地価の発表は1年の間に複数回行われますが、土地の値段は一物四価と言われ、目的に応じて別々の団体が地価を発表します。
国税庁が毎年7月に発表するのが路線価で、相続税計算上の評価額算定が目的です。
土地の相続だけに影響するのかと言えばそうではなく、贈与にも影響しますし、さらに最近の話題の事業承継にまで(場合によっては)影響を及ぼします。
相続や贈与でなく譲渡であれば所得税の対象ですが、事業承継が問題になるような非上場会社の株式譲渡も路線価が影響することもあります。

目次
非上場株式の株価とは
上場株式であれば平日、日中の取引で株価がつきます。非上場株式の株価に関しては、M&Aの譲渡価格は別として、一般的には税務目的の算定方法である国税庁方式を利用します。
企業の純資産を基にするのが原則
国税庁方式の非上場株価は、各地の国税局に通達している「財産評価基本通達」に算定方法が定められています。
会計学の理屈では当たり前のことを言うようですが、企業の決算期末における資産額から負債額を引いた純資産額がベースになります。
この純資産価額方式のほかには、直近2年度の利益・配当、同業種上場企業の株価・利益・配当・純資産も考慮する類似業種比準価額方式があります。
会社の規模によっていずれか片方か、両方を組み合わせた方式で評価しますが、規模が小さくなるほど純資産価額方式、大きくなるほど類似業種比準価額方式のウエートが高まります。
さらに持ち株割合によっては、資本金や直近2年度の配当額支払い状況から計算する配当還元方式でも評価できます。
法人の所有する土地の額は路線価で算定する
さて純資産価額方式における決算期末の資産額・負債額ですが、決算書の数字である帳簿価額のほか、相続税評価額に焼き直した数字も使います。
土地を保有している企業であれば、土地の評価額は路線価(路線価が設定されていない地域は固定資産税評価額がベースになる)を用いた金額になります。
特に土地の割合が総資産額の一定以上を占める「土地保有特定会社」では、原則純資産価額方式で株価算定を行うため、路線価の重要性が高まります。
事業承継に影響する株価

非上場企業、特に同族会社は株価が事業承継にも影響を及ぼします。
経営者一族の相続割合を左右しますし、事前に相続対策を行うとなれば、相続・贈与税負担だけでなく議決権・経営権を考えながらになります。
同族会社が土地を所有していれば、路線価が株価さらに相続事業承継をも左右するのです。
路線価による土地評価は、長方形や正方形で道路に面した土地ならさほど難しくないのですが、そうでない場合は複雑なため税理士の力量が問われ、相続・資産税専門の税理士事務所もあるぐらいです。
相続贈与以外に譲渡所得税にも影響
相続・贈与税の算定目的で使われる非上場株式の国税庁方式評価額は、お金を動かして株式を売買する場合にも利用されます。
個人が別の個人または法人に非上場株式を売却した場合は所得税がかかり、所得分類は一般株式等に係る譲渡所得に該当しますが、売却価額は財産評価基本通達に基づく評価額が税務上妥当な時価とされています。
ただし相続・贈与税と異なりもらい受けた側でなく渡した側に課税されるので、株価算定に用いる議決権割合を渡した後でなく渡す前で判断するなど、若干異なる点もあります。
国税庁方式以外の金額で売却することもできますが、差額がみなし贈与と認定されて、所得税のほかに贈与税がかかるような面倒なケースもあります。
こう考えると、毎年報道される路線価は相続だけでなく土地・株式にかかる贈与税、株式の譲渡所得税にも影響する重要な指標と言えます。
最高裁判決を受けて所得税法の基本通達改正
非上場株式の譲渡収入金額(相続税評価額)を巡っては、低くなる配当還元方式を採用した納税者側と、純資産価額方式で納税額を増額させたい国税当局側で最高裁まで争った案件がありました。
2020年3月24日の最高裁判決では、所得税法の趣旨を踏まえず財産評価基本通達の評価方法を使った納税者側の主張に問題があると判断され敗訴しました。
この最高裁判決はその後税務・法律系の多くの雑誌で話題になりましたが、所得税法の基本通達にあいまいな点があったため、国税庁側も今後このような紛争が起こらないよう所得税法基本通達を改正しました。
土地の取引価格も路線価がベースになりうる
あまり取引事例のない土地では、路線価に基づく評価額 ÷ 0.8で取引用の時価を算定するケースもあると聞きます。この場合は、路線価が土地建物等の譲渡所得に影響します。(執筆者:石谷 彰彦)