厚労省発表の「年金財政検証」が示しているのは、第3号被保険者と定年の終わり

厚生労働省は2019年8月27日に、5年ごとに行われる年金財政検証の結果を公表しました。

具体的な内容については、厚生労働省のウェブサイトの中にある、「将来の公的年金の財政見通し(財政検証)」を見るとわかります。

将来の年金受給世帯の経済状況をモデル世帯ごとに検証

この中でもっとも重要なのは、次のような要件を満たす「モデル世帯」(公的年金を試算する時に基準している仮の世帯)が、年金の受給を始める65歳の時点において、現役世代の手取り収入の50%を、長期的に維持できるか否かです。

なお公的年金では現役世代の手取り収入に対する、新規裁定時の年金額の割合を、「所得代替率」と言うため、現役世代の手取り収入の50%は、所得代替率で50%になります。

年金手帳と現金

・同い年の夫婦2名で構成されている

・夫は20歳から60歳まで厚生年金保険に加入し、その間の平均収入が、厚生年金保険に加入する男子の平均収入と同額である

・妻は20歳から60歳まで、国民年金のみに加入する専業主婦である

世帯設定はやや現実離れの感が否めない

厚生労働省は経済成長と労働参加に関するデータを変えた、6つのシナリオを示していますが、シナリオによっては将来的に所得代替率が、50%を下回るものがありました。

ただ個人的にはいずれのシナリオについても、参考程度にとどめておいた方が良いと思います。

その大きな理由としては、

20歳で結婚して40年に渡って専業主婦というモデル世帯の設定が、かなり現実離れしている

からです。

また、例えばすべてのシナリオにおいて、実質賃金がプラスに推移するという前提になっておりますが、近年の日本の状況から考えると、これも現実離れしていると思います。

「オプション試算」を見ると、年金制度の将来がわかる

年金制度のオプション試算表

≪画像元:厚生労働省

このように年金財政検証は、その前提となる設定や数字などに、現実離れしている部分があります。

そうなると年金財政検証の結果は、役に立たないような気もしますが、「オプション試算」の部分については、年金制度がこれからどうなっていくのかを考える時に、とても役に立つのです。

このオプション試算とは、厚生労働省が検討している最中の、いくつかの年金制度の改正案を、仮に実行に移した場合、どのような結果になるのかを試算したものです。

結果として、例えば所得代替率を改善する効果が高かったものは、実際に採用される可能性があります。

給料の明細

そうしたオプション試算の中には次のような内容が記載されております。

賃金の月額が5万8,000円以上だと、社会保険に加入する可能性がある

2016年10月1日から、社会保険(健康保険、厚生年金保険)の適用が拡大されたため、次の(A)~(E)の要件をすべて満たした場合には、パートやアルバイトであっても、社会保険に加入する必要があります。

(A) 1週間あたりの所定労働時間(雇用契約書や就業規則で定められた労働時間)が、20時間以上であること

(B) 1か月あたりの決まった賃金が、8万8,000円以上(年収に換算すると約106万円以上)であること

(C) 1年以上雇用される見込みがあること

(D) 学生ではないこと(通信制、定時制、夜間の学生は、社会保険の対象になる)

(E) 従業員の人数が、501人以上の企業で働いていること(社会保険に加入することについての、労使の合意がある場合には、501人未満の企業も含める)

オプション試算の中の、「オプションA(被用者保険の更なる適用拡大)」を見てみると、この(A)~(E)の要件を廃止または変更した、次のような3つのケースの試算を行っておりました。

1. (E) の企業規模の要件を廃止したケース

中小企業にも社会保険を適用した場合になりますが、厚生年金保険の加入者が約125万人増えると試算されております。

2. (B) の賃金要件とEの企業規模の要件を廃止したケース

雇用保険の加入要件に近付けた場合になりますが、厚生年金保険の加入者が約325万人増えると試算されております。

人がたくさん

3. (B) の賃金要件を5万8,000円以上にしたケース

(B) の賃金要件を5万8,000円以上に引き下げ、残りの要件は廃止した場合になりますが、厚生年金保険の加入者が約1,050万人増えると試算されております。

保険料を納付する期間は長くなるが、年金額を増やせる機会が多くなる

オプション試算の中の、「オプションB (保険料拠出期間の延長と受給開始時期の選択)」を見てみると、次のような法改正を実施した場合の試算を行っておりました。

1. 国民年金の保険料を納付する期間の延長

国民年金の保険料は原則として、20歳から60歳までの40年間に渡って納付しますが、これを5年延長して65歳にした場合、どのような影響があるのかが試算されております。

2. 在職老齢年金の見直し(緩和、廃止)

65歳以降に厚生年金保険に加入すると、「在職老齢年金」の仕組みによって、老齢厚生年金が減額される場合があるのですが、これを緩和または廃止した場合、どのような影響があるのかが試算されております。

3. 厚生年金保険に加入する年齢の上限の引き上げ

厚生年金保険に加入する年齢の上限は、現在は70歳になりますが、これを引き上げして75歳にした場合、どのような影響があるのかが試算されております。

4. 繰下げ受給できる年齢の引き上げ

原則として65歳から受給できる、老齢年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金)の支給開始を、1か月繰下げる(遅らせる)と、「繰下げ受給」の制度により、年金額が0.7%ずつ増えていくのです。

この繰下げ受給の上限は、現在は70歳になりますが、これを引き上げして75歳にした場合、どのような影響があるのかが試算されております。

所得代替率が50%未満に低下すると、繰下げ受給の選択を迫られる

厚生年金保険に加入している方の、年収130万円未満の配偶者のうち、国民年金の「第3号被保険者」と認定された方は、国民年金の保険料を納付しなくても、納付したものとして取り扱われます。

この第3号被保険者は2016年度末時点で、900万人くらい存在しておりますが、「オプションA(被用者保険の更なる適用拡大)」が実施され、賃金の月額が5万8,000円以上で社会保険に加入するようになると、人数が大幅に減ってしまう可能性があるのです。

また「オプションB(保険料拠出期間の延長と受給開始時期の選択)」が実施され、65歳まで国民年金の保険料を納付するようになった場合、60歳で定年を迎えた後に働かないと、老後資金の取り崩しが多くなります

それに加えて所得代替率が低下し、50%を切るような時代を迎えた場合には、できるだけ働いて老齢年金の支給開始を、66歳~75歳まで繰下げしないと、十分な年金額を確保できない可能性があります。

このように考えると、年金財政検証が示しているのは、第3号被保険者と定年の終わりではないかと思うのです。(執筆者:木村 公司)

この記事を書いた人

木村 公司 木村 公司(きむら こうじ)»筆者の記事一覧 (197)

1975年生まれ。大学卒業後地元のドラッグストアーのチェーン店に就職。その時に薬剤師や社会福祉士の同僚から、資格を活用して働くことの意義を学び、一念発起して社会保険労務士の資格を取得。その後は社会保険労務士事務所や一般企業の人事総務部に転職して、給与計算や社会保険事務の実務を学ぶ。現在は自分年金評論家の「FPきむ」として、年金や保険などをテーマした執筆活動を行なう。
【保有資格】社会保険労務士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、DCプランナー2級、年金アドバイザー2級、証券外務員二種、ビジネス実務法務検定2級、メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅱ種
【寄稿者にメッセージを送る】

今、あなたにおススメの記事
本サイトの更新情報をfacebook・Twitter・RSSでチェックしましょう