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【2019年の財政検証】施された危険な2つの「プチ整形」 選挙後は約束守らず、末端企業への負担増と給料減少の懸念

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【2019年の財政検証】施された危険な2つの「プチ整形」 選挙後は約束守らず、末端企業への負担増と給料減少の懸念

年金の「財政検証」が、公表されました。

財政検証は、5年に1度行われる、公的年金の体力測定のようなもので、年金の状況とどれくらい持続可能かということを示しています

ただ、最近は年金財政が悪化しているために、それをごまかすのにどうすればいいのか四苦八苦しているようです。

公表時期が大幅に遅れた2019年の「財政検証」

厚生労働省

2004年の「年金改正」で、厚生年金保険料を18.3%、国民年金保険料を1万6,900円まで引き上げ、基礎年金の国庫負担3分の1を2分の1まで引き上げ、マクロ経済スライド(年金カットシステム)を導入しました。

これで年金は、「100年安心」と政府は豪語しました。

ところが、5年後の2009年の「財政検証」では、なんとこの「100年安心」が危うくなり、年金の財政状況の悪化を隠すために、検証のための賃金がいきなり上昇したり、実際にはありえない高い運用利回りを用いるなど基礎的数字を操作して厚化粧をし、専門家からは「粉飾決算だ」と非難されました。

その5年後の2014年には、こうした非難をかわすためか8パターンもの試算を提示し、わけがわからないままにみんなを煙に巻きました。

8月末の公表は参院選を意識か

そして今年2019年の「財政検証」では、厚化粧は変わらないのですが、新たに「プチ整形」しています。

「財政検証」は、基礎的な数字さえ出ればあとは機械的な作業なので、3か月もあれば公表できるものです。

実際、前回は3月に基礎的数字が出た後に6月には結果が公表されています。

ところが今年は、3月に基礎的な数字が出たにもかかわらず、公表が8月末にずれ込みました

理由は、参議院選挙があったため、その前に「プチ整形」した結果を出して選挙に不利になってはいけないという配慮があったのではないかと言われています。

年金の未来を変える、2つの「プチ整形」

手術の器具

今回の「財政検証」では、年金受給の6つのパターンとAとBという2つのオプションが出ました。

6つの年金受給パターンは、前回とあまり変わりばえしないものですが、問題は、今回新たに加えられた2つのオプション。

これが、私が「プチ整形」と言っているものです。

オプションA

オプションAの中身は3点です。

(1) 所定労働時間20時間以上で収入が月8万8,000円以上の120万人を厚生年金に入れる。

(2) 企業規模や賃金に関わらず、週に20時間以上働く人325万人を雇用保険に入れる。

(3) 収入月5万8,000円以上の人は全員、厚生年金に加入させる。

学生や雇用契約期間1年未満の人、非適用事業所の雇用者も加入させ、最終的に1,050万人を厚生年金に入れる。

この3パターンのどれかを2024年からやりたいということ。

オプションB

オプションBには5つのパターンがあります。

これを要約すると、

基礎年金の加入期間を5年先延ばしにし、厚生年金は75歳まで支払えるようにする一方、もらう時期は厚生年金なら75歳まで繰り下げ受給できるようにする

というもの。

そして、今まで47万円までOKだった65歳以上の在職老齢年金の上限を引き下げるというものです。

つまり、「なるべく長く働いて納めるものを納め、年金の受給期間は短くする」ということです。

中小零細企業を痛めつける、厚生年金1,000万人年金加入増

厚生年金のイメージ

仮に、オプションAの中で、収入が月5万8,000円以上稼いだら、企業の規模に関係なく、厚生年金に加入するというものが採用されたとしましょう。

これまでも、月8万8,000円以上稼ぎ、501人以上の企業か労使が合意した企業に勤めていたら、パートでも厚生年金に加入することになっていました。

このハードルを、収入面で最大で月5万8,000円まで下げ、企業規模も中小零細までにするとどうなるのでしょうか。

働く側からすると、今まで国民年金に加入して保険料を支払っていた人は、厚生年金なら保険料が労使折半なので安くなる可能性があり、保障も手厚くなります

一方、今まで一銭も保険料を支払わずに国民年金に加入していたサラリーマンの妻の専業主婦は、保険料を負担しなくてはならなくなります

また、国民年金は未納者が約4割いて、収入が低いために保険料を免除される人もいますが、その人たちの多くが、この制度改革で保険料を徴収されることになります。

ですから、加入する側にとっては、さまざまな状況が想定されます。

中小零細企業に保険料折半は酷

ただ問題は、労使折半で、保険料の半分を負担しなくてはならなくなる企業です。

仮に、中小零細企業でも、月5万8,000円以上払う人を雇って、社会保険料の半分を企業が支払わなくてはならないとなったら、この企業負担はかなり重いものになります。

企業の社会保険料負担は、労使で折半されますが、給料の1割以上になるので、中小零細企業などには税金よりも重い負担となってきます。

大企業ならなくとか支払えても、利益率の低い中小零細企業の中には、とても支払えないというところも出てくるでしょう。

そうなると、なんとかパートは月5万8,000円以下で雇うということになり、労働が細切れ化される可能性もあります。

そしてオプションBの、「なるべく長く働いて納めるものを納め、年金の受給期間は短くしてほしい」は、5年後の「財政検証」で、年金の支給年齢を現在の65歳からさらに引き上げる布石なのでしょう。

末端企業への負担増大で、給料減少の懸念も

今回の「財政検証」に埋め込まれた2つの爆弾は、「100年安心」も「現役世代の50%支給」も、すでに守れない約束になっていて、その負担を、保険加入者だけでなく末端の企業にまで負わせようというものです。

これが選挙前に出ていたら、中小零細企業を含めた多くの企業から反発を受けるので、発表を先送りしたという気がします。

ただでさえ景気が悪化しつつある中、企業負担が増えるということは、給料の減少にもつながりかねない気がします。

消費税も上がるので、日々の生活はひきしめて!(執筆者:荻原 博子)

《荻原 博子》
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荻原 博子

執筆者:経済ジャーナリスト 荻原 博子 荻原 博子

経済ジャーナリスト 1954年生まれ。経済事務所勤務後、1982年からフリーの経済ジャーナリストとして、新聞・経済誌などに連載。女性では珍しく骨太な記事を書くことで話題となり、1988年、女性誌hanako(マガジンハウス)の創刊と同時に同誌で女性向けの経済・マネー記事を連載。難しい経済やお金の仕組みを、生活に根ざしてわかりやすく解説し、以降、経済だけでなくマネー分野の記事も数多く手がけ、ビジネスマンから主婦に至るまで幅広い層に支持されている。バブル崩壊直後からデフレの長期化を予想し、現金に徹した資産防衛、家計運営を提唱し続けている。新聞、雑誌等の連載やテレビのコメンテーターとしても活躍中。「私たちはなぜ貧しくなってしまったのか」(文藝春秋)「一生お金に困らないお金ベスト100」(ダイヤモンド社)など著書多数。 寄稿者にメッセージを送る

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