年金記録を「改ざん」するブラック企業 「ねんきん定期便」確認で対策を»マネーの達人

年金記録を「改ざん」するブラック企業 「ねんきん定期便」確認で対策を

給与から控除されている厚生年金保険の保険料は、給与の金額に比例して、増えていく仕組みになっているのです。

【例えば】
月給の金額が15万円の場合には、
1か月あたりの保険料は1万3,725円になり、

月給の金額が30万円の場合には、
1か月あたりの保険料は2万7,450円になります。

またお勤め先の会社が給与から控除した保険料を、日本年金機構に納付する際には、それとほぼ同額を会社が拠出して、両者を併せたものを納付するのです。

つまり、
月給の金額が15万円の場合には、
1か月あたり2万7,450円(1万3,725円 × 2)

月給の金額が30万円の場合には、
1か月あたり5万4,900円(2万7,450円 × 2)

日本年金機構に納付します




会社は拠出の増加があるため、給与の引き上げに対して慎重になる

新年度が近づいてくると、定期昇給(年齢や勤続年数などに応じた基本給の引き上げ)や、ベースアップ(基本給の水準の全体的な引き上げ)が話題になります。

いずれの引き上げであっても上記のように、厚生年金保険の保険料の負担が重くなる場合が多いのです。

ただ給与から控除される保険料が多くなるほど、将来に受給することになる年金額も増えていきますから、従業員にとっては悪い話ばかりではありません。

その一方で従業員が納付する保険料と、ほぼ同額を拠出する必要のあるお勤め先の会社は、従業員のために拠出する金額が増えても、特に見返りはありませんから、給与の引き上げは悪い話になります

また雇用保険や健康保険などの他の社会保険も、厚生年金保険と同じような仕組みのため、給与が引き上げされるほど、従業員のために拠出する金額が増えるのです。

ですから会社は業績が改善しても、給与の引き上げに対して、慎重な姿勢をとってしまうのです。

また給与の引き上げを実施しても、金額が変わっていないように見せかけて、会社が拠出すべき金額を抑えていた、次のようなケースもあります


海外に設立した会社を活用して、2年間で6,000万円超の拠出を逃れる

2017年9月頃に発表されたニュースによると、

東京都内のあるタクシー会社は、従業員を採用した後に、香港に設立したダミー会社に転籍させ、そこから都内の会社に出向しているという形にして、両方の会社から給与を支払っていた。

要するに実態としては都内の会社に採用され、日本国内で働いていただけなのに、給与は日本と香港の会社の両者から、分割して支払われていたのです。

このような手間のかかることをしていた理由としては、日本国内にある会社から支払われる給与だけを元にして、厚生年金保険の保険料を算出すれば、従業員のために会社が拠出する金額を抑えられるからです。

具体的には職種や勤続年数にかかわらず、日本にある会社から支払われる給与を一律に15万円程度にして、それを超える分については、香港に設立したダミー会社が支払っておりました

そうすると従業員に支払われる給与がいくらであっても、会社は15万円程度に対応する保険料を給与から控除して、それとほぼ同額だけを拠出すれば良いのです。

この手口によってタクシー会社は、2年間で少なくとも6,000万円超の拠出を逃れておりました。


年金記録の改ざんは定年後に顕在化するため、すぐに気が付きにくい



従業員に残業代を支払わなかったり、残業代に一定の上限を設けたりしている会社が、ブラック企業だと批判される場合があります。

タクシー会社による厚生年金保険の拠出逃れは、本来は会社が負担すべき分を支払っていなかったのですから、残業代の未払いと変わりがないと思うのです。

また会社の拠出逃れによって、年金記録の中にある保険料の納付額が変わってしまうのですから、年金記録の改ざんではないかと思うのです。

ただ残業代の未払いと違って、年金額が少なくなるというデメリットが顕在化するのが定年後のため、すぐに気が付かない場合が多いのかもしれません。

また気が付いていたとしても、当面は厚生年金保険の保険料が安くなって、手取りが増えるというメリットが従業員の側にあるため、年金事務所などに相談しなかったのかもしれません。


給与から控除された保険料が、私的な目的で使われる場合がある

ブラック企業は保険料の納付額だけでなく、厚生年金保険の資格取得日や喪失日も、改ざんしている場合があります

例えば試用期間中であっても、他の社員と同じ労働条件で働いていれば厚生年金保険に加入するのに、試用期間中は厚生年金保険に加入しないということにして、資格取得日を遅らせるのです。

もっと悪質な会社になると、従業員の給与から控除した厚生年金保険の保険料を、日本年金機構に納付せず、私的な目的のために使ってしまうため、厚生年金保険の加入履歴が残らないのです。

2009年1月頃に厚生労働省から、このようなケースが1万4,124件、合計で約9億400万円もあったと発表されたので、人ごとと思わない方が良いのかもしれません。


年金記録の改ざんが心配な方は、ねんきん定期便を確認してみる



2009年4月からは、誕生月(1日生まれの方は誕生月の前月)になると、「ねんきん定期便」が送付されるようになりました。

この中に記載されている「標準報酬月額」が、現在受け取っている月給と大きくかけ離れていたら、上記のタクシー会社と同じように、正しい月給を届出していない可能性があります

また2003年4月からは賞与から控除される保険料も、年金額に反映されるようになりました。

なので賞与が支払われた月については、ねんきん定期便の中の「標準賞与額」の部分に、賞与とほとんど変わらない金額が記載されているはずです。

もし会社から支払われた賞与の金額と標準賞与額が、大きくかけ離れていたら、または標準賞与額の部分に何も記載されていなかったら、正しい金額を届出していないか、届出自体をしていない可能性があります。

あとは資格取得日や喪失日が合っているかも、きちんと確認しておいた方が良いと思います。

このようにねんきん定期便は、年金記録を改ざんしようとするブラック企業の対策としても活用できるので、中身をよく見ないで放置しておくのは、もったいないと思うのです。(執筆者:木村 公司)

この記事を書いた人

木村 公司 木村 公司»筆者の記事一覧 http://manetatsu.com/author/kkimura/

1975年生まれ。大学卒業後地元のドラッグストアーのチェーン店に就職。その時に薬剤師や社会福祉士の同僚から、資格を活用して働くことの意義を学び、一念発起して社会保険労務士の資格を取得。その後は社会保険労務士事務所や一般企業の人事総務部に転職して、給与計算や社会保険事務の実務を学ぶ。現在は自分年金評論家の「FPきむ」として、年金や保険などをテーマした執筆活動を行なう。
【保有資格】社会保険労務士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、DCプランナー2級、年金アドバイザー2級、証券外務員二種、ビジネス実務法務検定2級、メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅱ種

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