「裁量労働制」は誰のため? 本当に「労働時間短縮」につながるのか»マネーの達人

「裁量労働制」は誰のため? 本当に「労働時間短縮」につながるのか

裁量労働に関する、国会で提示されたデータはまちがいだった…。

報道ではかなり取り上げられてはいますが、国民は平昌冬季五輪の話題でもちきり、ワイドショーは連日メダリストの私生活を追いかける内容ばかりです。

「そうだねぇ~」もいいですが、こっち話はそうはいかないようです。


裁量労働制とはなにか

裁量労働制とはなにか

裁量労働制とは、労働基準法37条の3以下にも定めがある現行法下の制度で、一言でいえば、実労働時間ではなく「みなし労働時間」で時間管理をする制度です。

通常、1日の労働時間は8時間となっていて、これを超えた場合、割増賃金(残業代)が支払われることになります。

残業は無制限に行われるのではなく、三六協定と呼ばれる労使間での取り決めで、残業の上限が決められています。

みなし労働とは、最初に労働時間を設定して賃金を決めます。

実際にその時間通りに労働しなくても、また逆に設定時間を超えて労働したとしても、支払われる賃金は当初決めた金額で変わらないというものです。

これは雇用者側に得なのか、労働者側にメリットがあるのか、どっちでしょう。

国は、この裁量労働制導入には厳しい縛りを設けています。労働内容が「専門業務型」と「企画業務型」の2種類にのみ適用を認めています。

この2種類に関しては、厚生労働省ホームページに詳しく解説してあります。

大まかに解説しますと、専門業務とは、労働成果物完成提供までの過程および必要時間が、労働者側の裁量によりすべてゆだねられているもので、弁護士や会計士・税理士、放送関係の仕事などが対象となります。

具体的職業を見れば、なんとなくイメージできますかね。デザイン考案とか相場を見る証券アナリストも専門業務型に入ります。

今回政府がこの裁量労働制の適用を拡大しようとしてるのは、もう一つの企画業務型になります。この業務内容の解釈を拡大しようとしているのです。

現在、企画業務型の裁量労働制は、企業の中枢部門で働いている人に限定し、企画立案などの業務を自律的に行う人にその適用を認めています。

今回の改正では、その範囲を法人提案型営業などについても拡大しようとするものです。

法人提案型営業という概念を「非常に高度なコンサルティング営業」ということになっているようです。

「高度なコンサルティング営業」の対議語となれば「単なる商品の販売」となるのでしょうかね。

法人提案型営業に関しての考察の前に、「裁量」について考えてみます。


裁量という言葉が気になります

裁量とは?

裁量を定義するなら、業務遂行手順や時間等を自分の判断で決める、画一的な判断基準がなく、個々の能力にゆだねることとなります。

労働を分析すれば、使用者(いわゆるトップ)から命令されて業務を行い、雇用者は命令業務を遂行し、使用者の意図した結果を提供することと表現できます。

裁量が働く場面は、労働を行う最初の使用者の命令でもなく、結果を提供する場面でもなく、雇用者の業務遂行場面にかかってくる言葉だと理解できます。

それは単純に考えれば、雇用者の労働時間が裁量対象となるのでしょう。

専門業務は、業務遂行にかかる時間を問いません。

完成物を納めることが重要で、弁護士などの業務を見ればわかりますよね。弁護士が、労働時間上限がどうのって言っていたら、勝てる裁判も勝てなくなりますよね。

一般業務において裁量労働制を取り入れたら、業務遂行能力が高く、効率的に完成品を納められるとしても、与えられる業務の量が多くなればどうなるでしょう。

「働く時間は自由でいつ帰ってもいいけど、ちゃんとやり終わってからにしてね」と言われても、業務が終わっていなければ帰るわけにもいかず、なおかつ残業代はつきません

これは極端な例かもしれませんが、労働時間を規制するのではなく業務量が問題ではないかと思います。

裁量労働制は、どうやら労働時間短縮に繋がるようではないようです


なぜ法人提案型営業が対象なのか

法人提案型営業

「非常に高度なコンサルティング営業」とは法人営業に限られるのでしょうか。

いまは個人に対しても提案営業がなされていて、高度なコンサルティングを必要とするのが法人に限定しているところに、なにか違う意図が見えてきそうです。

裁量労働の「裁量」は、雇用者労働時間を対象としているのではと指摘しました。

「働き方改革」には、時間外労働の上限規制が行われるイメージがありますが、裁量労働制の場合は、「みなし労働時間」設定での上限規制が対象となるだけで、実際の労働時間はその上限規制の対象外です。

