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「損切りが大切」は間違い 「利食いの目標」もいらない

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「損切りが大切」は間違い  「利食いの目標」もいらない

「損切り」は大事だと言われるが

初心者から、かなりのベテランに至るまで、投資について話をしていると、「損切り」と「利食い」について、誤った知識を持っているケースが頻繁にある 。

誤解の説明を聞くと、喩えて言うなら、不適切な民間療法や健康法を信じている人と話したような複雑な気分になる。

今回は、「損切り」と「利食い」について、考え方を整理してみたい

二つの概念いずれにあっても、幅広く誤解は存在するが、特に「損切り」については「損切りこそが重要なのだ」という声を聞くことが多い

「損切り」と「利食い」

価格が上がっても下がっても、なるべく資産は売らない

例えば、「買い値から〇%下がったら、機械的に必ず売ると決めておくことが大事だ」というような意見だ。

FX(外国為替証拠金取引)のような取引であれば何らかの「損切りルール」を決めておくことに反対はしない

投資信託、株式などで資産形成のために投資している人は、必要があればリスク資産の一部(ないし全部)を売ってもいいが、

「価格が上がっても下がっても、なるべく資産は売らないのが正しい」

という思っておくのがいい。

理由は、筆者の言葉で言うと、前者で持っているのが「投機のリスク」であり、後者では「投資のリスク」だからだ。

FX、商品先物などのポジションを持つ行為は、市場の参加者同士がお互いの見通しの違いに賭けているのであって、取引の手数料を除くと、参加者の損益の合計がゼロになるような「ゼロサムゲーム」的な構造になっている。

値動きのリスクはあるが、リスクを取ることに対して平均して追加的なリターンが期待できるようなリスクを負担するわけではない。

株価は将来にリスクがあることを価格に織り込んで形成される

他方、株式投資、債券投資などは、何らかの生産活動に資本を提供して利益の分配を期待する行為であり、資本を提供している状態、すなわち株式や債券を持っている状態を長く続けるのでないと大きな利益分配は期待できないが、リスクの負担に対しては追加的なリターン(「リスク・プレミアム」と呼ぶ)を期待できる。

例えば、株価は、企業の将来の事業の見通しを反映しつつ、将来にリスクがあることを価格に織り込んで形成されると考えられる

すぐに損切りして、持っている資産を売却すると、取引のコストを余計に支払うことになりやすいし、資産に投資していない状態ができるとその期間の期待利益の喪失がもったいない。

もちろん、例えばある会社の株式を買った後に、その会社の将来の業績が当初の想定以上に悪化しそうで、その悪材料がまだ現在の株価には十分反映されていないという強い確信がある場合には、その会社の株式を売ってもいいが、売る際の価格は買い値よりも高くても安くても関係ない。

また、大きなウェイトで集中的に持っている銘柄をリスク分散の目的で一部売却するような売りは悪くない

しかし、それはその銘柄のウェイトが過大であったからであって、そもそもの投資状態が適切でなかったことの訂正が必要なのであって、「買い値よりも株価が下がったから売るべし」という理由ではない。

リスクを取っている方が「例外的」

リスクを取っている方が「例外的」

他方、ゼロサムゲーム的な「投機のリスク」にあっては、リスクを取っても平均的にリターンはゼロなのだから、リスクがゼロの状態が「普通」であり、自分が有利な情報・判断を持っていることを前提にリスクを取っている状態が「例外的」なのだ。

だから、「自分が有利なのではないのかもしれない」と思った場合には、リスクをゼロにすることが基本的に正しい

投機と投資では、「これが普通」というリスクの状態が異なるのであり、その理由は両者のリスクの経済的背景(あるいはゲームの構造)の違いだ。

実は、若かった頃(二十代前半から半ば)の筆者は、仕事として先に為替のディーリングに関わり、その後で主に株式で運用する投資信託のファンドマネージャーになった。

株式の運用を始めた当初は、為替取引の感覚で「ダメな銘柄については損切りが大事」なのだと思って、しばらくそうしていたのだが、何となく違和感があって、よく考えてみた結果、上記のような理解に達した。

