「老齢年金の繰上げ受給」で気をつけたい、障害遺族年金と税・保険料の話

老齢年金に関しては、政府は繰下げ受給を推奨しており、さらに70歳まで可能な現行制度を75歳までに引き上げる方向です。

一方で、年金「211万円の壁」を生かすために繰上げ受給という策もあります。

働きながら(厚生年金保険料を払いながら)受給する場合は、在職老齢年金制度による年金減額に注意する必要がありますが、他にも注意点があります。

65歳前に遺族・障害年金を受けられる場合

公的年金には老齢年金だけでなく、遺族年金や障害年金もあります。

老齢年金の繰上げ受給をしてから、遺族年金や障害年金をもらえるような状態になったケースを想定しておくことも大事です。

65歳前に年金を受ける

すでにもらっている老齢年金と選択

配偶者の死亡や一定の障害状態になるなど、繰上げ受給中に遺族年金や障害年金を受ける権利が生じた場合、1人1年金の原則により、繰上げ受給した老齢基礎年金・厚生年金と選択する必要があります

遺族年金(中高齢寡婦加算含む)・障害年金は非課税であり、国民健康保険料(税)・後期高齢者医療保険料・介護保険料の対象にもなりません。

所得制限つき給付・免除制度の所得にも原則算入されません。(ただし健康保険制度の被扶養者の範囲、介護保険制度における食費・居住費の軽減など例外もあり)

選択の際には後述のように、障害・遺族年金の額と、税・保険料を差し引いた後の老齢年金受給額を比較すると良いです

寡婦年金のように受けられなくなる場合も

配偶者が死亡し一定の要件を満たした場合は遺族年金をもらえますが、このうち遺族基礎年金は原則高校生までの子がいることが条件となり、高齢者の受給は難しいです。

このため夫が自営業者などで遺族厚生年金の受給要件を満たさない場合は、夫が10年以上保険料納付などの受給資格期間を満たし、婚姻関係が10年以上あることなどを要件に、60歳以上65歳未満の間に寡婦年金を受給できます。

ただし繰上げ受給した場合、寡婦年金はもらえません

また障害年金において、障害の状況が悪化して(「事後重症」「基準障害」に該当する)請求するケースでは、繰上げ受給が原因で受けられなくなります。

障害年金に関しては完全にもらえなくなるわけではありませんが、障害の原因となる傷病の初診日が繰上げ受給前にある等、ハードルが上がります。

もらえる場合でも障害等級3級の場合は障害厚生年金のみの受給となり、税・保険料を考慮しても、老齢年金の繰上げ受給を続けたほうが有利なケースが多いです。

例えば年間で障害厚生年金120万円と、老齢基礎年金64万円+老齢厚生年金98万円(計162万円) ではどちらが有利でしょうか?

老齢年金以外の課税対象所得が無い場合(もしくは源泉分離課税・申告不要の所得しか無い場合)、雑所得が92万円と計算され、162万円に対して所得税・住民税・国保料あわせて1割ほどかかりますが、それらを差し引いても障害厚生年金の額よりは多いです。

障害等級1級・2級であれば障害年金をもらったほうが有利なケースが多いです。

65歳を過ぎて遺族厚生年金を受けられる場合

65歳を過ぎてます

老齢年金と障害年金・遺族年金のいずれかしかもらえないというのは、65歳までの話です。

支給開始年齢の65歳を過ぎると、下記のパターンは両方もらえます。

老齢基礎年金 + 〔老齢厚生年金 + 遺族厚生年金〕※
障害基礎年金 + 〔老齢厚生年金 + 遺族厚生年金〕※
障害基礎年金 + 老齢厚生年金

※老齢厚生年金をもらえる場合で、計算上の遺族厚生年金>老齢厚生年金となる場合は、老齢厚生年金 + (計算上の遺族厚生年金 - 老齢厚生年金)をもらえる

また、計算上の遺族厚生年金の額は、

・原則的な額
・原則的な額×2/3+老齢厚生年金の額×1/2

のいずれか多い方になる

65歳まで老齢年金をもらっていた場合

受給できなかった遺族厚生年金がもらえるようになりますが、老齢厚生年金を受給していて、老齢厚生年金<遺族厚生年金となる場合は差額分だけがもらえます。

非課税の遺族厚生年金が上乗せでもらえるため、課税対象の収入に変動は生じません

ただ65歳を境に市区町村の介護保険に加入する上、公的年金等控除額が70万円→120万円と増える影響で税・保険料負担が変動します。

65歳まで遺族厚生年金をもらっていた場合

65歳まで老齢年金の受給を辞めて遺族厚生年金をもらっていた場合、65歳以降には老齢年金も再びもらえるようになります

なお中高齢寡婦加算の支給は停止となります。

これまでもらえていた遺族厚生年金は、老齢厚生年金の額が上回る場合は支給が停止され、逆に老齢厚生年金の額が下回る場合は、上記で説明したように差額分だけがもらえます。

老齢基礎年金+老齢厚生年金は課税対象・保険料のため、遺族厚生年金(+中高齢寡婦加算)だけもらっていた時と異なり、税・保険料負担が発生する場合が出てきます。

そのことで、利用できる社会保障制度が不利になりうる点も注意してください

原則的な遺族厚生年金の額が150万円の場合で、老齢基礎年金64万円+老齢厚生年金98万円がもらえるケースを考えます。

実際にもらえる遺族厚生年金は52万円に減額され、老齢年金162万円(雑所得42万円)が課税対象になります。

なお老齢基礎年金・老齢厚生年金の金額は、繰上げにより減額された額が支給されます。(執筆者:石谷 彰彦)

この記事を書いた人

石谷 彰彦 石谷 彰彦»筆者の記事一覧 (185)

1977年生まれ。保険代理店を兼ねる会計事務所に勤務し、税務にとどまらず保険・年金など幅広くマネーの知識を持つ必要性を感じFPの資格を取得。非常勤での行政事務の経験もあり、保険・年金・労務・税金関係を中心にライティングや国家試験過去問の解説作成を行う。お得情報の誤解や無知でかえって損をする、そんな状況を変えていきたいと考えている。
<保有資格>AFP(CFP試験一部科目合格)・2級FP技能士・日商簿記2級
【寄稿者にメッセージを送る】

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