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「景気は悪くない」のトリックと「前倒し」にならない飲食店の協力金

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「景気は悪くない」のトリックと「前倒し」にならない飲食店の協力金

国の税収が過去最高を更新したことを受けて、麻生太郎財務大臣がこう言いました。

「(国の税収が)60.8兆円、史上空前になっちゃうでしょうけど、これからどうなって行くかよくわかりませんけど、いずれにしても景気としては悪い方向ではない」

しかしながら、この言葉に違和感を感じた方は多かったのではないでしょうか。

確かに麻生大臣が言うように、史上空前の税収です。

ところが、この中身を見ると税収の稼ぎ頭は「消費税」です。

2019年10月に8%から10%に税率が上がったことで、前年よりも2兆6,187億円も税収が増えて20兆9,714億円となり、日本最大の税金の稼ぎ頭となったのです。

しかし、それで「景気が悪くなっていない」と言うのは明らかに間違いです。

「消費税」は景気を良くするどころか悪化させる

景気は悪くないのトリック

なぜ、「消費税」の税収が上がったことで景気が良くなったと言うのが間違いなのかといえば、「消費税」は儲かったから払う税金ではないからです。

「法人税」や「所得税」は儲かっている企業や個人から徴収する税金ですので、この税収が大幅にアップしていると言うのであれば景気が良くなっていると言えることでしょう。

確かに、法人でもIT関係やゲーム関係などは大幅に収益が伸びています。

ただし、「法人税」全体で見ると、最悪だった昨年に比べると4,375億円の伸びにとどまっています。

また、個人の「所得税」も最悪だった昨年に比べて191億円増えているだけです。

ところが、「消費税」は「法人税」+「所得税」の約6倍の2兆6,187億円も増えているのです。

増収になったのに比べると約1/6です。消費税増税で税収が大幅に増えたということです。

しかしながら、「消費税」は景気が良いというバロメーターにはなりません

景気が良ければその儲けに対してかかってくる「法人税」や「所得税」と異ななるからです。

新型コロナで店が立ち行かなくても、解雇され途方に暮れていても、集中豪雨で被災しても、病気になって働けなくなっても、どのようにひどい状況に置かれていても、生きていく限りは何か食べなくてはならないし、電気やガスも使います。

「消費税」は瀕死の状況なっている人たちからも徴収する税だからです。

しかも、貧乏な人も金持ちも同じ税率なので、貧しい人ほど負担感の強い逆進性のある税金だと言われています。

その「消費税」の税収が大きく伸びたということは、そのぶん今のコロナ禍において苦しむ人を余計に苦しめたということです。

ちなみに、日本ではコロナが流行する直前に「消費税」を8%から10%に増税し、その後に庶民の家計はコロナ禍に直撃されていますのでダブルパンチを食らったような状況です。

給料(厚生労働省・毎月勤労統計調査)は、平成元年に比べて平成2年は平均で1.2%ほど減っています。

給料が減っているのに消費税が上がったのですから、消費支出は大きく減っています

統計を見ると、麻生大臣の発言とは真逆の庶民の苦しい生活が浮かび上がってきます。

世界50の国・地域で「消費税(付加価値税)」を下げている

新型コロナが流行する直前に「消費税」の税率を8%から10%に

日本は、新型コロナが流行する直前に「消費税」の税率を8%から10%に上げたことで、税収を大きく伸ばしました。

ところが世界の国々を見ると、イギリス、ドイツをはじめとして世界の約50の国や地域で、コロナ禍に苦しむ国民のために「消費税(付加価値税)減税が行われています。

本来であれば日本も税率を下げないまでも増税前の8%の税率で据え置きにすべきだったのですが、そういう声は政権からは微塵も出てきませんでした。

ちなみに、アメリカ合衆国には、そもそも「消費税」というものがないので「消費税減税」もありませんが、その代わりに3回にわたって現金給付を行い、その総額は90兆円近くになっています。

こうして、各国では庶民の生活の下支えをしながらコロナを乗り切っていこうと税収を減らしてまで苦心してきたのですが、日本では庶民いじめの「消費税増税」で上がってきた税収を見て、「景気は悪くない」と財務大臣が言うのですから言葉が出ません。

しかも2020年度決算では、予算の使い残しなどで出た「余剰金」が過去最高の5兆5,363億円もあるのだそうです。

これに加えて、途中で中止になったGo Toキャンペーンの使い残しのお金などを含めると、約30兆円のお金があると言われています。

30兆円あれば、1人あたり20万円の定額給付金を出してもお釣りがくることでしょう。しかし、そうした計画は政府内には皆無のようです。

「緊急事態宣言」と同時に出た飲食店の「協力金の前倒し給付」は難しい

「協力金の前倒し給付」は難しい

新型コロナ禍において飲食店が破綻するか否かの瀬戸際に立たされています。

これに対して、菅首相は4回目の緊急事態宣言を出すにあたって、飲食店に時間短縮や酒類の提供禁止を要請する見返りとして、協力した店には前倒しで「協力金」を払うと支払うと7月8日の記者会見で言いました

どうやらそれは単なるリップサービスに終わりそうです。

緊急事態宣言がスタートした7月12日時点で東京都に聞いてみると「寝耳に水でやると言う話も現場には伝わっていない状況」だそうです。

これから具体的にどうするかを話し合い、システムをつくり、申請書類をつくり、その後に募集して申請されたものを審査してお金を振り込むということになるわけですから、「前倒し」どころか、それまでに「緊急事態宣言」のほうが終了しているのではないでしょうか

ちなみに、この原稿を書いているのは7月12日時点では、4月12日以降の協力金の申請さえできない状況です。

申請自体ができるのが、郵送が7月15日から、オンラインは7月20日からです。

今後、政府の要請に協力して売上が激減する中で資金のやりくりがつかなくなり、持ちこたえられなくなって倒産する店が急増することが予想されます。

この状況で、どこが「景気は悪くない」なのでしょうか。

菅総理は、自分の身は自分で守る「自助」が大切だと言いますが、まさに、今の私たちには自分の身を自分で守る「自助」しか生き抜くすべはないようです。(執筆者:経済ジャーナリスト 荻原 博子)

《荻原 博子》
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荻原 博子

執筆者:経済ジャーナリスト 荻原 博子 荻原 博子

経済ジャーナリスト 1954年生まれ。経済事務所勤務後、1982年からフリーの経済ジャーナリストとして、新聞・経済誌などに連載。女性では珍しく骨太な記事を書くことで話題となり、1988年、女性誌hanako(マガジンハウス)の創刊と同時に同誌で女性向けの経済・マネー記事を連載。難しい経済やお金の仕組みを、生活に根ざしてわかりやすく解説し、以降、経済だけでなくマネー分野の記事も数多く手がけ、ビジネスマンから主婦に至るまで幅広い層に支持されている。バブル崩壊直後からデフレの長期化を予想し、現金に徹した資産防衛、家計運営を提唱し続けている。新聞、雑誌等の連載やテレビのコメンテーターとしても活躍中。「私たちはなぜ貧しくなってしまったのか」(文藝春秋)「一生お金に困らないお金ベスト100」(ダイヤモンド社)など著書多数。 寄稿者にメッセージを送る

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