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若者は選挙に行かないと、年間で「13万5000円」損をする。

ビジネス 経済
若者は選挙に行かないと、年間で「13万5000円」損をする。

衆議院選挙戦が本格的に始まった

主要メディアの情勢分析によれば、「自民・公明の与党で過半数を大きく上回り、300議席をうかがう可能性も」といった状況が相次いで報道されている。

小池百合子東京都知事率いる「希望の党」


≪画像元:希望の党≫

民進党との合流の際、候補者を選別するという「排除の論理」をもって、リベラル色を排すると言っていた。

しかし安全保障・憲法改正に関する政策で右寄りのスタンスを強調したがために、有権者からの支持が思いのほか集まらず苦戦を強いられている。

希望の党が、安倍政権への批判票の受け皿となり、政権選択選挙の主役となるべく大きく躍進することを期待していた筆者は、少し残念な思いで選挙情勢を見守っている。

本記事コラム執筆時点(2017年10月13日)で、10月22日の投票日までまだ1週間以上もあることから、支持政党を持たない有権者の浮動票がどこに向かうのか、そして投票率がどこまで上がるかに注目をしている。

投票率低下が止まらない

総務省のデータによれば、国政選挙の投票率は、2014年(平成26年)12月に行われた第47回衆議院議員総選挙では52.66%だった。

2016年(平成28)年7月に行われた第24回参議院議員通常選挙では、54.70%だったので、投票率の低下傾向に歯止めはかかっておらず依然として低い水準にとどまっているといえよう。

諸外国の国政選挙における投票率は、80%以上が当たり前で、90%を超える国も少なくない。

投票率低下に関して大変興味深い指摘


若年層の投票率低下に関して大変興味深い指摘があったので以下に内容を紹介する。

公益財団法人「明るい選挙推進協会」によると、衆議院選挙での20代の投票率は1967年の66.69%をピークに低下傾向が続き、2012年の選挙は37.89%で、全体の投票率59.32%を大きく下回った。

年齢別の投票率などを研究されている東北大の吉田浩教授(加齢経済学)は、

「20~49歳の投票率が1%低下すれば、若者世代が1人当たり年約13万5千円分の損失を被る」

との試算をまとめたとのこと。

過去の国政選挙での

・ 世代別投票率
・ 国内総生産
・ 国債の新規発行額
・ 社会保障

などを分析すると、若者の投票率が下がるにつれ、若い世代の負担が増すといった結果が出たというのだ。

吉田教授は

「高齢者にばかり目を向ける政治家の意識を変えるには、若者が投票で声を上げるしかない」

と提言している。

13万円5千円の損失がどのように試算されたのかは、記事のもとになった吉田教授の研究ペーパーで確認ができる。興味のある読者はこちら(pdf)を参照して欲しい。

参照:日本経済新聞の記事(2014年11月26日付)

吉田教授の研究結果から解説


≪画像元:総務省 国政選挙における年代別投票率について

1967年から2012年まで実施された国政選挙(24回)で、若年世代(20~49歳)の投票率低下と毎年新たに発行される国債額の増加の関係を分析。

その結果、若年世代の投票率が1%低下すると、将来負担となる国債が若年者1人当たり7万5,300円分発行されることが明らかになった

また、1976年から2009年までの世代別投票率と社会保障給付の世代別配分の関係を調べたところ、若年世代の投票率が1%低下すると、高齢者に比べ若年者への社会保障給付は年間5万9,800円減少することが分かった。

若年世代の投票率をみると、1967年では74.9%と高かったが、直近の2012年では49.1%と大きく低下している。これに対して、高齢世代の投票率はほぼ70%前後で変わっていない

このまま若年世代の投票率が下がり続けると、

「1%の低下につき将来負担となる国債が7万5,300円増加し、社会保障給付でも高齢世代に比べて5万9,800円格差が広がることから、合計で年間13万5,000円の不利になる」

というわけだ。


≪画像元:吉田教授 研究ペーパー(pdf)≫

この研究結果について、吉田浩教授は「年間13万5,000円の不利は、若年世代が投票に行かないことによって失っている便益であり、選挙棄権のコストである」と指摘している。

