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「TOYOTA +Softbank」で自動車業界が変わる 「水と油」はうまく融合できるのか

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「TOYOTA +Softbank」で自動車業界が変わる 「水と油」はうまく融合できるのか

日本の時価総額第一位と第二位の企業のトップ同士が、壇上で固い握手を交わしました。

「モビリティー」という言葉が頻繁に飛び交いました。

移動手段全般のことを指すようで、「モビリティー(mobility)」には「変動性」という意味もあるようです。

モビリティー(mobility)


トヨタモビリティサービス株式会社の村上秀一社長のメッセージをホームページから拾ってみました。

「自動車販売会社から、移動する人、企業のための会社」というタイトルがつけられた社長メッセージの冒頭部分です。

『自動車産業が「100年に一度の大変革期」と言われる中、80年の歴史を持つトヨタ自動車は、「AUTOMOBILE COMPANY から MOBILITY COMPANY」へと、生まれ変わろうとしています。

そして、私たち、トヨタモビリティサービスは、これからの社会に必要な「移動」という、人の、企業の、根源的な欲求にお応えするために生まれた会社です。

リース・レンタルを中心とした、「これまでの移動」だけでなく、社会や生活の急速な変化に対応した「これからの移動」のために皆さまに必要な、モノ、コト、そしてサービスを創造してまいります。』

トヨタ自動車の豊田章男社長は1月9日、米ラスベガスで開幕した世界最大の家電見本市「CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー) 」で、「私は、トヨタを、車会社を超え、人々のさまざまな移動を助ける会社、モビリティ・カンパニーへと変革することを決意しました」と宣言しました。

トヨタは、家電見本市で自動車を展示したのです。

モビリティサービス専用次世代EV(電気自動車)、電動化、コネクティッド、自動運転技術を活用したMaaS専用次世代EV「e-Palette Concept」です。

移動や物流、物販など様々なサービスに対応し、人々の暮らしを支える「新たなモビリティ」の提供です。

Maas(マース)


なんだかややこしい表現ですが、また新しい言葉が出てきました。

「Maas」は「マース」と読むそうで、「Mobility as a Service」という英語の省略形となっています。

このような表現はIT業界から来ているもので、「クラウド」と呼ばれる、インターネットに接続することを前提としたサービスを表すものです。

「クラウド」によるサービスには、パッケージ製品の提供ではなくインターネットを通じてソフトウェアを利用するサービス(SaaS:サース)や、グーグルやマイクロソフトに代表される、様々なアプリケーションが稼働するために必要なプラットフォーム(ハードウェアやOSをみます)をインターネット経由で顧客に提供するサービス(PaaS:パース)

また、グーグルやアマゾンのように、システムが稼働するのに必要なネットワークインフラなどをインターネットを通じたサービスとして顧客に提供するサービス(IaaS:アイアース)があり、その流れで「Maas:マース」はあります。

「Maas」という表現は、このIT業界の「SaaS」「PaaS」「IaaS」の流れからきた表現です。

「MaaS」というのは交通インフラ上に「移動」をサービスとして提供することで、交通インフラとは、たとえば、道路、そしてその上を走るハードウェア(ここではクルマや車両という区別は必要ありません)、そしてそれらを制御するITシステムになります。

これらのプラットフォームを活用してサービスを提供するのが「モビリティ・アズ・ア・サービス」であり、「MaaS」なのです。

e-Palette Concept

さて「e-Palette Concept」に戻ります。

「e-Palette Concept」は、4~7m前後の全長を想定したEV。低床・箱型のバリアフリーデザインによるフラットかつ広大な空間に、ライドシェアリング仕様、ホテル仕様、リテールショップ仕様といったサービスパートナーの用途に応じた設備を搭載します。

