国民年金などの公的年金は原則として、現役世代が納付した保険料を、その時点の年金受給者に年金として分配する、「賦課方式」という仕組みで運営されております。

例えるなら、現役世代の子供が、高齢になった親に対して、生活費などの仕送りをしているような感じです。

この賦課方式の欠点としては、年金受給者の人数が増え、それを支える現役世代の人数が減るという状況が続いていくと、現役世代から徴収する保険料を、何度も引き上げする必要がある点です。

現在の日本はこのような状況のため、現役世代の負担がどんどん重くなっていき、それにより生活に余裕がなくなってしまうのです。

現役世代の負担が重くなっていき、それにより生活に余裕がなくなる

そこで2004年に法改正を実施して、現役世代から徴収する国民年金の保険料に「月額1万6,900円」という上限額を設定して、この上限額で賄える範囲で、年金額を調整すると決めました。

家計に例えるなら、収入の伸びが止まるので、その範囲内で生活ができるように、支出を抑えるようなものです。

また保険料の上限額を設定すると同時に、月額1万3,300円だった国民年金の保険料を、1万6,900円という上限額に達するまで、毎年4月に280円ずつ引き上げすると決めました。

国民年金の保険料は、上限額に達した後に下降に転じている

このような経緯で2005年4月から始まった保険料の引き上げは、2017年4月をもって終了しました。

もう引き上げは終わったため、一安心だと思うのですが、納得していない方もいるようです。

その理由としては、2017年4月に引き上げが終了した時点の国民年金の保険料は1万6,490円であり、2004年に定められた1万6,900円という上限額とは違うからです。

また2017年4月に引き上げが終了したため、保険料の金額はもう変動しないはずなのに、2018年4月にまた改定が実施され、保険料の金額は1万6,340円に下降したからです。

国民年金保険料の問題

賃金や物価の変動率に応じて、年金と保険料の金額が改定される

国民年金から支給される「老齢基礎年金」や、厚生年金保険から支給される「老齢厚生年金」などは、賃金や物価の変動率に応じて、毎年4月に金額を改定しております。

原則として、67歳到達年度までの「新規裁定者」は賃金の変動率で、また68歳到達年度以降の「既裁定者」は物価の変動率で、これらの金額を改定します。

年金額を定期的に改定する理由としては、例えば物価が上昇しているのに、年金額が変わらなかった場合、老齢基礎年金や老齢厚生年金の実質的な価値が下がり、年金受給者の生活が苦しくなってしまうからです。

このように物価の上昇に応じて、4月から年金額を増やすのなら、公的年金は上記のように「賦課方式」で運営されているため、現役世代から徴収する保険料を引き上げしないと、バランスが取れなくなります。

その一方で物価が下降すれば、4月から年金額は減りますから、現役世代から徴収する保険料を引き下げできます。

このような理由があるため、2004年に定められた上限額と現在の保険料の金額が一致せず、また保険料の金額はもう変動しないはずなのに、2018年4月から下降したのです。

もう少し詳しく説明すると、国民年金の保険料は、2004年の法改正の際に定められた金額に、その後の賃金や物価の変動率を元に算出した「保険料改定率」を掛けることにより、現在の価値に変わっているのです。

そうなると今後も賃金や物価の変動に応じて、保険料の金額は変わっていきますが、2019年度以降は次のような3つの理由により、上昇に転じる可能性の方が高いと考えております。

【理由1】産前産後期間の保険料の免除制度が導入される

国民年金には保険料を前納すると一定額が割引される、保険料の前納制度があり、この上限はもともと「1年」でしたが、2014年4月から「2年」に延長されました。

そのため、2019年度の保険料はすでに厚生労働省から発表されており、その金額は1万6,410円となります。

これを2018年度の1万6,340円と比較してみると、70円ほど上昇しているとわかります。

このように保険料が上昇に転じたのは、厚生年金保険では以前から導入されている、産前産後期間の保険料の免除制度が、2019年4月から国民年金でも導入されるからです。

産前産後期間の保険料の免除制度

産前産後期間の保険料の免除を受けた期間は、保険料を納付する必要がなくなるだけでなく、保険料納付済期間と同様の取り扱いになるため、免除を受けた期間の分だけ、老齢基礎年金が減額されることはありません。

そうなると、保険料納付済期間と同様の取り扱いにするための財源が必要になるので、2019年4月から国民年金の保険料は100円引き上げされ、1万7,000円(2004年に定められた上限額の「1万6,900円」+財源の「100円」)になる予定でした。

しかし、上記のように実際に徴収する保険料は、賃金や物価の変動率を元に算出した保険料改定率を掛けて、現在の価値に変えているため、1万6,410円になったのです。

【理由2】黒田総裁の再任により、大規模な金融緩和が継続する

2018年4月9日に、政府は任期満了を迎えた日銀の黒田総裁を再任したため、新たに5年の任期が始まりました。

日本銀行の黒田総裁

≪画像元:日本銀行

そのため黒田総裁が目標として掲げている、2%の物価上昇が達成されるまで、大規模な金融緩和が継続すると考えられます。

そうなると物価が上がりやすくなり、また物価が上がった後には、賃金も上がる可能性があります。

国民年金の保険料は上記のように、賃金や物価の変動率を元に改定しておりますから、賃金や物価が上がることは、保険料の金額が上昇する要因になるのです。

【理由3】2019年10月から、消費税率が引き上げされる可能性がある

消費税8%から10%の引き上げ

日銀の大規模な金融緩和よりも確実に物価を上げるものがあり、それは消費税率の8%から10%への引き上げです。

2019年10月から引き上げが実施される予定ですが、今のところは実施されるのかはわかりません。

ただ実際に引き上げが実施されれば、その分は物価が上がり、また企業に対する政府からの賃上げ要請は強くなりますから、国民年金の保険料が上昇する要因になるのです。

国民年金の保険料を未納にする前に、免除の手続きを実施する

国民年金の保険料が上昇に転じると、景気回復や強制徴収の強化によって、上昇が続いていた保険料の納付率が再び下降する可能性があります。

ただ申請をすれば、保険料の免除(全額、4分の3、半額、4分の1、納付猶予)を受けられます。

それなのに、手続きをしていない方は多いですから、こういった方がきちんと手続きをすれば、納付率の下降は避けられると思うのです。

国民年金保険料免除・納付猶予制度

≪画像元:日本年金機構

保険料の免除を受けるための手続きは郵送でも可能ですから、免除を受けられる要件に該当する方は、国民年金の保険料を未納にする前に、免除の手続きを実施しましょう。(執筆者:木村 公司)