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年金を60歳から受給して、70歳まで緩やかに働くのが良い5つの理由

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年金を60歳から受給して、70歳まで緩やかに働くのが良い5つの理由

原則として65歳から支給される、次のような老齢年金の受給開始を早めると、1か月ごとに0.5%の割合で年金額が減ります。

(1) 国民年金から支給される「老齢基礎年金」

(2) 厚生年金保険から支給される「老齢厚生年金」

このような仕組みは「繰上げ受給」と呼ばれており、現状では最大で60歳まで、受給開始を早くできます。

そのため最大年齢まで受給開始を早くした場合の減額率は、「0.5% × 60月(5年 × 12月)」により、30%に達するのです。

一方で(1) と(2) の受給開始を遅らせると、1か月ごとに0.7%の割合で年金額が増えます

このような仕組みは「繰下げ受給」と呼ばれており、現状では最大で70歳まで、受給開始を遅くできます。

そのため最大年齢まで受給開始を遅くした場合の増額率は、「0.7% × 60月(5年 × 12月)」により、42%に達するのです。

年金を60歳から受給して 「70歳まで緩やかに働く」 のが良い5つの理由

繰上げ受給と繰下げ受給に大きな改正がある

最近はニュースサイトなどを見ていると、繰上げ受給か繰下げ受給に関する記事を、よく見かけるという印象があります。

この理由のひとつは、2022年4月になると繰上げ受給の減額率が、0.5%から0.4%に改正されるからだと思います(改正の対象になるのは、1962年4月2日以後に生まれた方です)。

そうなると60歳まで受給開始を早くした場合の減額率は、「0.4% × 60月(5年 × 12月)」により、24%に変わるため、従来の30%より6%低下するのです。

また繰下げ受給の上限が2022年4月になると、70歳から75歳に改正されるというのも、理由のひとつだと思います(改正の対象になるのは、1952年4月2日以後に生まれた方です)。

この年齢まで受給開始を遅くした場合の増額率は、「0.7% × 120月(10年 × 12月)」により、84%に達するため、従来の42%からは倍増になります。

かなり魅力的に見えますが、個人的には次のような5つの理由により、60歳まで老齢年金の受給開始を早くして、70歳まで緩やかに働いた方が良いと思うのです。

なお緩やかな労働とは、社会保険(健康保険、厚生年金保険)に加入する要件の、「月給が8万8,000円以上」や「1週間の所定労働時間が20時間以上」を満たすくらいの、短時間労働をイメージしております。

また70歳を目標に設定したのは、法改正により2021年4月から、65歳から70歳までの就業機会の確保が、企業の努力義務になったからです。

【理由1】健康寿命は意外に短い

一般的に人の寿命というと、「平均寿命」を示している場合が多いのですが、「健康寿命」(日常生活に制限のない期間)という考え方もあります。

厚生労働省の発表によると、最新(2016年)の日本人の健康寿命は、男性が72.14歳、女性が74.79歳になるようです。

そうなると60歳で定年退職を迎えた場合、アクティブに旅行やスポーツなどを楽しめる期間は、男性だと10年くらいしかないのです。

ですから年金を早く受給して、人生を楽しんだ方が良いのですが、完全にリタイヤして収入が年金だけになると、お金の不安が増える可能性があります

また社会的なつながりを持つ方は、持たない方と比較すると、早期死亡リスクが50%低下するという研究結果があるので、完全にリタイヤしないで緩やかに働き、社会とのつながりを維持するのです。

【理由2】損益分岐点は参考にならない

繰上げ受給と繰下げ受給の記事を見ていると、「〇〇歳まで生きると繰上げ受給は損」、または「〇〇歳まで生きるなら繰下げ受給した方が得」というような、損益分岐点の話が紹介されております。

こういった話を参考にする方がいるのかもしれませんが、何歳まで生きるのかは誰にもわからないので、個人的にはあまり意味がないと思うのです。

また自分に適用される損益分岐点と、記事の中に記載されている損益分岐点が、一致しない場合があるのです。

この理由として繰下げ受給で老齢年金が増えると、その増額分に応じて税金や、保険料(国民健康保険、後期高齢者医療制度、介護保険など)の負担が、増える可能性があります。

そうなると税金や保険料が増えた分だけ、老齢年金の手取りが減ってしまうため、自分に適用される損益分岐点と、記事の中に記載されている損益分岐点が、一致しなくなってしまうのです。

また厚生年金保険は70歳まで加入するため、この加入要件を満たして60歳以降も働き続けると、厚生年金保険から支給される老齢厚生年金は金額が増えます。

ですから60歳まで受給開始を早くして、老齢厚生年金が30%(2022年4月以降は24%)減額しても、60歳以降も働き続ければ、この減額が生涯に渡って続くわけではないのです。