若年層が被る13万5,000円の損を、政治に参加しなかったことによるペナルティーとして捉えると、目に見えない政治不参加税といえるかもしれない。

「若年世代は、このような政治不参加のコストを認識して若年世代の声が政策(とりわけ社会保障政策)に反映されるよう投票参加への行動を起こすことや、国政選挙における若年世代の候補者の比率が高まることも期待する」

という吉田教授の考えに大いに賛成したい。

日本が投票を義務化しない理由

たとえ「13万円の損」を大手メディアが国民に対して大々的に訴えたとしても、どれくらいの若年層が政治参加への意識を高め、結果的に彼らの投票行動を促すことにつながるのだろうか。

残念ながら、若年層の投票率を高める効果はあまり期待できないいうのが筆者の率直な考えである。

筆者個人の意見ではあるが、投票率を上げる手段として諸外国でも導入されている「義務投票制度」を日本でも導入してみてはどうだろうか。

日本は、投票は「国民の権利」であり「国民の義務」ではないため、任意投票制をとっていることなる。

投票率が上がることは、強固な票田や組織票をもつ自民党、公明党、共産党などの主要政党にとっては必ずしも好まし状況ではない。

そのため、日本において義務投票制の導入が実際に検討・議論される可能性は高くないのが現状であろう。

義務投票制

選挙において投票すること(または投票所へ行くこと)を有権者に対して法律上義務付ける制度のことをいう。

義務投票制が採用されているオーストラリア


オーストラリアでは選挙に行かないと、20豪ドル(約1,800円)の罰金が科されるので、投票率は95%と驚異的に高いのだ。

実は、筆者の知り合いで日本に住んで8年になる人がいるのだが、オーストラリアで選挙があると、日本にある豪大使館(もしくは領事館)へ投票に行くのだと語っていた。

たとえ海外に住んでいたとしても、投票に行かないと罰金が科される規定があるとのこと。現在の日本では到底考えられない仕組みである。

長期入院をしていたり、精神的・身体的な理由で投票にいけなかったりする場合は、その旨を事前に選挙管理事務当局へ届け出ることで罰金は免除される。

投票率50%台は異常事態


投票率が低いことが毎回の国政選挙で話題になる日本で、「投票しなかったら罰金を科す」といった義務投票制を導入すれば、

低い投票率がすぐにオーストラリア並みの90%超に上がって問題が即解決するのか?

さらには若年世代の政治参加意欲が向上するのか?

は、実際に制度を導入してみなければ効果は分からない。

しかし、憲法改正はともかくとして、

・ 巨額の政府債務問題

・ 少子高齢化にともなう社会保障制度の持続性

・ 子育て・教育支援

・ 安全保障政策

など問題が山積しているわが国で、国の行く末を決める国政選挙の投票率が50%台と著しく低いという現状は、諸外国から見たら異常事態と見なされるだろうし、決して放置はできない

義務投票制の効果もさることながら、罰金(過料)をいくらにすべきか、またその徴収をどのように行うかなど実際の制度導入には技術的・事務的な問題もあるだろう。

まずは、試験的にどこか規模の小さい首長選挙や地方議会選挙などで導入して、制度導入にともなう事務コストと併せて実施効果を検証してみることを、筆者は政府・総務省へ提言をしたい。(執筆者:完山 芳男)

《完山 芳男》
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完山 芳男

独立系FP事務所 FPオフィスK 代表 米国公認会計士(ハワイ州)、日本FP協認定CFP(国際上級資格)、1級ファイナンシャルプランニング技能士(国家資格) 慶応義塾大学商学部卒業。大手自動車メーカーや外資系企業等の経理財務部勤務を経て、カリフォルニア大学バークレーへ1年間留学し、ファイナンスを履修。帰国後、米系・欧州系企業において経理責任者を務める。2004年愛知県名古屋市にて、独立系FPとして事務所を開所し現在に至る。 寄稿者にメッセージを送る

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