まだ「もや~」とした感じでしょうか。

とにかく大きな「箱」が移動するイメージで、その「箱」は、自動運転の電気自動車です。箱の中は完全な空洞で広い空間になっています。

あるときは多数の座席を準備して、人の移動手段として使います。

高齢者の病院への送迎、運転免許証を返上した高齢者集落から買い物にみんなを連れていく移動手段です。

あるときはフル装備のキッチン設備を完備し、注文を受けてから移動中に調理してご自宅などに料理を届ける移動キッチンになります。

宿泊施設を兼ね備えた移動ホテル、医療設備を完備した往診車などなど…

そして、その運行順路はAIが管理します。最適な行程を指示してくれて、事故のない走行をAIが管理してくれます。

自由な移動サービスがいよいよ現実のものとなり、車が「所有」から「利用」へと大きく変わろうとしているのです。

ソフトバンクグループ代表取締役会長兼社長の孫正義氏との共同記者会見で、プレゼンテーションの時を含め、豊田氏は「モビリティサービス」という言葉を多用していました。

トヨタは新たなモビリティサービスを実現するため、Amazon、Didi Chuxing、Pizza Hut、Mazda、Uberなどと提携して、2020年代前半にサービス実証を目指します。

2020年には一部機能を搭載した車両で東京オリンピック・パラリンピックのモビリティとして投入を目指すようです。

TOYOTAが変わる


「e-Palette Concept」の車両制御のインターフェイスを開示して、協業パートーが自動運転技術を活用できるようにしています。

自動運転技術に関わる重要技術のオープン化は、トヨタにとって大決断だったに違いありません。

そして幅広い異業種との提携です。

ホームページには

より実用性の高い車両仕様の検討や、e-Palette Conceptを活用した新たなモビリティサービスを実現するモビリティサービスプラットフォーム(MSPF)の構築を推進するため、トヨタは、初期パートナーとして有力企業とアライアンスを締結しました。

モビリティサービスパートナーとして、Amazon.com, Inc.、Didi Chuxing、Pizza Hut, LLC、Uber Technologies, Inc.に、技術パートナーとしてDidi Chuxing、マツダ株式会社、Uber Technologies, Inc.にご参加いただきます。

アライアンスパートナーには、サービスの企画段階から参画いただき、実験車両による実証事業をともに進めていく予定です

とあります。

Didi Chuxing(滴滴出行)は、中国の大手ライドシェア(相乗り)企業です。

とりわけ、異業種における最強の競争相手ともいえるアマゾンと手を組んだのは、「MaaS(マース)」に乗り遅れまいとするトヨタの危機感以外の何物でもないというのが、専門家が指摘するところです。

「私たちの競争相手は、もはや自動車会社だけでなく、グーグルやアップル、あるいはフェイスブックのような会社もライバルになってくると、考えています」と、豊田章男氏はCESのプレゼンテーションでコメントしています。

「CES」は、前述の、米ラスベガスで開幕した世界最大の家電見本市です。

繰り返しますが、家電見本市で、トヨタは「e-Palette Concept」を発表したのです。

トヨタはなぜソフトバンクを選んだのか


トヨタの豊田社長は20年前、ソフトバンクの申し出を断っています。


当時、豊田社長は課長職で、中古車インターネット商談サイト「GAZOO」を展開しているところでした。

更に「GAZOO」を新車販売に拡大しようとしているところに、ソフトバンクの孫社長からの、米国で生まれた「ネットディーラー」をトヨタの国内販売ディーラーに導入しないかという提案を断ったそうです。

自動車は「コモディティ(単なる商品)」になると言ってはばからないソフトバンクグループ孫正義社長、「愛車」と呼んでその価値にこだわるトヨタの豊田章男社長。

「GAZOO」の件があったせいか、今回の両者提携は「水と油」にも例えられる両社が歩み寄ったと報じられました。

自動車業界を語る際に、枕詞のようによく使われるフレーズが「自動車メーカーがかつてない変化に直面している」というものです。

電動化、自動運転、ライドシェアをめぐる技術変化によって、車をつくって売るビジネスモデルは成り立たなくなるかもしれない。

業界関係者がこのように語っていますが、自動車メーカーはこの変化に対応できるのかという課題を突きつけられたトヨタとしての結論が、ソフトバンクとの提携だったのでしょう。

まさにトヨタの「生き残り戦略」なのでしょうか。

モビリティとAIをドッキングさせた「モビリティAI革命」と孫正義氏は語っていますが、トヨタがAIのパートナーとして、auでもDocomoでもなくSoftBankを選んだのは、ここまでのAIに対する孫社長のアクションにあるようです。

