人生100年時代とは言うものの病や不慮の事故で夫が他界してしまった場合、精神的な面だけでなく、経済的な不安も避けて通れません。

また、このようなことは実際に起こってから考えたいという感覚にもなるでしょう。

しかし、実際に起こった後では、その他の手続きにも奔走せざるを得なくなることも事実です。

そこで、そのような場合に夫に先立たれた場合の女性が受けられる社会保障制度(遺族年金など)を3点にフォーカスを当て解説していきます。

妻が受けることができる「社会保障制度」

受けられる社会保障制度

遺族である妻が受給できうる社会保障を整理しましょう。

【夫が私傷病により他界した場合】

国民年金から:遺族基礎年金、寡婦年金、死亡一時金

厚生年金から:遺族厚生年金(中高齢寡婦加算、経過的加算)

健康保険から:葬祭料

【業務上の理由により他界した場合】

労災保険から:遺族(補償)年金、葬祭料

※国民年金、厚生年金からの給付は、紙面の都合上保険料未納がない前提です。

各社会保障制度の要件

遺族基礎年金の要件

他界した夫との「生計維持関係」があり、かつ18歳年度末前のお子様(障害等級1、2級のお子様の場合は20歳前)がいることが要件となります。

受給額は年額約100万円です。

参照:日本年金機構

寡婦年金の要件

「つなぎ年金」と表現されることがあり、妻が60歳に達した翌月から65歳に達するまでの年金です。

受給額は夫の第1号被保険者(自営業など)としての老齢基礎年金の4分の3です。

仮に20歳から60歳まで全期間自営業を営み第1号被保険者であり、全て保険料を納付した場合は夫の老齢基礎年金は年額約78万円です。

また、夫が第1号被保険者としての期間が10年以上必要です。

【他の要件】

・ 夫と「生計維持関係」があり

・ 夫との婚姻期間が10年以上の65歳未満の妻

・ 夫が障害基礎年金の受給権なし

・ 夫が老齢基礎年金を受けていない

死亡一時金の要件

他界した夫と「生計を同じくしていた」妻です。

夫が第1号被保険者としての月数が36か月以上必要であり、受給額は夫の加入していた月数に応じて一時金で12万円から32万円となります。

なお、月額400円の付加保険料を3年以上納めておくことで、8,500円を加算できます

【他の要件】

・ 夫が老齢基礎年金、障害基礎年金を受けたことがない

・ 夫の他界により遺族基礎年金を受けないこと(例外あり・後述)

参照:日本年金機構

遺族厚生年金の要件

夫と「生計維持関係」にあった妻が対象です。

受給額は夫の老齢厚生年金の4分の3です。

妻のメリットは「年齢要件がない」ことです。

例えばお子様がいらっしゃらないご家庭で妻が他界し、夫が遺族厚生年金を受給するには55歳以上であることが要件であり、かつ実際の受給開始は60歳に達した月の翌月からです。

中高齢の寡婦加算の要件

・ 夫が他界した当時、40歳以上65歳未満である妻

・ 40歳に達した時に夫が他界した当時から引き続き生計を同じくしいるお子様を有している場合

遺族基礎年金は、お子様が18歳年度末(障害等級1、2級のお子様の場合は20歳前)までとなり、その後は支給されなくなり、家計が苦しくなることが予想されます

その場合、遺された妻が40歳以上65歳未満の間に遺族基礎年金の4分の3が支給される制度です。

すなわち、遺族基礎年金を受給している間は中高齢の寡婦加算は受給できませんが、時期が異なれば両方とも受給できるということです。

経過的寡婦加算の要件

昭和31年以前に生まれた妻が65歳に到達した場合に支給される制度です。

これは、65歳に達した後、遺族厚生年金と自身の老齢基礎年金を受給することになります。

しかし、この世代の方は公的年金の加入期間が短いことが多く、遺族厚生年金に以下の加算を行います。

中高齢の寡婦加算-老齢基礎年金の満額 × 寡婦の生年月日に応じて定める率

葬祭料の要件

埋葬

夫が健康保険加入中に他界し、他界した夫と生計維持関係にある妻で埋葬を行う妻に支給されます。

また、会社を退職し、健康保険の資格を喪失したあとは

・ 夫が「資格喪失後した日後3か月以内」に他界したとき

・ 夫が傷病手当金の資格喪失後の継続給付を受けている期間に他界したとき

・ 夫が傷病手当金の資格喪失後の継続給付を受けなくなった「日後3か月以内」に他界したとき

は、受給対象です。

ここでいう生計維持とは他界した夫により生計の全部または一部を維持した事実があれば足ります。

受給額は5万円です。

遺族(補償)年金の要件

夫が業務上の理由により他界した場合、死亡の当時「生計維持関係」にあった場合に支給対象となります

生計維持関係については、夫の収入によって生計の一部を維持していれば足りるとされています。

受給額は妻1人の場合、給付基礎日額の153日分です。(55歳以上の妻、または一定の障害の状態にある妻の場合は給付基礎日額の175日分)

