2022年1月1日から、雇用保険においてマルチジョブホルダー制度が始まりました。

この制度は、ダブルワーク等をしている方の雇用保険加入の促進を進める社会保険制度です。

1社での労働時間は短くても、2社であれば雇用保険に加入できる要件に達することを可能にしたものです。

そこで、このマルチジョブホルダー制度について解説いたします。

ダブルワークがんばっててよかった!

雇用保険加入の要件

雇用保険加入の要件は、下記の2つです。

(1) 1週の労働時間が20時間以上

(2) 31日以上の雇用が見込まれること

この1週20時間以上という要件が厳しくて、なかなか加入させてくれないと嘆いているパートの方が多いのが現状です。

ただし、この加入要件は実際の労働時間で確認しますので、いくら雇用契約で週20時間未満であっても、現実は何か月も週20時間以上働いていれば、当然に加入要件を満たしたことになります。

ダブルワークの場合の雇用保険加入

現在パートやアルバイトの方で、ダブルワークをしている方は多いものです。

それぞれの会社が加入要件である20時間未満の場合は加入できませんが、1社が20時時間以上であればその会社で雇用保険には加入できます

雇用保険被保険者証

2社とも20時間以上働いている場合

ただし気を付けていただきたいのは、2社とも20時間以上働いている場合です。

2社ともに雇用保険に加入できますが、どちらで加入すべきでしょうか。

一見すると2社ともに要件を満たしているので、両方で加入できると考えるかもしれませんが、原則は1社だけです。

後から加入申請をした会社は、「既に加入しているから」と加入を拒否されます。

ですから2つの会社で20時間以上働いている場合は、必ず後から入社した会社に既に雇用保険に加入していることを伝えておきましょう。

後から入社した会社の方が給与が高い場合

また、問題となるケースもあります。

例えば

A社:週22時間、給与9万円

B社:週20時間、給与10万円

このケースの場合は、最初にA社に入社して週20時間以上なので雇用保険に加入します。

その後、B社に入社して同じように週20時間以上働きます。

本来は既に雇用保険に加入しているので、B社では加入できません。

多くの方はここでA社のままにされていますが、ダブルワークの場合、雇用保険の加入の原則は労働時間の多いほうではなく、給与の高いほうなのです。

したがって、A社は労働時間が長いのですが、給与はB社が高いので、B社への加入変更が可能です。

給与が高い分、当然失業手当も高くなりますので、労働者のことを考えれば当然です。

しかし、A社としては、せっかく加入させたのにまた申請をして資格喪失の手続きをしなければならないので、嫌がるかもしれません。

その場合は、A社の資格喪失届とB社の資格取得届をそれぞれ会社に書いてもらって、本人がハローワークに持参することも可能です。

資格喪失と資格取得は同時に届け出が可能です。

マルチジョブホルダー制度について

雇用保険のマルチジョブホルダー制度は、複数の事業所で勤務する65歳以上の労働者が、そのうち2つの事業所での勤務を合計して以下の要件を満たす場合に、本人からハローワークに申出を行うことで、申出を行った日から特例的に雇用保険の被保険者(マルチ高年齢被保険者)となれる制度です。

適用要件

・ 複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること

・ 2つの事業所(1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上であること

・ 2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であること

参照:厚生労働省「マルチジョブホルダー制度について

手続きは本人が行う

マルチジョブホルダー制度は、65歳以上の高齢者を対象とした社会保障の一環です。

高齢者の場合、なかなか仕事に恵まれず、また労働時間も短いのが現状です。

本来であればダブルワークをして2社とも労働時間が週20時間未満であれば、雇用保険に加入できません。

しかしこの制度ができたため、2社で20時間以上あれば雇用保険に加入できるのです。

この制度を利用しない手はありません。

今、ダブルワークをしていて1社では週20時間以上にならないため雇用保険に加入できなかった方は、すぐにハローワークで手続きをしてください。

この手続きは、会社が行うのではなく本人が住所地のハローワークで行うことになります。

まずは手続に必要な証明(雇用の事実や所定労働時間など)は、本人が事業主に記載を依頼して、適用を受ける2社についての必要な書類をそろえてハローワークに申し出ます。

必要書類は、ハローワークで確認をしてください。

ハローワーク

雇用保険に入っていれば失業や介護の際の支えとなる

雇用保険の重要なポイントは、失業した時と介護で休業した時の給付金です。

65歳以上で失業した時は、一時金の給付となりますがうれしいものです。

さらに老々介護と言われて久しいのですが、親の介護で会社をしばらく(最大93日まで)休業するときには、お給料はもらえませんが介護休業給付金が支給されます。

この時に会社から「休むのであれば辞めてくれ」と言われたら、育児介護休業法違反ですので覚えておきましょう。

今回の制度は、働く65歳以上の高齢者にとって非常に有効な制度ですので、ぜひ活用してください。(執筆者:特定社会保険労務士、1級FP技能士 菅田 芳恵)