黒田日銀による4月4日の「異次元金融緩和策」発表以来、金融市場、株式市場とも落ち着かない状態が続いています。長期金利は、過去最低を記録したかと思えば、その後、日銀の意図に反して上昇に転じました。そのため、5月の住宅ローンの長期金利は上昇、その流れは5月も続いており、6月の住宅ローン金利についても10年固定金利選択型においては、0.2%程度の金利上昇が大手行で決まったようです。
為替については、1ドル、100~103円の間で、時には1円以上の幅で激しく動いております。そして株価についても、ずっと上昇トレンドでしたが、5月23日に約1,500円近く大暴落し、さらに5月30日には、それに引き続き、今年2番目の暴落幅となりました。
外部要因(バーナンキ・ショック、中国統計の悪化、ヘッジファンドの利益確定売り)・内部要因(アベノミクスの悪影響)など、さまざま語られております。
より実情がわかる「実質金利」とは?
今回は、状況判断をするうえでの“実質金利”に注目してみたいと思います。通常、「金利が上がった、下がった」と語られるのは、“名目金利”のことがほとんどでしょう。今回の長期金利の上昇の件も“名目金利”のことをいっています。
では、“実質金利”とはどういったものでしょうか?
“実質金利”は、よくフィッシャー方程式と呼ばれる下記の式で示されます。
実質金利=名目金利-期待(予想)インフレ率・・・フィッシャー方程式
注)期待(予想)インフレ率と実際のインフレ率は異なります。
本質的には、実際のインフレ率を使うのが実質金利なのでしょうが、
実際のインフレ率は結果でしかわからないため、
「人々が思い描く将来のインフレ率の予測」である期待(予想)インフレ率を
使うのだと判断しました。
具体例でお話しますと、
融資額2000万円を金融機関から借りて、土地を購入、1年後にその土地を売却して
現金化すると、2040万円で売却でき、融資利息20万円を支払っても、
20万円得をするということになります。
(あくまでコストや税金等は無視し、流動性リスクゼロとした場合です)
この場合、先の式にあてはめますと、
名目金利1%-期待(予想)インフレ率2%=実質金利-1%となり、実質金利がマイナス金利になるため、結果得となるのです。このように“実質金利”のほうが、実情をあらわしているともいえるのです。
内閣府の資料によれば、主要国の実質金利の推移は下図のようになっております。
これをみてみますと、2009年半ば以降、日本は実質金利においては、主要国の中では一番金利が高いことがわかります。実質金利で考えれば、円高がずっと続いていたことは、自然なことだったのです。
では、最近の“実質金利”はどうなっているのでしょうか?
ここで厄介なことがでてきます。実質金利を求める際の期待(予想)インフレ率は、先の注意書きでも述べたとおり、「人々が思い描く将来のインフレ率の予測」であるため、即時、正確な数字を算出となると、なかなか難しいものなのです。賛否ありますが、ここでは、ブレークイーブン・インフレ率を使うことにします。
*ブレークイーブン・インフレ率とは、
償還期限の同じ普通国債の名目利回りから物価連動国債の利回りを差し引いた値のこと。
2013年4月末時点では、10年物国債利回り(名目金利)が0.6%程度、ブレークイーブン・インフレ率が1.5%程度であり、実質金利では、マイナス0.9%程度という計算になります。(5月末現在では、もう少し下がっていると予想されます)こうみると、最近の円安傾向も以前の実質金利と比較すれば、頷けます。
皆様も、ここ最近の“名目金利”の上昇ばかりに混乱させられるのではなく、“実質金利”で考えてみてはどうでしょうか。
住宅ローンも実質金利で考えてみる
住宅ローン金利でいえば、
実質住宅ローン金利=(諸経費を考慮に入れた住宅ローン金利)-(インフレ率)―(賃金上昇率-インフレ率)
となるのではないでしょうか。注意点としては、諸経費(コスト)を考慮することと、インフレ率、賃金上昇率はマクロ的なものを使うのではなく、ご自身のケースで具体的に当てはめてください。
今のところは、まだ実感できない方のほうが多いと思いますが、景気が良くなり、いい意味のインフレが起これば、“名目金利”の上昇は、それほど恐れることはないかもしれません。(恐れるのは、悪いインフレが起きたときです)考え方や状況は、個人個人さまざまです。世の中の風潮に流されず、個別に判断するようにしてください!!