法人対象とすることで、裁量労働制度適用者を限定してるかのイメージを持ちますが、いずれは高度業務という観点から、個人営業にも拡大してくるのではないかと指摘する人もいます。

法人提案型営業という、いかにも限定的な適用範囲を設けることで導入障壁を低くして、ゆくゆくは適用を拡大していくのではとの指摘があります。



そもそも「働き方改革」の目的は

「働き方改革」の目的は

「働き方改革」は、「一億総活躍社会」実現に向けた取り組みのためのもので、労働者人口減少に対する労働力不足解消を目指すものです。

「働き方改革」の具体的な3つの課題は
・長期労働の改善
・非正規と正社員の格差是正
・高齢者の就労促進

すごくうがった見方をすれば、裁量労働制度により、そもそもの残業問題そのものがなくなるのではないでしょうか。

高齢者の就労促進は、年金支給開始年齢引き下げと関連しているのでしょうかね。

労働人口の補充、そのための女性、高齢者、障害者の社会進出を促すものが「一億総活躍社会」であり、「多様で柔軟な働き方」の旗のもとに推進されたのが、非正規雇用労働者の拡充であるようです。

非正規雇用者のための労働環境改善を前面に出して、労働のあり方、労使関係のあり方を変えていこうとしているような気がします。

それは「同一労働同一賃金」の旗の下、非正規雇用者の待遇改善が訴えられています。

厚生年金加入を含め、非正規雇用者と正社員との環境を等しくするようですが、これを正社員の角度から見れば次のようなことも考えられます。

現在、正規社員の整理解雇に関する規制が非正規社員に比べて強いことが、日本の労働市場に正規と非正規の二重構造を作り出し歪ませているという議論があります。

このため解雇規制を緩和するべきという意見があります。

現在の労働基準法では、正社員は会社の特別な理由がない限り、さらにその理由を雇用者側が納得した場合にのみ解雇することができますが、それ以外は会社都合で一切解雇することはできなくなっています。

それゆえ、正社員と非正規雇用との環境を等しくするのであれば、解雇に関する規定も見直そうという動きがあってもおかしくはありません。

この解雇規制の緩和は、具体的には金銭による解雇促進というもので、お金を渡してやめてもらうという金銭解決の方法を認めようというものです。

再就職支援の名目でお金を渡すのでしょうが、一旦雇った正社員は会社都合で辞めさせられないので、非正規雇用重視で雇用するのでしょう。

さらに労働基準法による厳しい解雇規制が、海外企業の日本進出を阻む大きな壁となっている現実を打破するために解雇規制緩和を行うのではないのでしょうか。


目的は労働基準法の改正か

労働基準法の改正

安倍政権が最重要課題と位置付ける「働き方改革関連法案」を今国会では、8本の改正法案を束ねたものが、一括法案として提出される見込みです。

その中に、時間外労働の上限規制などとともに、改革の目玉の一つとされる裁量労働制の拡大が入っていたのです。

どうやら、野党の追求で、与党内からも、今国会での裁量労働制導入は見送られるようです。

経済界に賃金アップを要求した安倍総理が、経団連との取引で導入しようとしたのではとも言われています。

働き方改革を推進するには、労働基準法を変えることが必要になってきます。残業時間の短縮を盛り込むのでしょうが、裁量労働性では残業は関係ありません。

副業をしやすくする制度も検討されていますしね。

労働基準法改正に踏み切る目的には解雇規制の緩和があると思われます。解雇規制の緩和に関しては、現在福岡市で国家戦略特区として実施しています。

特区構想は、既成事実を作って全国区にする目論見があるのではないでしょうか。

安倍政権は、憲法改正をめざしていますが、同時に労働基準法の改正にもうって出ると思われます。

この国の、社会の根幹が変わることになりそうです。(執筆者:原 彰宏)

この記事を書いた人

原 彰宏 原 彰宏»筆者の記事一覧 http://www.spway369.com/

株式会社アイウイッシュ 代表取締役
関西学院大学卒業。大阪府生。吉富製薬株式会社(現田辺三菱製薬株式会社)、JTB日本交通公社(現(株)ジェイティービー)を経て独立。独学でCFP取得。現在独立系FPと して活動。異業種経験から、総合的に経済、企業をウォッチ、金融出身でないことを武器に「平易で」「わかりやすい」言葉で解説、をモットーにラジオ出演、 セミナーや相談業務、企業労組の顧問としての年金制度相談、組合員個別相談、個人の年金運用アドバイスなどを実施。個人投資家として、株式投資やFX投資を行っている。
<保有資格>:一級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP
【寄稿者にメッセージを送る】

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