なお、給付基礎日額とは労働基準法上の平均賃金に相当する額であり、事故が発生した日の直前の3か月間に支払われた金額の総額をその期間の歴日数で割った1日あたりの賃金額です。

仮に月額30万円の夫が10月10日に事故が発生した場合は、

30万円 × 3か月 ÷ 92日(7月:31日、8月:31日、9月:30日)=およそ9,782円82銭となります。

なお、給付基礎日額に1円未満の端数がある場合は1円に切り上げます。

葬祭料の要件

夫が業務災害により他界した場合に葬祭を行う者に対して支給されます。

支給額は31万5,000円+給付基礎日額の30日分です。

給付基礎日額の60日分に満たない場合は給付基礎日額の60日分が支給されます。

併給可否(併せて受給できるか)

国民年金と厚生年金の間では、給付内容により、併給の可否、選択受給(どちらかを選ぶ)などが定められています。

労災保険と国民年金・厚生年金の間で同じ理由で給付が行われる場合は、「労災保険の方が」減額調整される点はおさえておきましょう。

健康保険から支給される葬祭料は減額調整などの規定はありません。

(1) 遺族基礎年金-遺族厚生年金 〇

(2) 遺族基礎年金-死亡一時金 ×

※例外として、遺族基礎年金の受給権の発生と消滅が同一月となり、結果的に遺族基礎年金が全く支給されない場合は死亡一時金の支給あり

(3) 遺族基礎年金-寡婦年金 選択受給

(4) 遺族厚生年金-死亡一時金 〇

(5) 遺族厚生年金-寡婦年金  ×

(6) 死亡一時金-寡婦年金 選択受給

知らずに損をした事例

知らなくて受給できないことも

選択受給の際に多く発生していますがその中の一部をご紹介します。

a. 死亡一時金と寡婦年金の受給権がある場合

夫が自営業で厚生年金の加入期間がないと、遺族厚生年金が受けられません。

しかし、葬儀などで一定のまとまったお金が欲しいということもあり得ます。

死亡一時金を選択した場合、寡婦年金は受給権が消滅します。

ですから、妻は60‐65歳の間は自身の老後の年金を繰り上げる(その場合1か月につき0.5%減額)という選択をしなければその間は無年金となります。

また、妻は、老齢基礎年金を繰り上げた場合は、年齢が65歳に達したと考えられ、寡婦年金の受給権も消滅してしまいます。

よって、結果的に寡婦年金は全く支給されなかったという事例です。

b. 寡婦年金と遺族基礎年金の受給権がある場合

併給(寡婦年金と遺族基礎年金を同時に受給)はできません。

しかし、遺族基礎年金を過去に受けたことがある場合であっても、寡婦年金は受給できます

この点を誤認し、請求しなかった事例があります

また、上記設例と同様に、老齢基礎年金を繰り上げ請求すると、寡婦年金の受給権が消滅してしまう点も留意すべきです。

c. 遺族厚生年金、寡婦年金、死亡一時金の受給権がある場合

妻は専業主婦で老齢基礎年金のみ受給予定でしたが、他界した夫が自営業で25年国民年金に加入後に厚生年金に5年間加入中であったご家庭です。

年金の支給案を時系列にすると

60歳まで:遺族厚生年金

60歳-65歳まで:寡婦年金

65歳から:老齢基礎年金と遺族厚生年金

上記は一例ですが、2つ以上の年金を受けられるようになった場合、よほど年金に精通していなければ何が有利なのか不利なのを見極めることは困難と言わざるを得ません

そこで、「年金受給選択申出書」というものがあります。

これは、ご本人の選択によりいずれか1つの年金を受けるために必要なものですが、具体的には以下のような場合です。

・ すでに年金を受けているが、新たな年金が受けられるようになった

・ 2つ以上の年金を受けているが、いずれかの年金額が変更となり、受け取る年金を変更した方が有利になる場合

・ 税金や社会保険料、労災などの諸事情により、受け取る年金を変更したい場合

参照:日本年金機構(pdf)

年金は生涯の貴重な収入源となるものです。

上記のような場合は、賢く年金を「選択」するべきです。

その場合は専門家や行政機関を活用していただき、安心のある生活を送っていただくことを願ってやみません。(執筆者:社会保険労務士 蓑田 真吾)