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未払いの残業代を受け取った後に、給与の手取り額が減ってしまう場合がある その理由とは

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未払いの残業代を受け取った後に、給与の手取り額が減ってしまう場合がある その理由とは

全国各地にある労働基準監督署は割増賃金、いわゆる残業代を支払っていない企業に対して、未払いの残業代を支払って下さいと指導する、是正指導を実施しているのです。

未払いの残業代を受け取った後に、給与の手取り額が減ってしまう可能性がある

2017年度(2017年4月~2018年3月)内に実施された是正指導のうち、労働者に支払うべき残業代を、100万円以上支払っていなかった企業に対するものが、2018年8月に厚生労働省から発表され、その結果は次のようになっております。


≪画像元:厚生労働省 監督指導による賃金不払残業の是正結果(平成29年度)

労働基準監督署の是正指導により、労働者に対して支払われた残業代の合計額は、前年度より約319億円増えて約446億円となり、これは過去10年間の中では、最高の数値です

また労働者に支払われた残業代の合計額はここ数年、約100億円から約140億円で推移しておりましたが、2017年度は約446億円になったため、一気に上昇しました。

このように未払いの残業代が、労働基準監督署の是正指導により、きちんと支払われるのは、労働者にとっては良いことだと思います。

ただ次のような理由により、未払いの残業代を受け取った後に、給与の手取り額が減ってしまう可能性があるので、この点には注意すべきだと思います。

月給と社会保険の保険料を、釣り合ったものに変える「定時改定」

月給から控除されている、社会保険(健康保険、厚生年金保険)の保険料は、現在の勤務先で働き始めた時に、入社時の月給(基本給+各種手当)を元にして決めるのです。

ただ新年度が始まる時に定期昇給があったり、結婚して家族手当が支払われるようになったりすると、月給と社会保険の保険料との間に、ズレが生じます。

そこで原則として4月から6月の、3か月間の月給の平均額を元に、社会保険の保険料を改定して、この金額を現在の月給と、釣り合ったものにするのです。

これは「定時改定」と呼ばれるものであり、改定された保険料は、月給に大きな変動がなければ、9月から翌年の8月までの、各月の月給に対して適用されます

また今月の社会保険の保険料は原則として、翌月に支払われる月給から控除されるため、実際に保険料の金額が変わるのは、10月からになります

過去に遡って月給を修正する場合、引き上げ前後の差額を支払う

勤務先が未払いの残業代を、労働者に支払う方法としては、

「(1) 過去に遡って月給を修正して支払う」、または

「(2) 賞与と同じように一時金として支払う」

があります。

未払いの残業代が4月から6月の、いずれかの月に支払われるはずだったケースで、(1) のような取り扱いにした場合には、すでに終了している定時改定を、訂正する必要があるのです。

例えば月給が30万円という方の健康保険の保険料は、東京都の協会けんぽに加入し、40歳未満で介護保険に加入していない場合、2018年10月時点では、月に1万4,850円になります。

また月給が同じ金額の厚生年金保険の保険料は、2018年10月時点では、月に2万7,450円になります。

これが例えば4月から6月に、3万円ずつ残業代が上乗せされ、合計で9万円の残業代を受け取ったとします

結果として、3か月間の月給の平均額が33万円になった場合、健康保険の保険料は1万6,830円、厚生年金保険の保険料は3万1,110円に変わるのです。

そうすると健康保険は1,980円、厚生年金保険は3,660円の引き上げが実施されるため、その分だけ給与の手取り額が減ってしまうのです。

また定時決定による新しい保険料が控除される10月以降に、未払いの残業代が支払われた場合には、引き上げ前後の差額を、遡って支払う必要があります。

雇用保険の保険料、所得税や住民税などの、月給に比例して金額が増えるものは、社会保険の保険料と同じように、引き上げ前後の差額を、遡って支払う必要があるため、一時的に負担が重くなる場合があるのです。

一時的に負担が重くなる場合も

一時金として受け取ると、社会保険の保険料の控除は1回で済む

未払いの残業代の支払いを、(2) のような取り扱いにした場合には、定時改定を訂正する必要はありません。

ただ賞与と同様に未払いの残業代からも、所得税や社会保険の保険料が控除されます。

上記の例と同じように、合計で9万円の未払いの残業代を、一時金として受け取った場合、2018年10月時点では、健康保険は4,455円、厚生年金保険は8,235円の保険料が控除されます。

この控除は1回で済むのに対して、定時改定の訂正によって引き上げされた保険料は、1年間に渡って控除されるため、トータルで比較してみると、(2) のような取り扱いの方が、手取り額が多くなるのです

しかし残業代が4月から6月以外の月に支払われ、保険料の金額が変わらなかった場合には、(1) のような取り扱いの方が、手取り額が多くなる可能性が高くなります。

請求するのが遅くなると、取り戻せない残業代が発生する

残業代を請求する権利は、時効によって2年間で消滅すると、労働基準法に記載されております。

つまり原則として2年以上前の未払いの残業代は、取り戻せなくなってしまうのです。

また残業代を遡って受け取るほど、遡って支払う必要のある保険料や税金が増え、企業と労働者のいずれについても、手続きが煩雑になります。

ですから未払いの残業代を請求したいという方は、できるだけ早いうちに勤務先と、話し合いの場を持ってみるのです。

もし話し合いで解決できない場合には、労働基準監督署に相談に行くだけでなく、「労働審判制度」などを利用してみるのが良いと思います。(執筆者:木村 公司)

《木村 公司》
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執筆者:社会保険労務士 木村 公司 木村 公司

1975年生まれ。大学卒業後地元のドラッグストアーのチェーン店に就職。その時に薬剤師や社会福祉士の同僚から、資格を活用して働くことの意義を学び、一念発起して社会保険労務士の資格を取得。その後は社会保険労務士事務所や一般企業の人事総務部に転職して、給与計算や社会保険事務の実務を学ぶ。現在は自分年金評論家の「FPきむ」として、年金や保険などをテーマした執筆活動を行なう。 【保有資格】社会保険労務士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、DCプランナー2級、年金アドバイザー2級、証券外務員二種、ビジネス実務法務検定2級、メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅱ種 寄稿者にメッセージを送る

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