※本サイトは一部アフィリエイトプログラムを利用しています

注目記事

不動産を有効活用するための「権利のお掃除」のススメ 休眠仮登記や休眠抵当権があると起こる問題

ライフ 住宅
不動産を有効活用するための「権利のお掃除」のススメ 休眠仮登記や休眠抵当権があると起こる問題

不動産を日常使っていても、その登記簿を見て、記載している内容に気を留める人は少ないかもしれません。

しかし、もし何かの機会に自分が所有か、利用している不動産の登記簿にかなり昔に付けられた仮登記や抵当権、いわゆる「休眠仮登記」や「休眠抵当権」がある場合に、もしかしたらやっかいな問題になるかもしれません。

休眠仮登記や休眠抵当権 あると起こる問題

仮登記や抵当権とは?

「仮登記」とは所有権移転仮登記など、その字の通り、正式に登記をする前の「仮」で行われる登記です。

仮で行なわれた理由によって法律上区分され、105条の「1号登記」とか「2号登記」の種類がありますが、どちらも正式な登記ができない理由があるので、仮となっているものであります。

もちろん本登記よりは弱い権利であるので、第三者に対抗できないですが、本登記に移行した場合に登記順位を保全でき、また登録免許税が安いので子供っぽい例えですが「物件につばをつけておく」にはぴったりな方法と言えます。

「抵当権」とは、不動産を担保にお金を借りたときに、その不動産に貸主が設定するもので、お金を返してくれない場合には競売などをして弁済を受ける権利です。

住宅ローンなどを利用する場合、必ずといっていいほどこの抵当権が設定されており、現金で一括購入するような例外を除き、ほとんどのマイホームにはこの抵当権がついています。

休眠仮登記や休眠抵当権の問題点とは?

仮登記も抵当権もそれが登記簿についていても日常利用上で何ら問題になることはありません。

しかし仮登記に関しては、本登記に移行した場合に登記順位を保全できるという特性があるため、仮登記付きで売買され所有権の移転登記がされたとしても、仮登記権者が本登記になった場合に、その人に所有権が移ってしまいます

そのように考えると、仮登記付きで売買するということは、買い手にとってはいつ自分のものが取られてしまうかもしれないというリスクを孕んでいるため買わない方がいいという判断になります。

つまり売り手にとっては売れない物件になってしまうのです。

抵当権もそれがあっても利用上何ら障害はないし、ローンの支払いが終われば、貸主は弁済を受ける権利はなくなるはずです。

ただし、この抵当権はローンを支払い終えたとしても登記簿から消滅するものではありません

よって、貸主と借主の当事者間では、確かに返済し終えたことをお互い認識していて、覚えていたとしても、それを第三者に知らしめるためには、抵当権の抹消を債務者自らが行わなくてはならないのです。

第三者、つまりこの不動産の購入をしようとする人が、登記簿を見ると抵当権が設定されたままだと、借金を返し終えているのか否かがわからず、不動産を購入しても競売にかけられるかも、という自分のものが取られてしまうかもしれないという仮登記と似たリスクがあるため、はやり買わない方がいいと判断になるのです。

このように仮登記や抵当権は取引を制限するものであるので、まだ「生きている」ものであれば、当事者間で連絡を取り、抹消もできます。

問題なのは、休眠状態、つまり長い間放置してしまって、当人も利害関係者も、その設定した理由や内容が分からなくなって、当事者間で連絡が取れない状態になっているものです。

「そんな古い話、無視すればいいのでは?」と思われる人もいますが、登記そのものは時効という概念がないので、抹消しない限り、その権利は永遠に引きつがれます。

このように、いわば不発弾のように、何かあったら暴発する怖さがあるのが休眠仮登記や休眠抵当権であるといえます。

相続や有効活用でも注意が必要

仮登記や抵当権は売買などの取引において問題になると説明しました。

「しかし自分は親からの資産を相続で引き継ぐ予定だけど、売買をするわけでもないから関係ないのでは?」と考える人もいると思います。

親から子供などの親族間に資産の所有権が移ることは、相続や贈与などだから他人に売る売買とは違うと思われがちです。

しかし、相続であっても、所有権が移る場合には、その権利とともに義務が移ります。登記の抹消はいわば義務なので、親の問題であっても子供に引き継がれ、さらに孫の代になってもなくなることなく引き継がれます

