金融庁が公表したレポートから火がついた、例の「老後に2,000万円必要」問題ですが、いまだに鎮火することなくとんでもない話が拡散し続けています。
マスコミ、国会、そして、騒ぎに便乗するブロガーやYouTubeチャンネル運営者たちが、それぞれの思惑で、好き勝手なことを発信している状態となっています。
そもそも、公的年金に直接関係することのない「金融庁発」というのも不思議な話で、何らかの意図を感じます。

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金融庁レポートが指摘する現実の高齢者世帯の実態は?
総務省は5月17日に、2018年の家計調査報告を公表しています。
それによると、2人以上の世帯のうち世帯主が60歳以上で、無職の高齢者世帯における貯蓄現在高は2,280万円となっています。
あくまでも平均値であり、かつ、年齢を問わない1世帯あたりの負債現在高(平均値)が558万円あるとは言うものの、金融庁レポートが前提とした条件(夫65歳以上、妻60歳以上、無職)をおおむねクリアしつつ、ほぼ2,000万円は確保できている状態です。
つまり、現状の高齢者世帯は金融庁のワーキングフループなるものに指摘されるまでもなく、きちんと対応できている、というのが実態です。
問題は現状の高齢者ではなく、今後、高齢者となる人たち。
大変なのは、これから高齢者になる世代です。
まず、昭和36年4月生まれ(男子)以降は、原則的に、60歳代前半に1円の年金ももらえません。
現状の高齢者は生まれた時期により差はありますが、60歳代の前半に多少なりとも年金を受給できました。
また、マクロ経済スライドによる調整の行き着く先は、「所得代替率ベースで50%が目安」となっています。
現状、60%強です。インフレ経済、成長経済を前提とした調整のため、制度発足以来ほとんど実行されていません。
結果、現状の高齢者には想定以上の年金給付が続けられてきました。

このしわ寄せは、将来世代が引き受けることになります。
以上の2点だけでも、現状の高齢者世帯に上記の貯蓄が可能であった要因と言えなくもないのです。
平成26年度におけるモデルケースの年金額は、夫の厚生年金が9.0万円、夫婦の基礎年金が2人分で12.8万円、合計月21.8万円です。
昭和16年以前生まれ(男子)は、60歳代前半で満額の年金がもらえたワケです。
昭和36年以降生まれと比較して、
多くもらえた計算になります。
60歳代前半に基礎年金を受給する前提は、ありえない話です。
しかし、この場合だけ「モデルケース」を適用しないという方が不自然です。
高齢者世帯の家計が悪化するのは、これから。
昭和16年生まれと昭和36年生まれは、わずか20歳しか年齢差がありません。
つまり、一世代(30年)をも経ることなく、高齢者の家計は急激に悪化することが予測できます。
漠然と「親の世代と同じような老後」を期待していたのでは、後に、厳しい現実が待っていることは明らかです。(執筆者:金子 幸嗣)