このようにして減額率が変われば、自分に適用される損益分岐点と、記事の中に記載されている損益分岐点が、一致しなくなってしまうのです。

なお現状では65歳以降に給与(月給、賞与)から控除された厚生年金保険の保険料が、老齢厚生年金の金額に反映されるのは、退職して1か月が経ってから、または70歳になってからになります。

しかし「在職定時改定」が始まる2022年4月になると、直近1年間に給与から控除された保険料を元にして、毎年10月に老齢厚生年金の金額が改定されるため、70歳まで待つ必要がなくなります

これによって損益分岐点がさらに一致しなくなると共に、厚生年金保険に加入するメリットが増えるので、70歳まで緩やかに働いた方が良いのです。

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【理由3】繰上げ受給を選択しても保険料の負担が変わらない

夫婦二人世帯が負担する国民健康保険の保険料は、例えば収入が給与と老齢年金の場合、夫婦二人の前年の給与と老齢年金の合計を元にして算出します。

そのため給与だけ生活している方が、60歳から65歳までの間に繰上げ受給を選択して、老齢年金の受給を始めると、収入が給与だけの場合より、保険料の負担が増えてしまう可能性があるのです。

一方で勤務先の健康保険は、給与だけを元にして保険料を算出するため、繰上げ受給を選択して老齢年金の受給を始めても、保険料の負担は増えません。

また健康保険の被扶養者にしている配偶者が、繰上げ受給を選択して老齢年金の受給を始めた場合にも、保険料の負担は増えません。

もちろん配偶者の給与と老齢年金の合計が、被扶養者の認定基準として定められた年収以上になると、被扶養者から外れてしまいます。

ただ配偶者が60歳以上の場合は認定基準が、年収130万円未満から年収180万円未満に引き上がるので、あまり心配する必要はないと思います。

この他に扶養する20歳以上60歳未満の配偶者を、国民年金の第3号被保険者にできた場合、国民年金の保険料を負担する必要がないというメリットがあります。

ですから社会保険に加入する要件を満たすくらいの緩やかな労働を、60歳以降も続けた方が良いのです。

【理由4】受給開始が遅いほど減額した年金を受け取る

老齢年金などの公的年金は新年度が始まる4月に、賃金か物価のいずれかの変動率を元にして、年金額が改定されるのです

ただ現在は賃金や物価が上昇した場合、これらの上昇率から、現役人口の減少や平均寿命の伸びを元にして算出した、「スライド調整率」を差し引くため、この分だけ年金額が減ってしまうのです。

直近のスライド調整率は、2019年度は0.5%、2020年度は0.1%になるため、単年度では大きな減額ではありません。

しかし2019年に実施された年金財政検証では、2046~2058年度までスライド調整率による減額を続けるという目安が示されたので、終了を迎える頃には年金額が、かなり減っていると思います。

また受給開始の時期が遅くなるほど、減額した老齢年金を受給することになります

そのため繰上げ受給を選択して、受給開始を60歳まで早め、スライド調整率による減額の少ない老齢年金を受給した方が、お得という考え方もあるのです。

【理由5】障害年金を受給できる可能性がある

老齢年金を早く受給できる繰上げ受給には、事前に確認が必要となる、いくつかのデメリットがあります。

そのひとつは繰上げ請求の後に、初診日(障害の原因になった病気やケガで、医師や歯科医師などの診療を初めて受けた日)がある場合には、公的年金から支給される障害年金を受給できないというものです。

ただ繰上げ請求の後に初診日がある場合でも、厚生年金保険に加入していれば、障害年金を受給できる可能性があります

また繰上げ受給の最大のデメリットである老齢年金の減額も、上記のように厚生年金保険に加入することによって、ある程度はカバーできるのです。

このように60歳以降の厚生年金保険の加入は、繰上げ受給の二つのデメリットを弱めてくれるので、社会保険に加入する要件を満たすくらいの緩やかな労働を、70歳まで続けた方が良いのです。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)

《木村 公司》
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執筆者:社会保険労務士 木村 公司 木村 公司

1975年生まれ。大学卒業後地元のドラッグストアーのチェーン店に就職。その時に薬剤師や社会福祉士の同僚から、資格を活用して働くことの意義を学び、一念発起して社会保険労務士の資格を取得。その後は社会保険労務士事務所や一般企業の人事総務部に転職して、給与計算や社会保険事務の実務を学ぶ。現在は自分年金評論家の「FPきむ」として、年金や保険などをテーマした執筆活動を行なう。 【保有資格】社会保険労務士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、DCプランナー2級、年金アドバイザー2級、証券外務員二種、ビジネス実務法務検定2級、メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅱ種 寄稿者にメッセージを送る

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