義務と言えば、所有者不明土地問題の解決を目的に「相続登記の義務化」が2022年4月からスタートします。

今までは相続税もかからないのでそのままにしておいた家の登記簿なども、相続が発生すれば登記をせざるを得なくなります。その時にこのような仮登記や休眠抵当権があると、必要以上に時間と手間がかかるのです。

長い間放置した場合、権利者同士に連絡がつく状態ならば、抹消手続きもスムーズにいくかもしれません。

しかし、個人であれば高齢化や死亡などで資料が無くなることが考えられます。さらに銀行などがよい例ですが、法人であっても何十年もの間に企業名が変わることや合併や解散などで元の会社がなくなってしまうことも大いに考えられます。

このように長期であればあるほど問題は複雑化するのです。

また、最近注目の有効活用として、リバースモーゲージや家族信託があります。これらのスキームは物件の価値に以上に登記簿の権利関係がきれいであることが求められます。

リバースモーゲージなら、基本的には第一順位に抵当権を設定するのが普通なので、抹消されていない抵当権があるとせっかくの担保価値が高い物件であっても、いわば「書類審査」の段階で落ちてしまうでしょう。

このように売買はもちろん、相続や有効活用でも長年放置した仮登記や抵当権はネックになるものなのです。

仮登記や抵当権の抹消の手順や費用は?

仮登記や抵当権の抹消の手順や費用

不動産登記は登記権利者と登記義務者が共同で申請することを原則としています。休眠登記であっても当事者に連絡がすんなり取れて、関係書類がすぐに手に入り、書類上のやり取りで終わる場合には、数万円ですみます。

問題は例えば義務者が休眠会社となり、実態がない場合、単独登記でも例外的に認められますが、それには裁判所に訴訟を提起して抹消登記を求める判決をもらわなくてはなりません。

この場合には休眠会社の代理人をつけるというややこしい法的な手続きも必要となってくるので、弁護士さんの出番となり、その分コストも嵩み数万円では終わらず、数十万円になってしまいます。

また休眠期間や当事者の確認の難しさで手間が違いその分余計な費用がかかることも予想されます。

コストがかかっても効果絶大

休眠仮登記や休眠抵当権に加え、休眠仮差押でもいえることですが、これらが登記簿に残っていることは日常利用上で問題なくても、かならず将来時点に懸案事項となりえます。

それには一定のコストがかかりますが、その効果は絶大です。

屋根や壁などの外観をきれいにするとか、内装をきれいに見せるホームステージングで不動産の価値を上げるという考え方もありますが、同じコストをかけるなら、権利関係を表す登記簿をスッキリきれいにすることは、それ以上の効果があることを知って頂ければと思います。

《田井 能久》
この記事は役に立ちましたか?
+2

関連タグ

田井 能久

執筆者:不動産鑑定士 田井 能久 田井 能久

株式会社 タイ・バリュエーション・サービシーズ 代表取締役/専任不動産鑑定士 大学卒業後、国内最大手の不動産鑑定事務所に勤務し、1995年に不動産鑑定士資格を取得。その後、米国系不動産投資ファンドに転職し、資産評価業務を担当。全国各地でさまざまな物件の現地調査と価格査定を行った。2006年に独立し、株式会社タイ・バリュエーション・サービシーズ(http://www.valuation.co.jp/)を設立。1,000件以上の評価実績を有し特に相続や訴訟に関連する案件を得意とする。海外事業では滞在型余暇を楽しむ人に助言する「ロングステイアドバイザー」業務を行い、2015年にマレーシアの企業と業務提携開始。MM2H取得アドバイス業務や海外不動産投資アドバイスを行い(https://malaysia-longstay.com/)自身も2018年にMM2Hを取得。元愛知大学非常勤講師で現在セミナー活動もしながら各種WEBメディアに記事提供を行う。 <保有資格>:不動産鑑定士 寄稿者にメッセージを送る

今、あなたにおススメの記事

特集