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消費税増税の布石「インボイス(適格請求書)制度」 日本の消費税の裏事情

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消費税増税の布石「インボイス(適格請求書)制度」 日本の消費税の裏事情

新型コロナの感染爆発で、日本の経済は、事実上ストップせざるをえない状況。

収入激減という人もいらっしゃることでしょう。

コロナが下火となっても、疲弊した経済が完全に立ち直るまでには、1年はかかると言われています。

そんな中、信じられないことですが、財務相は、着々と消費税増税への布石を打っています。

消費税増税への布石

「インボイス(適格請求書)制度」

10月から、「インボイス(適格請求書)制度」の事業者の登録申請がスタートします。

「インボイス」とは、消費税(付加価値税)の業者間のやりとりで、売り手が買い手に対して税率や消費税額などを正確に伝えるために作成する書類。ヨーロッパでは、普通に使われているものです。

これを、日本でも2年後の令和5年10月から本格的に導入するために、この10月から事業者の登録申請が始まります。

こう聞いても、単なる制度のバージョンアップのように思う人は多いのではないでしょうか。

けれどこの制度は、中小零細企業を消費税が絡む取引の場から追い出す破壊力を持った制度です。さらに、この「インボイス」の導入で、今後、消費税がヨーロッパ並みに上がっていくことが予想されます。

日本で消費税が導入されたのは、平成元年。なぜ30年以上経った今、ヨーロッパのような制度を導入するのかといえば、それは特異な日本の消費税の成り立ちに起因します。

透明な制度をつくれなかった、日本の消費税の裏事情

消費税は企業にもわたっている

消費税導入は、1970年代から大蔵省(現・財務相)で検討されていました。

けれど導入できなかったのは、事業者や消費者が大反対したためです。

大平内閣で導入を画策して失敗し、中曽根内閣では、当時、政界のジャンヌダルクと言われた日本社会党の土井たか子党首が、「ダメなものはダメ」と断固拒否。増税の目論見は失敗しました。

この2回の失敗を教訓に、大蔵省は、消費税率をスタート時点の消費税率を3%に下げただけでなく、多額の税金を中小事業者にばら撒くことで、平成元年、竹下内閣のもとで、なんとか消費税を成立させました。

「中小零細事業者の首を締める気か!」という声の中、こうした声をなだめるために、国は消費者から預かった消費税の一部を事業者が懐に収めていい制度をつくりました。これが「益税」と呼ばれるものです。

この「益税」は、初年度は、みんなが払った3.3兆円の消費税のうちなんと約2兆円もあったと記録されているのですから驚きます。

みなさんは、自分が払った消費税は、すべて国に納められているものと思っているでしょう。

けれど日本では、消費税導入にあたっては、消費税の一部を事業者が自分の懐に入れていいという制度をつくったために、払った税金がすべて国に収められないという不透明な仕組みになってしまい、それが現在に至っています。

今でも年間数千億円の消費税が、業者の懐へ

消費税が導入された時、政府は、年間売上げ3,000万円以下の業者は「免税」と言って、皆さんが支払った消費税を国に収めなくてもいいことにしました。つまり、全額自分のものとして懐に入れてもいい制度にしたのです。

さらに、売り上げ5億円以下の業者は、預かった消費税の一部が懐に入る仕組みにしました。

当時の会計検査院の調査では、簡易課税業者の約8割が、皆さんからもらった消費税の一部を合法的に懐に入れていた旨が記されています。

現在では、「免税」は1,000万円以下の業者、「簡易課税」は5,000万円以下になっていますが、それでも年間数千億円の消費税が、業者の懐に入っています。

ただ、このままでいくと、財務省にとって不都合なことが出てきます。それは、消費税が上がるたびに業者が懐に入れる「益税」が増えること。

今の不透明な制度の中では、消費税を複数税率にするのが難しく、消費税率をさらに引き上げていくことが難しい。

そこで、ヨーロッパのような透明性の高い「インボイス」を、日本にも導入することにしたのです。

この詳しい経緯については、文藝春秋社から発売中の「私たちはなぜこんなに貧しくなったのか」で詳しく書いているので、興味のある方は見てください。

「インボイス」で、ヨーロッパ並みの消費税の引き上げを目論む

インボイス制度

「インボイス」が導入されても「免税」は残りますが、免税を使うと「インボイス」の登録番号はもらえないので、親会社との取引ができなくなる可能性があります。

ですから、「免税」は残りますが、結果的には、中小零細業者は「インボイス」に移行しなくてはならなくなるでしょう。

「インボイス」になると、今までに比べて事務処理がかなり大変になってくるので、中小零細業者の中には廃業・破綻が進む可能性があります。

消費者は、「インボイス」で業者の懐に入る益税が減るのはよいことに思えますが、その代わり、複数税率で「食料品は8%です」などと言われながら、消費税はヨーロッパ並みに15%、20%と上げられていく怖さがあります。

もちろん、私たちが払った消費税が、すべて社会保障の充実に使われるなら、税率が上がってもしかたないと思う人もいることでしょう。

けれど、2017年の衆議院選挙で安倍首相が「今まで、増えた税収の8割は国の借金返済に使っていたので、この額を減らします」と言いました。大部分は、国の借金の穴埋めに使われているということです。

新型コロナで多くの人が苦しむ中、イギリスやドイツなど、世界24か国(すでに元に戻した国も含む)は、次々に「消費税(付加価値)」の減税を打ち出しました。

けれど日本だけは、コロナ禍直前に10%に上がった消費税を戻さないだけでなく、この先も着々と上げていく布石を打っています。

いっぽうで、国の予算は過去最大で使いたい放題。なんとも、やりきれない気がします。(執筆者:経済ジャーナリスト 荻原 博子)

《荻原 博子》
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荻原 博子

執筆者:経済ジャーナリスト 荻原 博子 荻原 博子

経済ジャーナリスト 1954年生まれ。経済事務所勤務後、1982年からフリーの経済ジャーナリストとして、新聞・経済誌などに連載。女性では珍しく骨太な記事を書くことで話題となり、1988年、女性誌hanako(マガジンハウス)の創刊と同時に同誌で女性向けの経済・マネー記事を連載。難しい経済やお金の仕組みを、生活に根ざしてわかりやすく解説し、以降、経済だけでなくマネー分野の記事も数多く手がけ、ビジネスマンから主婦に至るまで幅広い層に支持されている。バブル崩壊直後からデフレの長期化を予想し、現金に徹した資産防衛、家計運営を提唱し続けている。新聞、雑誌等の連載やテレビのコメンテーターとしても活躍中。「私たちはなぜ貧しくなってしまったのか」(文藝春秋)「一生お金に困らないお金ベスト100」(ダイヤモンド社)など著書多数。 寄稿者にメッセージを送る

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