未来の種を見抜く先見性、目利きの力がある。共同会見では、豊田社長は孫社長をこう評していました。

トヨタは20106年に米ウーバーに出資したほか、前述の通り、中国の滴滴出行などとも提携し、今年6月には東南アジア最大手のグラブに出資しました。

「グラブ」は、シンガポールミッドビュー・シティに拠点を置く配車アプリ運営企業で、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム、インドネシア、ミャンマー、カンボジアで自家用車向けGrabCar、オートバイ向けGrabBike、相乗りサービスGrabHitch、配送サービスGrabExpressおよび決済サービスGrabPayを提供しています。

トヨタが提携した各社はすべて、ソフトバンクが筆頭株主になっているのです。

ソフトバンクは、いずれも推定ですが、Uberに約15%、滴滴出行約20%、グラブには滴滴出行持分とあわせて約60%出資していると言われています。

日本一の企業であるトヨタが、自ら膝を崩してソフトバンクに擦り寄った背景には、この現実を見て、大きく変化する自動車業界での生き残りを目指す豊田社長の危機感があったことが伺えそうです。

トヨタからすれば、他社とソフトバンクが手を組む前に、ソフトバンクを取り組もうとしたのではとの見方がある中で、ソフトバンクにすればトヨタは、同じサービス分野での数ある提携先のひとつに過ぎないのではないかという指摘もあります。

ソフトバンクは今年5月、自社の投資ファンドを通じて米ゼネラル・モーターズ傘下の自動運転車部門GMクルーズに出資し、最終的に約2割の株式を握ると発表していて、2016年からはホンダともAI分野の共同研究で協力しています。

20年前はソフトバンクがトヨタを訪問して断られましたが、今度はガリバー企業がソフトバンクに歩みよってはいますが、もはやソフトバンクにとっては、トヨタはガリバーではなくなっているのかもしれませんね。

MONET Technologies(モネ テクノロジーズ)


2018年度中に設立する共同出資会社「MONET Technologies(モネ テクノロジーズ)」の出資比率は、トヨタが49.75%、ソフトバンクが50.25%とソフトバンクのほうが多くなっています。

通信ビジネスのノウハウを活かすことになるので、ソフトバンクが主導権を握ってもおかしくはないとも言えますが、業界関係者の間には、これまでのトヨタを考えると相手に主導権を渡したのは驚きに映るのでしょう。

自動車はひとつの部品に過ぎない。むしろプラットフォームのほうがより大きな価値を持つ。これは、今年2月の決算会見での孫社長の言葉です。

今回のトヨタ・ソフトバンク共同会見でも孫社長は、未来の車は「半導体の塊になる」とし、「自動車のリアルな世界から歩いてきたトヨタといよいよ交わるときがきた。

時代が両社を引き合わせた」と自らの戦略が新たな局面に来たことを強調しました。

車が「スマホ」になるのです。走る「スマホ」ですね。

それでも豊田社長は「愛車」という表現を多用し、やはり共同会見の場で

「数ある工業製品のなかで『愛』がつくのは車だけ。どんなAI(人工知能)が搭載されても、移動手段としてだけではなく、エモーショナルな存在であり続けることにこだわりたい」

と述べていました。

トヨタの友山茂樹副社長によると、今回の提携はトヨタからソフトバンクに声をかけ、「両社の若者が中心となり、半年前から検討を進めてきた」「交通事故をゼロにしたい」という将来ビジョンが両社共通だったと述べています。

トヨタ自動車が、かつて織機会社から自動車メーカーに転換して以来の、大きな変革をしようとしているのでしょうが、トヨタとソフトバンクの間に微妙な温度差を感じるのは考えすぎでしょうか。(執筆者:原 彰宏)

《原 彰宏》
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原 彰宏

原 彰宏

株式会社アイウイッシュ 代表取締役 関西学院大学卒業。大阪府生。吉富製薬株式会社(現田辺三菱製薬株式会社)、JTB日本交通公社(現(株)ジェイティービー)を経て独立。独学でCFP取得。現在独立系FPと して活動。異業種経験から、総合的に経済、企業をウォッチ、金融出身でないことを武器に「平易で」「わかりやすい」言葉で解説、をモットーにラジオ出演、 セミナーや相談業務、企業労組の顧問としての年金制度相談、組合員個別相談、個人の年金運用アドバイスなどを実施。個人投資家として、株式投資やFX投資を行っている。 <保有資格>:一級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP 寄稿者にメッセージを送る

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