20歳から60歳まで一度も未納なく、公的年金(国民年金、厚生年金保険)の保険料を納付すると、満額の老齢基礎年金(2021年度は78万900円)が、国民年金から支給されます。
また厚生年金保険の加入者だった方に対しては、老齢基礎年金の上乗せとなる「老齢厚生年金」が、厚生年金保険から支給されます。
前者の老齢基礎年金を受給するには、公的年金の保険料を納付した期間、国民年金の保険料の納付を免除(学生納付特例、納付猶予を含む)された期間などを合わせた期間が最低でも、原則10年以上必要になります。
一方で後者の老齢厚生年金は、原則10年以上という老齢基礎年金の受給資格期間を満たしていれば、厚生年金保険の加入期間は1か月でも良いのです。
いずれの年金も支給が始まる年齢は、原則65歳になりますが、最大で60歳まで受給開始を繰上げ(前倒し)できます。
この繰上げ受給を選択すると、受給開始を1か月繰上げするごとに、65歳から受給できる本来の金額から、0.5%の割合で減っていきます。
そのため最大年齢の60歳まで、受給開始を繰上げした場合の減額率は、30%(0.5% × 12か月 × 5年)になります。
かなり減ってしまいますが、2022年4月以降は1か月あたりの減額率が0.4%に改正されるため、60歳まで受給開始を繰上げした場合の減額率は、24%(0.4% × 12か月 × 5年)まで下がるのです。
ただ1か月あたりの減額率が0.4%に下がるのは、1962年4月2日以降に生まれた方(改正後に60歳になる方)になります。
年金制度は生年月日が若くなるほど、損になる場合が多いのですが、このように繰上げ受給の減額率は、生年月日が若い方がお得になるのです。

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現在は報酬比例部分が引き上げされている
老齢基礎年金の支給が始まる年齢は、国民年金が発足した当初から原則65歳でした。
一方で老齢厚生年金の支給が始まる年齢は、厚生年金保険が発足した当初は55歳でした。
これを段階的に60歳まで引き上げ、完了後は再び法改正を実施し、65歳まで引き上げしたのです。
現在は65歳への段階的な引き上げが、実施されている最中のため、生年月日によっては60歳~64歳から、「特別支給の老齢厚生年金」を受給できるのです。
また特別支給の老齢厚生年金は、65歳になると老齢基礎年金に変わる「定額部分」と、65歳になると老齢厚生年金に変わる「報酬比例部分」の、2種類に分かれております。
ただ前者の定額部分の引き上げが先に始まり、すでに65歳への引き上げが完了しているため、現在受給できるのは原則として、報酬比例部分だけになります。
この報酬比例部分の支給が始まるのは、性別と生年月日によって、次のような年齢になっているのです。
60歳から報酬比例部分が支給される方
男性:1953年4月1日以前生まれ
女性:1958年4月1日以前生まれ
61歳から報酬比例部分が支給される方
男性:1953年4月2日~1955年4月1日生まれ
女性:1958年4月2日~1960年4月1日生まれ
62歳から報酬比例部分が支給される方
男性:1955年4月2日~1957年4月1日生まれ
女性:1960年4月2日~1962年4月1日生まれ
63歳から報酬比例部分が支給される方
男性:1957年4月2日~1959年4月1日生まれ
女性:1962年4月2日~1964年4月1日生まれ
64歳から報酬比例部分が支給される方
男性:1959年4月2日~1961年4月1日生まれ
女性:1964年4月2日~1966年4月1日生まれ
以上のようになりますが、生年月日がこれ以降になる方は、65歳への引き上げが完了する世代のため、報酬比例部分を受給できません。
また報酬比例部分を受給できる生年月日に該当しても、厚生年金保険の加入期間が1年未満だと、受給できない点に注意する必要があります。
報酬比例部分を受給できる方は減額率が下がる
例えば63歳から報酬比例部分を受給できる方が、受給開始を60歳まで繰上げした場合、本来より受給開始を3年繰上げしたので、これに適用される減額率は、18%(0.5% × 12か月 × 3年)になります。
一方で老齢基礎年金の支給が始まるのは、原則65歳になるため、受給開始を60歳まで繰上げした場合の減額率は、上記のように30%(0.5% × 12か月 × 5年)になります。
そのため65歳になるまでは、本来より18%減額した報酬比例部分と、本来より30%減額した老齢基礎年金を受給するのです。
また報酬比例部分に適用される減額率は、老齢厚生年金に対しても適用されるため、65歳以降は本来より18%減額した老齢厚生年金と、本来より30%減額した老齢基礎年金を受給するのです。
このように報酬比例部分を受給できる方については、老齢厚生年金に適用される減額率が下がるため、65歳への引き上げが完了する世代よりお得になります。
特に女性は65歳への引き上げ完了が、男性より先になるため、当面はお得な条件で繰上げ受給を利用できるのです。
なお報酬比例部分と老齢基礎年金は原則として、同時に繰上げする必要がありますが、報酬比例部分の支給が始まった後は、老齢基礎年金だけを繰上げできるのです。
このように繰上げ受給の選択肢が増えるという点でも、当面は女性の方がお得だと思います。

繰上げ受給を利用する際は職業による損得も考慮する
国家公務員、地方公務員、私立学校の教職員が加入する共済年金は2015年10月1日に、厚生年金保険に統合されました。
これにより原則65歳から受給できる老齢年金は、退職共済年金から老齢厚生年金に変わったのです。
また60歳~64歳から受給できる老齢年金は、特別支給の退職共済年金から特別支給の老齢厚生年金に変わったのです。
ただ65歳への段階的な引き上げを、男女共に同じようなスケジュールで実施するという、共済年金の独自ルールは、統合された後も引き継がれました。
つまり女性についても、男性と同じようなスケジュールで、65歳への引き上げが実施されるのです。
そのため国家公務員、地方公務員、私立学校の教職員だった女性が、繰上げ受給を利用する場合、当面は会社員だった女性より、損になってしまうのです。
ただ国家公務員、地方公務員、私立学校の教職員だった方には、統合前の期間を元にした「経過的職域加算額」が、繰上げした特別支給の老齢厚生年金に上乗せされる場合があるため、会社員だった方よりお得な面もあるのです。
実際に繰上げ受給を利用する際は、生年月日や性別だけでなく、こういった職業による損得も、考慮した方が良いと思います。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)