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遺言書の効力が弱化 知らないうちに遺産を横取りされる危険性を解説

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遺言書の効力が弱化 知らないうちに遺産を横取りされる危険性を解説

2019年、2020年と相次いで改正相続法が施行されます

一連の改正内容は近年の相続の実態に則したものであり、いずれも良い改正だといえるでしょう。

しかし、法に不備はつきものなのかもしれません。

遺言書があるから大丈夫だと思って安心していると、知らないうちに遺産を横取りされる危険性が出てきているのです。

この記事では、2019年7月1日から既に施行されている改正相続法の中から特に注意すべき点をご紹介します。

遺言書の効力が弱化

不動産を横取りされるケース

例えば、被相続人の遺産として評価額3,000万円の自宅があり、相続人として長男Aと次男Bがいるとします。

被相続人が「自宅の所有権は長男Aに譲る」という遺言書を残していれば、相続法改正前ならAさんは安心してゆっくりと相続手続を進めることができていました。

遺言書があることによって、Aさんは相続登記をしなくても自宅全体の所有権を第3者に対しても主張することが可能だったのです。

しかし、2019年7月1日に施行された改正相続法によってAさんは安心できなくなっています。

遺言書があっても相続登記をしなければ第3者に対抗できなくなった

改正相続法では、次の条文が新設されています。

(共同相続における権利の承継の対抗要件)
民法第899条の2
相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。

つまり、相続した不動産について、法定相続分を超える部分については登記をしておかなければ第3者に所有権を主張することができなくなったのです。

上の例でいうと、自宅の所有権について、次男Bさんによって法定相続分にあたる2分の1の持ち分を横取りされる危険があります。

まず、Bさんは2分の1の持ち分については無断で自宅の所有権を自分名義に登記ができます

そして、その持ち分を事情を知らない第三者に売却すれば、Bさんは1,500万円よりは少ないでしょうが現金を手にできます。

仮に評価額の7割にあたる1,050万円で売れたとすれば、遺留分(4分の1)である750万円より300万円もBさんが得することになってしまいます。

自宅の持ち分が売却されて登記されてしまうと、法定相続分を超える部分については、もはやAさんは事情を知らない買い受け人に対して遺言書による自宅の全部相続を主張することはできなくなります

Bさんの債権者が自宅を差し押さえることも

Bさんに遺産を横取りするような悪意がなかったとしても、Bさんに債権者がいれば自宅を差し押さえられることがあります

Bさんが借金をしていて返せなくなった場合、債権者はBさんの法定相続分については自宅を差し押さえることができます。

差押えの登記がされてしまうと、やはりAさんは債権者に対して遺言書による自宅の全部相続を主張できません

以前は遺言書の効力は絶対的でしたが、相続法の改正によって少し効力が弱まったといえるのです。

遺産の横取りを防ぐ方法

この例で、Bさんは正当な利益を有する「第3者」にはあたりません。

したがって、AさんはBさんに対して300万円の返還は請求できます

しかし、裁判をするには手間や精神的負担もかかります。

弁護士に依頼するとそれなりの費用もかかってしまいます。

勝訴したところで、Bさんがお金を使ってしまっていて返還能力がなければ徒労に終わるおそれもあります。

したがって、遺産の横取りを防ぐためには、Aさんがいち早く遺言書のとおりに相続登記をする必要があります

ただし、自筆証書遺言については家庭裁判所で検認を受けなければなりません。

検認の手続には1か月程度はかかるため、その間にBさんに先を越されてしまうおそれがあります。

検認の手続きを省略するためには公正証書で遺言を作成してもらうか、2020年7月10日から始まる法務局での遺言書保管制度を利用する必要があります

あるいは、自宅の所有権全部について生前贈与を受けておくことも考えられます。

いずれにしても、Aさんは早めに手を打たなければなりません。

以前のように、四十九日が終わってからゆっくり相続のことを考えるつもりでいては遺言書どおりの相続はできなくなるおそれがあるのです。

遺言書どおりの相続は できなくなるおそれが出てきます

預貯金を横取りされるケース

不動産以外にも、預貯金も他の相続人に横取りされる危険性があります。

2019年7月1日から銀行などの預貯金の仮払い制度が始まっています。

仮払い制度とは、被相続人名義の預貯金について、各相続人が他の相続人の同意なしに最大で金融機関ごとに150万円まで引き出すことができる制度です。

上の例でいうと、被相続人が「預貯金は全て長男Aに相続させる」という遺言書を残していても、Bさんは仮払い制度を使うことができます

Aさんが遺言書に従って預貯金の名義変更をするか払い戻しを受けるまでは、Bさんが仮払い制度を使えば一定の金額を引き出せるのです。

もちろん、AさんはBさんに対して返還を請求できますが、実際にお金を取り戻すのは簡単ではない場合が多いでしょう。

新しい対策が必要に

2019年7月の相続法改正によって、先に遺産に手をつけた相続人が事実上得をするという事態が発生しています。

嫌な世の中になったような気もしますが、法律が変わった以上は新しい対策が必要ということがいえるでしょう。(執筆者:川端 克成)

《川端 克成》
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川端 克成

川端 克成

約15年間弁護士をしていましたが、人の悩みは法律だけでは解決できないことに悩み続けて、辞めてしまいました。現在はフリーライターとして活躍中です。読んで役に立ち、元気が出るライティングをモットーに、法律問題に限らず幅広いジャンルで執筆しています。これまでの人生では、ずいぶん遠回りをしてきました。高校卒業後は工場などで働いて二部大学に入り、大学卒業後も工場で働いて司法試験の勉強をしました。弁護士を辞めた後も工場で働きながらライティングの修行を重ねました。そんな人生経験にも基づいて、優しい心を執筆を通じてお伝えするのが理想です。 寄稿者にメッセージを送る

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