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2017年度から厚生労働省と日本年金機構が「国民年金の強制徴収」する対象者を拡大した理由

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2017年度から厚生労働省と日本年金機構が「国民年金の強制徴収」する対象者を拡大した理由

自営業者やフリーランスなどが加入する国民年金の、保険料の納付率を向上させるため、厚生労働省と日本年金機構は強制徴収する対象者を、2017年度から拡大する方針です。

あるインターネットの掲示板を見ていたら、こういった対象者の拡大について、次のような意見が書き込まれておりました。

「年収300万円くらいの方から強制徴収するなんて、厚生労働省と日本年金機構は弱い者イジメをしている」

「厚生労働省と日本年金機構は、強制徴収する対象者の拡大により、積立金の運用に失敗したつけを、国民に回そうとしている」

このいずれについても、正しい意見のように見えますが、次のように間違っている部分もあるのです。

強制徴収の基準は「年間収入(年収)」ではなく「年間所得」


預貯金、自動車、給与などの財産を差し押さえされ、国民年金の保険料を強制徴収されるのは、「年間所得が350万円以上で、未納月数が7か月以上」という方でした。

この基準が2017年度から、

「年間所得が300万円以上で、未納月数が13か月以上」

に変更されるので、強制徴収の対象者が拡大されるのです。

ここで注意すべきなのは、強制徴収は「年間収入(年収)」ではなく、「年間所得」を基準にしているという点で、上記のような書き込みをした方は、この点を勘違いしているのではないかと思いました。

年収から必要経費(給与所得控除)を引くと、年間所得が算出される

自営業者やフリーランスについては、年収から「必要経費」を引くと、年間所得が算出されます

また会社員(正社員、パートやアルバイトなど)については、会社員の必要経費とされる「給与所得控除」を年収から引くと、年間所得が算出されます。

これを元に強制徴収の対象となる「年間所得300万円以上」を、年収に換算してみると、例えば会社員の場合には、「年収442万8,000円以上」になります。

自営業者やフリーランスの場合

事業内容によって必要経費の金額に違いがあるので、具体的な年収は示せませんが、おそらく会社員より年収が高かったとしても、強制徴収の基準から外れる場合が多いと思うのです。

滞納者のうち年間所得が300万円以上あるのは、6%くらいしかいない

このように年間所得が300万円以上ある方というのは、まあまあの収入がある方となり、国民年金の保険料を納付するだけの、金銭的な余裕がない状態とはいえないと思うのです。

これを裏付ける厚生労働省の調査結果があり、それは国民年金の保険料の滞納者の94%は、年間所得が300万円未満であり、年間所得が300万円以上ある方は、6%しかいないというものです。

そうなると今回の強制徴収の拡大は、保険料を納付するだけの金銭的な余裕があるのに、滞納を続けている6%程度の方を狙ったものであり、決して上記の書き込みのように、年収300万円くらいの方を狙ったものではありません。


公的年金は保険料だけでなく、国庫負担と積立金の取り崩しで賄われる

日本の公的年金(国民年金、厚生年金保険など)は基本的に、現役世代が納付した保険料を、その時点の年金受給者に年金として配分する、「賦課方式」で運営されております。

ただすべての年金受給者に配分するには、保険料だけでは足りないので、国庫から負担金が支払われております。

これに加えて人口構成がまだ若く、年金受給者が少なかった時代に貯めていた、積立金を取り崩して、保険料と一緒に配分しているのです。

この積立金はただ保管しておくだけでなく、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)によって、

・ 国内債券
・ 国内株式
・ 外国債券
・ 外国株式

などで運用されております。

四半期ベースで過去最大の赤字を記録するが、通算では黒字の積立金

積立金は安全性を確保するため、国内債券に資金の60%を配分した、保守的な運用が行われてきました

しかし安倍総理の指示により2014年10月から、国内株式と外国株式の比率が12%から25%に引き上げされ、

・ 国内債券:35%
・ 国内株式:25%
・ 外国債券:15%
・ 外国株式:25%

になったのです。

この引き上げを実施した後に、中国の景気減速などの影響によって、株価の大幅な下落が起きたため、2015年7~9月期の積立金の運用成績は、四半期ベースで過去最大となる、7兆8,899億円の赤字を記録しました。

ただ2016年10~12月期には、トランプ大統領の政策に対する期待感などから、株価の大幅な上昇が起きたため、積立金の運用成績は四半期ベースで過去最大となる、10兆4,973億円の黒字を記録しました。

また積立金の運用成績は、市場運用を開始した2001年度から、2016年度第3四半期までの通算で、2.93%(年率)の黒字を確保しており、決して赤字ではないのです。


「損失回避性」の心理により、黒字より赤字の方が記憶に残る

このように積立金の運用成績は通算で、黒字を確保しているにもかかわらず、上記の書き込みのように、積立金の運用は失敗という印象を持ってしまうのは、マスコミの影響が大きいと思います。

四半期ベースで過去最大の赤字を記録した時には、かなり力を入れて報道しました。

しかし四半期ベースで過去最大の黒字を記録した時には、あまり報道しなかったので、積立金の運用は失敗という印象を持ったのです。

また人間の心理には、利益を得ることより、損失を避けることを重視する、「損失回避性」があるため、黒字より赤字の方が記憶に残り、積立金の運用は失敗という印象を、持ってしまったのかもしれません。

国民年金の滞納の穴埋めに使われている「厚生年金保険」の保険料

厚生年金保険に加入している会社員は、国民年金にも同時に加入しているので、原則65歳になった時に、厚生年金保険から支給される「老齢厚生年金」だけでなく、国民年金から支給される「老齢基礎年金」も受給できるのです。

また2つの制度に同時に加入しているということは、給与から控除されている厚生年金保険の保険料の一部は、国民年金の保険料に回ります

そのため国民年金の加入者が、保険料の納付を滞納した場合には、厚生年金保険の保険料のち、国民年金の保険料に回る部分が、その穴埋めのために使われてきたのです。

こういったことを繰り返していくと、厚生年金保険の加入者から批判を受けてしまう

というのが、厚生労働省と日本年金機構が強制徴収する対象者を拡大した、一番の理由になるのではないでしょうか?(執筆者:木村 公司)

《木村 公司》
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執筆者:社会保険労務士 木村 公司 木村 公司

1975年生まれ。大学卒業後地元のドラッグストアーのチェーン店に就職。その時に薬剤師や社会福祉士の同僚から、資格を活用して働くことの意義を学び、一念発起して社会保険労務士の資格を取得。その後は社会保険労務士事務所や一般企業の人事総務部に転職して、給与計算や社会保険事務の実務を学ぶ。現在は自分年金評論家の「FPきむ」として、年金や保険などをテーマした執筆活動を行なう。 【保有資格】社会保険労務士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、DCプランナー2級、年金アドバイザー2級、証券外務員二種、ビジネス実務法務検定2級、メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅱ種 寄稿者にメッセージを送る

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