現在の日本は、すべての国民が何らかの公的医療保険に加入する「国民皆保険」制度です。

また、原則75歳になって「後期高齢者医療制度」に加入するまでは、どの公的医療保険(健康保険)に加入するのかという選択肢が多少はあります

退職したら どの公的医療保険に 加入するのがいいか

退職後に加入する公的健康保険制度「健康保険」の選択肢

たとえば、健康保険に加入する会社員が退職してすぐに再就職しなかった場合には、次の3つの中から選べる可能性があるのです。

(1) 家族が加入する健康保険の、被扶養者になる

(2) 退職前に加入していた健康保険の、任意継続被保険者になる

(3) 市区町村と都道府県が運営している、国民健康保険に加入する

(1)「被扶養者になる」を選択する場合

この中の(1)を選択した場合、被扶養者は保険料の負担がなく、また被扶養者の人数が増えても、健康保険の保険料の金額は変わらないので、最初に検討したい選択肢です。

では、どのような方が被扶養者になれるのでしょうか。

たとえば、健康保険に加入している方の

・ 直系尊属(父母や祖父母など)
・ 配偶者(内縁関係も含む)
・ 子
・ 孫
・ 兄弟姉妹

であれば、同居か別居かを問わず被扶養者になれるのです。

被扶養者になれる要件

ただし、被扶養者になろうとする方の年間収入が原則として130万円(60歳以上または障害のある方の場合は180万円)未満で、かつ次のような要件を満たしている必要があるので、この辺りがネックになるかもしれません。

【同居している場合】

被扶養者になろうとする方の年間収入が、健康保険に加入している方の「年間収入の1/2未満」

【別居している場合】

被扶養者になろうとする方の年間収入が、健康保険に加入している方からの「仕送り額未満」

なお、健康保険の被扶養者になった20歳以上60歳未満の配偶者(内縁関係も含む)は、原則として国民年金の第3号被保険者にもなるので、自分で国民年金の保険料を納付する必要がなくなります

組合健保に加入していた場合には、付加給付や保健事業も考慮する

家族が加入する健康保険の被扶養者になる要件を満たせなかった場合には、(2)か(3)のいずれかを選択します。

(2) or (3)を選択する場合

(2)を選択できるのは、健康保険の資格喪失日(原則として退職日の翌日)の前日までに継続して2か月以上、健康保険に加入していた方です。

また、健康保険の資格喪失日から20日以内という短期間に申請手続きを済ませる必要があるため、(2)を選択する場合には早めに行動する必要があるのです。

両者の加入要件を満たす方がどちらを選択するのかについては、(2)と(3)の保険料の目安額を算出し、それを比較して決定するのがよいと言えます。

なお、(2)の健康保険は、

・ 主に中小企業の従業員が加入する「協会けんぽ

・ 主に大企業の従業員が加入する「組合健保

の2つに分かれています。

後者の組合健保は、法定給付の上乗せとなる「付加給付」や人間ドックの受診補助などの「保健事業」を実施している場合があります。

組合健保に加入していた場合には、保険料だけではなく、これらも考慮した方がよいという意見があります。

ただし、財政難などの理由により、これらを縮小または廃止する組合健保が増えているため、以前より考慮する必要性は薄れています

任意継続被保険者の保険料は約2倍になるが上限がある

払う保険料に上限をもうけています

勤務先が従業員の給与から控除した健康保険の保険料を、協会けんぽや組合健保などに納付する際には、それとほぼ同額を勤務先が拠出し、両者を合わせたものを納付しています。

また、退職した後は勤務先の拠出がなくなるため、(2)の保険料は退職する前の約2倍になりますが、一定の上限はあります

たとえば、協会けんぽの東京支部の2020年度の保険料の上限は、介護保険に加入しない40歳未満が月額2万9,610円、介護保険に加入する40歳以上が月額3万4,980円です。

都道府県によって多少の違いはあるのですが、だいたい3万円程度が目安です。

一方で、組合健保は、協会けんぽより健康保険に加入している方の月給の平均額が高いため、その分だけ協会けんぽより保険料の上限が高くなる場合が多いのが特徴です。

退職理由によっては、前年の所得が「30/100」と見なされる

(3)の国民健康保険の保険料は、市区町村によって計算方法に大きな違いがあります

そのため市区町村のウェブサイトで計算方法を調べたり、市区町村の窓口に問い合わせたりする必要があります。

いずれにしろ国民健康保険の保険料は、前年の所得を元にして算出するため、退職した直後は高くなる場合が多いのが実状です。

ただし、解雇、倒産、雇止め、病気、ケガ、育児、介護、通勤不可能などの理由で退職した65歳未満の失業手当の受給者は、所定の届出をすると前年の所得が「30/100」と見なされる場合があるのです。

このようにして前年の所得が低くなれば、その分だけ保険料の負担が軽減されるのです。

従って、退職後に加入する健康保険を決める際には、退職理由も考慮した方がよいと言えます。

特定の職種や業務に従事している場合には、健康保険の選択肢が増える

特定の職種や業務に従事している方には、国民健康保険組合が運営する国民健康保険に加入できる場合があります。

たとえば、医師、歯科医師、薬剤師、理美容師、土木建築業などですが、これらの職業に従事しているだけではなく、特定の地域に住んでいることも加入要件です。

そのほかにどのような職種や業務の国民健康保険組合があるのかについては、全国国民健康保険組合協会のウェブサイトの中にある国民健康保険組合へのリンク「業種選択」というページを見て調べてみるのがよいことでしょう。

退職後に特定の職種や業務を始めるなら国民健康保険も選択肢

市区町村と都道府県が運営している国民健康保険は上記のように前年の所得を元にして保険料を算出します。

それに対して国民健康保険組合が運営している国民健康保険は定額の場合が多いため、退職する前の所得によってはこちらを選択した方が保険料が安くなる場合があるのです。

小規模の個人事業で始めるために特定の職種や業務を退職した方は、退職後に加入する健康保険の選択肢に(2)や(3)だけではなく、国民健康保険組合が運営している国民健康保険も加えてみましょう。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)