筆者は、今年1月18日の朝刊記事を見た時、

「これは後々大変なことになるのでは…?」

といった、なんとも言えない不安な気持ちになったのを覚えています。

1月18日の朝刊記事

その朝刊には、

日本電産が「2019年3月期の連結純利益(国際会計基準)を前期比14%減の1120億円になる見通しだ」と下方修正し、従来予想(12%増の1470億円)から一転して減益へ

という記事が載っていました。

当日の日本電産の株価は、朝方寄り付き時こそ1万1,495円(前日比900円安)と売られたものの、終値の時点では1万2,255円(前日比140円安)まで戻したことで、一部のマーケット関係者からは、

「今回の記事は当社固有のものであり短期的なもの」

といった声が聞こえてきたのも覚えています。

しかしながら筆者は、日本電産の減収は10年3月期以来「9年ぶり」のことで、円高の逆風が吹く局面などでも増益を続けてきた「粘り強い企業でさえ!」と正直ショックな出来事でした。

そして、懸念の最大の理由は、都内で記者会見した同社永守重信会長が、

「尋常ではない変化が起きた。46年経営を行ってきたが、月単位で受注がこんなに落ち込んだのは初めてだ!」

「その要因には米中貿易摩擦による中国景気の減速」

と語った点です。

長年経営を行って来たトップの方の感覚は重要視すべきで、後々尾を引く問題になるのでは…と思ったからです。

米中貿易摩擦

米中貿易摩擦

この問題は、日本電産の永守会長の言葉からもわかるように、米国と中国の2国間だけの話ではありません

では、我が国にはどんな影響があるのでしょうか?

以前からセミナーなどでお話ししていた事をまとめてみたいと思います。

1. 中国経済急減速による日本経済への影響

中国経済急減速による日本経済への影響

これは、まさに、日本電産の業績下方修正のパターンにあたります。

すでに中国政府は、景気の急減速を避けるため、自動車買い替え促進策などの景気対策を表明しています。

そうすると、中国への依存度が高い日本企業の業種である、電気機械、輸送機械、一般機械、非鉄金属、鉄鋼などの素材産業の業績悪化が懸念されます。

さらに今後、貿易摩擦による中国の対米輸出の鈍化や構造改革の下押しが強まって経済が急減速すれば、素材業種のみならず食料品メーカーを含め、広範囲の日本企業に悪影響が及ぶと考えています。

2. 米国経済減速による日本経済への影響

米国経済減速による日本経済への影響

米国は、パソコンやスマートフォンなどの情報通信機械類を中国において安い労働力を利用して組み立て、大きな利益をあげていることは周知のことです。

このような情報通信斯界企業が米中貿易摩擦のあおりを受けて、仮に中国から国内に生産拠点を移転させた場合、コスト増となり利益圧迫の要因となるでしょう。

また、中国からの輸入に頼っている衣料品、軽工業品、食料品など主な消費財でも国内生産への切り替えは難しく、高い関税を払ってでも輸入するしかないと思われます。

結果としてかなりのコスト増、それを価格転嫁した場合、売利上げ減少、家計負担増、需要低下、企業業績悪化といった負の連鎖も起こるでしょう。

このように、米中貿易摩擦によって米国経済も悪化する可能性が高く、そうすれば、なんだかんだ米国との結びつきが深い日本経済も決して他人事ではいられません。

特に対米輸出依存度が高い日本の自動車業界などは、大きな影響が出ると思います。

3. 日本に矛先が向かうリスク

日本に矛先が向かうリスク

米国の貿易赤字相手国は

1位 中国(3,877億ドル2018年)
2位 メキシコ(873億ドル2018年)
3位 日本(689億ドル2018年)

となっています。

米国側からすれば、1位の中国に対し貿易摩擦(戦争)を仕掛け、2位のメキシコに対しては、北米自由貿易協定(NAFTA)の見直し交渉の中で、メキシコにとってかなり苦しい選択をせまりました。

とすれば、次に来るのは貿易赤字相手国第3位の「日本」では?と考えるのは筆者だけではないと思います。

何を突きつけてくるか?

筆者の主な懸念は、米国側が

日本の自動車業界を中心とした輸出産業が過剰な「円安」誘導によって大きな利益を受けている!

というクレーム的なものを突きつけられることです。

現に、米ムニューシン米財務長官は今年4月

「今後の日米貿易協定交渉で為替も議題となり、協定には通貨切り下げを自制する為替条項を含めることになる。」

と述べています。

つまり、両国の金融政策格差やその結果としての円安に目をつけ、基軸通貨国として特権を行使してくる可能性です。

そうなると、今後【円高】の可能性が高まり、日本の輸出企業にとって大きな業績悪化要因、ひいてはその下請け中小企業などにも大きな影響を及ぼすと考えられます。

時に、最近こんなニュースを目にしました。

ある日本の中小製造業である金属加工会社(従業員約20人)は、主力事業の1つとして産業用のフィルムを乾燥させるための装置を製作しており、売り上げの20%近くを占めていた。そのフィルムはリチウムイオン電池の電極やスマートフォンの液晶パネルに使われる。
およそ8割が中国に輸出されていたが、今年5月の大型連休以降、受注が急激に減った。受注が急減したことで、この装置の6月と7月の売り上げは、それまでより50%以上減った。

これもおそらく米中の貿易面での対立が激しくなり、中国でもスマホなどの生産が落ち込んだことが一要因だと思います。

今回、米中の貿易摩擦の日本への影響について述べて来ましたが、あらためて

米中貿易摩擦問題は決して他人事ではない、対岸の火事ではない!

と申し上げたいと思います。

自動車業界を中心にあらゆる日本企業への影響が大きく、それは下請け中小企業には事業存続さえも脅かすような波紋となり、ひいては「為替相場」や企業の業績悪化は「株式市場」へも大きく関連してくると思います。

夏以降もこの問題、マーケットへの注視が必要です。(執筆者: 阿部 重利)