確定申告の手続きに抵抗感があり、それが理由で税金が還付されそうだけど申告したくない…と敬遠している方もいらっしゃると思います。
国や自治体にとっては、還付はともかくそれで納税してもらえないのは困ってしまいます。
近年では仮想通貨の申告納税がきちんと行われていないのでは、と政府機関でも議論がありました。
これは計算方法が明らかにされてないことにも原因はありましたが、年間取引報告書を交換業者に作成してもらうなどで、簡素化をはかることになりました。
日本では、白紙の申告書から作成していかなければいけません。
海外では勤務先や金融機関からの情報をもとに申告書の一部を記入済みにしている国もあり、また電子申告の手続きで様々なデータを取り込めるようにしている国もあります。
日本でもデータの取り込みにより、確定申告の簡素化をはかる動きが進んでいます。
しかしこの動きはマイナンバー制度の恩恵であるにも関わらず、恩恵を受けられない国民も相当数出る懸念もあります。

目次
記入済申告制度と日本の現行制度の違い
確定申告書を白紙の段階から記入、もしくは電子申告でもほぼ一からデータ作成するのが日本の確定申告です。
国税庁のシステムで該当年分の数値が添付書類データから自動転記されるようなことは、平成末期からごく一部の申告内容で始まったばかりです。
海外特に北欧で多く見られますが、すでに数値が記入された確定申告書を送付してくれる国もあります。
国や申告者によっては確認して提出するだけの状態になっていることもあります。
北欧の記入済申告制度の事例
重税だが社会保障が手厚いイメージの北欧ですが、政府税制調査会はスウェーデンと、旧ソ連であったエストニアで海外調査を行っています。両国とも、記入済申告制度が導入されています。
エストニアでは、所得に関しては給与所得・利子所得とその源泉徴収税額が記入され、寄附金などの控除額も記載されます。
上場株式に関しては売却額のみ記載され、取得額は自分で記載して所得計算をします。
2月15日の申告期間開始以降は、税務署に出向けば紙で記入済申告書を印刷することも可能です。
スウェーデンは、給与・配当・利子所得とその源泉徴収額、社会保険料控除額と上場株式の売却額が記載されます。
電子申告で記入済を実現しようとする日本
政府税調は北欧以外にも、北米・英仏・韓国でも海外調査を行いました。
ここまで調査を行ったのは、徐々に日本型の記入済申告制度を実現していこうという動きがあるからです。
特に、オンライン上のHometaxによる控除関係データの連動に成功した韓国のように、マイナポータルを利用した電子申告で実現しようとしています。
韓国は電子申告利用率も9割超と高く、電子化を進める動きでもあります。
なお事業所得のように決算作業の必要な所得は、支払調書との連動は考えられていますが、決算書などが完全に記入済みになるようことは予定されていません。
医療費控除の自動集計
平成31年(2019年)4月17日付の日本経済新聞朝刊で、マイナンバーカードの読み取りを条件として、マイナポータルを用いた医療費控除の自動集計を、令和3年(2021年)から利用できるようにする方向であることが報道されました。
医療費(医療機関の収入である診療報酬)の情報を持つ社会保険診療報酬支払基金・国民健康保険中央会と、マイナポータル・国税庁確定申告書等作成コーナーを接続することにより実現の見込みです。
確定申告書等作成コーナーの医療費控除画面で、ボタン1つで医療費控除を受けられるかを判定できるようになる方向です。
ただし4月24日に開催された政府税調の資料では、医療費控除の自動集計については正式な実現時期を見通していません。この資料で令和3年から実現する見通しとして挙げられたのは、生命保険料控除証明書や特定口座年間取引報告書データの取り込みです。
その他検討されているものとしては、源泉徴収票をスマホカメラで撮影しとり込むことなどです。
マイナンバー記載義務を課しているのに、便益にデジタルデバイド
この方式の問題を考えてみます。日本型の記入済申告制度とはいっても、電子データを連動させるので電子申告を行えることが前提です。
電子機器が十分に活用できない年金受給者が置き去りにされ、高齢化社会の状況で広くあまねく対応しきれるかが問題です。
マイナンバーを全国民に割り当て、確定申告書などへの記載を義務化しているのに、その見返りが平等とは言えないいわゆる「デジタルデバイド」の問題が生じます。
スマートフォンで出来る確定申告も、令和元年分からは年金受給者にも対応する方針ですが、これもスマホを操作できる高齢者が恩恵を受けられます。
前述のように申告期間には記入済申告書を紙で印刷できる国もあるため、不信感も強いマイナンバー制度の恩恵を、高齢者や障がい者も受けられる制度導入を考えても良さそうです。(執筆者:AFP、2級FP技能士 石谷 彰彦)