当時は、株式売買の手数料が、今から思うと非常に高い固定手数料の時代だった。

ある意味では、高過ぎる固定手数料のおかげで、「投機のリスク」と「投資のリスク」の違いに早く気がついたのかもしれない

「利食いの目標」は要らない

手持ちの株式や投資信託の価格が自分の買い値よりも上昇した場合に、利益を確定させる「利食い」の売りが必要なのか否かは、投資初心者からよく受ける質問の一つだ。

リスク資産を売却しないと利益は確定しないし、せっかく実現した高値で売りそびれて利益が縮小してしまうと残念な思いになるので、「利食い売りのルール」を設定しておくと気が楽だという気持ちは分かる。

しかし、投資も含めてゲームの世界では、「気が楽だ」、「気が済む」といった感情に従って行動すると損をすることが多い。

合理的に考えられる通りに行動できるか否かが成否を分ける例が少なくない。

例えば、個別株式で分散投資した運用を行っている場合、保有銘柄の一つが値上がりした場合に、この銘柄の一部を売却することが正当化できる理由は、

(1) 事業見通しの想定外の悪化がありこれが未だ株価に反映されていない時
(2) 値上がりによって投資ウェイトが過大になった場合の調整
(3) お金が必要なのでリスク資産を売る時

のいずれかであって、「利益の確定」は含まれない。

単なる利益確定のための売りには、その対象が今後も保有し続けていていいものなのだとすると、

(A) 売買コストの無駄
(B) 利益への税金を早く支払うことによる複利効果の減少
(C) 投資していない期間・金額の期待利益の喪失

といったマイナスがある。

得られる利益が、精神的な満足感だけなら、止めて置く方が投資家としては合理的だし、気が利いている。

念のため(B)について説明すると、投資資産が2年間毎年10%ずつ値上がりするとして(利息・配当・分配金はないとして)1年ごとに売却して同じ資産に再投資するのと、2年間じっと持って2年目に売却するのとでは、2年後の資産額は前者が投資元本の115.04%で後者は116.8%となる違いが生じる(この違いを大きいと思わない人は、少なくとも投資には向いていない)。

利食いの目標は要らない

利食いになる取引が正しい場合

形式として利食いになる取引が正しい場合も、あるにはある。

例えば、2資産X、Yに50%ずつ投資したら、1年後にXの価格が2倍になり、Yの価格は半分になったとしよう。

1年後には、Xが80%、Yが20%という保有資産状況になる。

この時に、リスクを低下させるためにバランスを取る目的でXの一部を売却するような取引は合理的であり得る。

ただし、その目的は利益の確定ではない。

現実には、積立投資の投資家をはじめとして資産形成期にある投資家の場合は相対的にウェイトが過小な資産に追加投資を振り向けるといいし、資産を取り崩す投資家の場合はウェイトが相対的に過大な資産から売却するといい。

意味をまとめると…

「損切り」についても「利食い」についても、正しい方針を一言でまとめると、

「リスク、リターン、コストを考えて、ポートフォリオを改善できる売りは合理的だが、自分の買い値は原則として関係ない」

ということになる(注:税金の問題を考慮する場合に原則に対して多少の例外が生じる場合はある)。

「損切り」でも「利食い」でも、自分の買い値と現在の価格との関係で投資行動を決めていることになるが、一般的に自分の買い値は保有資産の将来のリターンに影響を与える「材料」ではない。

自分の買い値との関係で投資行動を決めるのは、自意識過剰で格好の悪いことなのだと覚えておくといい。

投資家は、自分の買い値に関係無く意思決定ができるようになると一人前である。(執筆者:山崎 元)

《山崎 元》
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山崎 元

山崎 元

経済評論家 株式会社マイベンチマーク 代表取締役 1958年北海道生まれ。1981年東京大学経済学部卒業後、三菱商事に入社。その後、野村投信、住友生命保険、住友信託銀行、シュローダー投信、NBインベストメントテクノロジー、メリルリンチ証券、パリバ証券、山一證券、第一勧業朝日投信投資顧問、明治生命保険、UFJ総合研究所に勤務。楽天証券経済研究所客員研究員、国家公務員共済組合連合会資産運用委員会委員。1994年東洋経済高橋亀吉記念賞優秀賞受賞。2005年1月に株式会社マイベンチマークを設立し代表取締役に就任。 寄稿者にメッセージを送る

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