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2023年度から「年金受給の繰下げ」を途中で止めても不利になりにくい 「特例的な繰下げみなし増額制度」について解説

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2023年度から「年金受給の繰下げ」を途中で止めても不利になりにくい 「特例的な繰下げみなし増額制度」について解説

週刊誌などの報道によると、昨年の参議院選挙で初当選した芸能人の方が、約313万円もの国民年金の保険料を未納にしていたそうです。

国民年金に加入して保険料を納付するのは原則として、20歳から60歳までの40年間になります。

未納問題が話題になった芸能人の方は70代なので、国民年金に加入する年齢の上限から、すでに10年以上が経過しているのです。

こういった点から考えると未納問題は、何も解決せずに終わっていく可能性が高いと思います。

国民年金の保険料の徴収権には、納期限(原則として対象月の翌月末日)の翌日から2年という時効があります。

この時効を過ぎると日本年金機構が、国民年金の保険料を徴収できなくなると共に、未納者が納付したいと思っても納付できなくなるためです。

日本年金機構から督促状が送付されと、時効のカウントダウンが振り出しに戻るため、納期限の翌日から2年が経過しても、まだ保険料を徴収できます。

ただ昔は保険料の徴収が厳しくなかったので、督促状を送付していなかった可能性があります。

このように公的年金の保険料の徴収権には、2年という時効があるだけでなく、公的年金の支給を受ける権利には、5年という時効があります。

これを過ぎてしまうと、受給できない年金が発生する可能性があるため、もらい忘れになっている年金の存在に気が付いたら、できるだけ早めに手続きを行った方が良いのです。

特例的な繰下げみなし増額制度

2022年度からは75歳まで年金受給を繰下げできる

公的年金の保険料の納付済期間や、国民年金の保険料の免除期間などの合計が、原則10年以上ある方が65歳になると、国民年金から老齢基礎年金が支給されます。

この老齢基礎年金を受給できる方のうち、厚生年金保険の加入期間が1か月以上ある方が65歳になると、老齢基礎年金の上乗せとなる老齢厚生年金が、厚生年金保険から支給されます。

現在は60歳だった老齢厚生年金の支給開始年齢を、段階的に65歳へ引き上げしている最中なのです。

そのため老齢基礎年金の受給資格を満たし、かつ厚生年金保険の加入期間が1年以上ある方には、性別や生年月日によって62~64歳から、特別支給の老齢厚生年金が支給されます。

これらの3つの年金のうち、65歳から支給される老齢基礎年金と老齢厚生年金は、年金受給を1か月繰下げするごとに、0.7%の割合で金額が増えていくのです。

繰下げできる年齢の上限は、従来は70歳だったので、最大の増額率は42%(0.7%×5年×12か月)でした。

これが2022年度からは、1952年4月2日以降生まれであれば、75歳まで繰下げできるようになったので、最大の増額率は84%(0.7%×10年×12か月)に変わったのです。

なお繰下げによって増額した年金を受給できるのは、66歳からになるため、最低でも1年は繰下げする必要があるのですが、これ以降であれば受給開始のタイミングを自由に選択できます。

時効により過去5年より前の年金は一括受給できない

例えば75歳まで年金受給を繰下げする予定だったけれども、急な病気で働くのが難しくなったので、71歳の時に繰下げを止めて、老齢基礎年金や老齢厚生年金の受給を始めようと思った方がいたとします。

こういったケースでは、次のような二つの選択肢の中から、希望するものを選択できるのです。

(1)繰下げして増額した年金を受給する

71歳まで年金受給を繰下げし、この時点で繰下げの申出を行った場合、増額率は50.4%(0.7%×6年×12か月)になります。

この水準まで増額した老齢基礎年金や老齢厚生年金を、71歳から受給するという選択肢があります。

(2)過去の年金を一括受給する

繰下げの申出をしないで、過去の分の老齢基礎年金や老齢厚生年金を、一括受給するという選択肢もあるのです。

こちらを選択すると50.4%の増額はなくなりますが、71歳の時にまとまった現金を手にできるため、入院費用などに活用できます。

以上のようになりますが、冒頭で紹介したように、公的年金の支給を受ける権利には、5年という時効があります。

そのため(2)を選択して、71歳の時に過去の年金を一括受給した場合、遡れるのは5年前までになります。

結果として過去5年より前に支給されるはずだった、65~66歳までの老齢基礎年金や老齢厚生年金を、受給できなくなってしまうのです。

2023年度から始まる「特例的な繰下げみなし増額制度」

2023年度からは75歳までの繰下げを利用しやすくするため、特例的な繰下げみなし増額制度が始まります。

この制度の特徴としては、70歳に到達した後に(2)を選択した場合、年金請求の5年前の日に繰下げの申出があったとみなし、増額した老齢基礎年金や老齢厚生年金を一括受給できるというものです。

例えば71歳の時に(2)を選択した場合、5年前の66歳の時に、繰下げの申出があったとみなします。

そのため65歳から66歳までの1年間の繰下げにより、8.4%(0.7%×1年×12か月)増額した5年分の老齢基礎年金や老齢厚生年金を、71歳の時に一括受給できるのです。

また71歳以降は8.4%増額した老齢基礎年金や老齢厚生年金を、生涯に渡って受給していきます。

このような特徴のある特例的な繰下げみなし増額制度の対象になるのは、次のいずれかの要件を満たす方になります。


・1952年4月2日以降生まれの方(2023年3月31日時点で71歳未満の方)

・老齢基礎年金や老齢厚生年金の受給権を取得した日が、2017年4月1日以降の方(2023年3月31日の時点で、これらの年金の受給権を取得した日から、6年が経過していない方)


「特例的な繰下げみなし増額制度」が適用されないケース

・ 年金請求の5年前の日以前から、遺族年金や障害年金を受け取る権利がある場合

・ 80歳以降に老齢基礎年金や老齢厚生年金を請求する場合

特例的な繰下げみなし増額制度は適用されません

年金を一括受給すると税金などで不利になる

特例的な繰下げみなし増額制度の開始により、年金受給の繰下げを途中で止めて一括受給しても、不利になりにくくなったのですが、不利な点がなくなったわけではないのです。

例えば一括受給した老齢基礎年金や老齢厚生年金は、振り込まれた年の所得になるのではなく、もともと支給される予定だった、各年の所得になります。

そのため各年の所得が増加するため、過去5年分の確定申告が必要になったり、過去5年内に実施した確定申告の、修正申告が必要になったりするのです。

また所得の増加によって、国民健康保険や介護保険などの保険料、所得税や住民税などの税金が増えた場合には、その分が追加で徴収されます。

税金に関しては繰下げした分だけ、本来よりも納税するのが遅いため、延滞税を徴収される場合があるようです。

こういった不利な点に納得できない方は、特例的な繰下げみなし増額制度が開始された後も、(1)を選択した方が良いと思います。

《木村 公司》
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執筆者:社会保険労務士 木村 公司 木村 公司

1975年生まれ。大学卒業後地元のドラッグストアーのチェーン店に就職。その時に薬剤師や社会福祉士の同僚から、資格を活用して働くことの意義を学び、一念発起して社会保険労務士の資格を取得。その後は社会保険労務士事務所や一般企業の人事総務部に転職して、給与計算や社会保険事務の実務を学ぶ。現在は自分年金評論家の「FPきむ」として、年金や保険などをテーマした執筆活動を行なう。 【保有資格】社会保険労務士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、DCプランナー2級、年金アドバイザー2級、証券外務員二種、ビジネス実務法務検定2級、メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅱ種 寄稿者にメッセージを送る

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