新型コロナウイルス感染拡大の影響により、中華人民共和国の国の方針や重要な政策を決定する全国人民代表大会(以降、全人代)の開催が延期されてきましたが、5月22日にようやく開催されました。
今回の全人代は特に大きな注目を集めており、今後の世界経済を占ううえで必ず確認しておくべき決定がいくつかなされました。
そこで、今回の記事では、全人代の決定の中で特に注目を集めた方針や政策をまとめて紹介していきます。

目次
経済成長率の目標は示されず
まず認識しておくべきなのは、2020年の経済成長率の目標が示されなかったということです。
全人代においてその年の成長率目標が示されることは通例となっていますが、2020年については目標が示されないという異例の事態となりました。
目標が示されなかったという理由としては、
(1) 高い目標を示すことで地方政府の無駄な投資を招きかねないこと
(2) 低い目標を示すことで企業・消費者心理の冷え込みを防ぐため
(3) 以上の2点を防ぐ良い具合の目標を示すことが難しかったこと
などが考えられます。
幅広い景気刺激策の実施
新型コロナウイルスの感染拡大によって失われた雇用や経済損失を補うべく、積極的な税制政策や穏健な金融政策を行っていく方針が示されました。
積極的な財政政策においては
など、大胆な政策が実行されています。
また、金融政策については過剰な債務に対する懸念については留意しつつも、金融市場に対する流動性の供給、政策金利の引き下げを通じて一段と金融市場の安定化に資するための方針が示されています。
雇用安定の方針が全面的に打ち出される
ここ数年、政府が重視している雇用政策については、一段と強化する方針が示されており、新型コロナウイルスによって失われた雇用の安定を図る政策の実施を打ち出しています。
雇用の安定と同時に貧困からの脱却も方針として示されており、現行の基準で農村貧困人口に当たる人々を全て貧困から脱却させることも目標として掲げられています。
経済成長の一段の上昇を達成させることが難しいなかで、雇用の安定・貧困の脱却を図ることで中国政府が従来から掲げる「小康社会」の実現を図ろうという姿勢が前面に打ち出されています。
米中摩擦の火種となる法律の制定

また、米中摩擦の火種となり得る「国家安全法」が全人代の最終日に採択されました。
この法律によって香港の自治を脅かすことが危惧されています。
米中摩擦の再燃や2019年に実施された香港の大規模デモが再び実施される可能性が高くなっていると言えます。
仮に昨年と同じような状況になった場合には、金融市場は再び不安定になる可能性が高く、米中摩擦のさらなる悪化が引き起こされることも留意しておく必要があります。
成長シナリオが崩れる可能性
大規模な財政政策や穏健な金融政策の実施によって今後の中国経済を下支えすることが見込まれますが、2次感染の拡大、米中摩擦のさらなる悪化によって成長シナリオが崩れる可能性が十分あることは認識しておいてください。(執筆者:日本証券アナリスト協会認定アナリスト 草山 拓也)