした方が良いと思います。

その理由として年金の支給開始年齢が、現在の原則65歳から70歳程度まで引き上げされた場合、無収入の期間を回避するため、現在よりも高齢になるまで働く必要があります

そのためには健康の維持が不可欠になり、食費を節約して十分な栄養が摂取できなくなると、健康の維持に支障が出てくると思うのです。

また健康を維持するには、適度な運動も必要になり、ウォーキングくらいの軽い運動であれば、すぐにでもできると思うので、年金積立金の5兆円の運用損に心を動かされたら、体を動かすことから始めてみましょう。(執筆者:木村 公司)