2022年度の税制改正の目玉は、「賃上げ税制」。

 

中小企業が非正規従業員を含む全従業員の「給与総額」を前年度比2.5%以上増やせば、法人税額を最大40%控除できる(安くしてくれる)ようにする

 

というものです。

 

12月10日にまとめた2022年度の税制改正大綱に盛り込んだ内容ですが、それに先立つ6日、岸田首相は所信表明演説で「給料を引き上げた企業を支援するための税制を抜本的に強化します。

 

企業の税額控除を、「大胆に引き上げます」と力強く述べていました。

 

こう聞くと、なんだか本当に給料が上がりそうな気がして、うれしくなります。

 

実際に給料は上がるのかどうかを検証してみましょう。

先生に聞いてみよう

 

実際に計算すると、損する企業が多いかも…

 

仮に、従業員10人の企業があったとします。

 

社員に支払う給料は、1人年間360万円で総額3,600万円。

 

法人税を安くするには、この給料を2.5%上げなくてはならないので、

 

3,600万円×2.5%

 

で支払う給料を90万円増やせば「賃上げ税制」の恩恵を受けられます。

 

これでどれくらい税金が減るのでしょうか。

 

この企業が、その年に500万円ほど儲けたとします。

 

この場合、法人税率は15%(2019年4月1日以降の開業は19%)なので、

 

500万円×15%

 

で支払う法人税は75万円。

 

今回の「賃上げ税制」では、この法人税75万円に対して、40%を安くしてくれるということなので

 

90万円×40%

 

36万円の税金が安くなるということ。

 

つまりこのケースでは、支払う給料を年間90万円増やした会社は、法人税を36万円安くしてくれるということなので、納める税金は75万円ではなく75万円−36万円=32万円で済むということです。

 

現実的ではない「賃上げ税制」

 

前述のケースは単年度ですが、経営者は「いったん給料を上げたら、なかなか下げられない」と考えます。

 

前述のケースで言えば、年間90万円給料を上げることで1回だけ36万円の法人税を安くしてもらっても、次の年にあげた給料を下げられなかったら、法人税の恩恵なしにずっとアップした90万円の給料を払い続けなくてはならなくなるということです。

 

そう考えると、先行きが不透明な中で、「賃金を上げる」という選択をする経営者が、どれほどいるでしょうか。

 

しかも、多くの企業は、法人税そのものを支払っていません。

 

国税庁が2021年3月に公表した「国税庁統計法人税表」によれば、65.4%の企業は赤字で、法人税を払っていません

 

その後、コロナの影響で、その割合はさらに増えていると思われます。

 

日本では会社の7割が赤字で、赤字の会社はそもそも法人税など払っていませんから、給料を上げたら法人税を安くするという「賃上げ税制」とは、7割の企業には無関係ということです。

 

「給与総額」なら、賃金が減るケースも想定される

 

この税制には、隠れたデメリットも考えられます。

 

「賃上げ税制」の対象となるのは、あくまで「賃金総額」です。

 

すでに日本の企業では多くのところで年功序列が崩れ、能力主義の賃金体系を取り入れるところが増えています。

 

「賃金総額」を対象としたら、前述の10人の企業で、

 

  • やめてほしくない人材2人には360万円だった給料を460万円にアップ
  • 必要ない人材2人は300万円に下げる
  • その他の6人の給料はいままでどおり360万円

 

ということにしても、増額は2.5%以上増えます。

 

欲しい人材とそうでない人材の給与格差が進む可能性があるということです。

 

格差が生まれる可能性

 

「賃上げ税制」は、安倍政権下で2013年から始まりましたが、8年経っても給料が上がったという実感が持てなかったのは、「賃上げ税制」自体が机上の空論だったからでしょう。

 

コロナが一段落する中で、景気回復を見込んだ求人が増えていて、一部の賃金が上昇しています。

 

マツダ自動車は、期間制労働者を約350人増やし、基本給も9%引き上げて日給8,770円にするといいます。

 

外食業界でも、「マイナビ」によれば、10月は平均時給が2%上がったそうです。

 

賃金を上げるのは、政府ではなくマーケット。そのマーケットをどうやって活気付かせるか。

 

景気さえ良くなれば、人手不足で自然と賃金は上がっていきます。

 

安倍政権以来、失敗し続けた官主導の賃上げ要請を、多少バージョンアップしても無駄という気がします。

 

早く「新しい資本主義」に脱皮していただきたいものです。(執筆者:経済ジャーナリスト 荻原 博子)