今年も余すところあと一か月となりましたので、この一年間の生命保険業界や新商品を振り返ってみようと思います。
まず、乗合保険代理店や保険ショップにとって、一大事となったことは、17年ぶりの大改正となった「保険業法」の施行が再来年に控えていることでしょう。今後、金融庁の求める体制整備をしていかない限り、保険ショップや保険代理店は生き残っていくことができません。
一説によれば数年以内に保険ショップや保険代理店の数は現在の5分の一以下まで減るのではないかとも言われています。当然消費者にも良くも悪くも影響ある話です。また保険を語っているFPや経済評論家等で保険募集人の資格ない人がいますが、今後どこまで生命保険や損害保険の商品説明や解説、具体的コンサルティングができるかも疑問が残るところです。
改正保険業法については、ここでは詳しくは述べませんが、ご興味ある方はこちらのリンク先の資料等をお読みください。(「保険業法等の一部を改正する法律の概要」平成26年5月23日成立/5月30日公布(金融庁HP))
また、この法律の背景については、週刊ダイアモンド誌がずっと記事を追いかけていたので、週刊ダイアモンドの記事アーカイブか、インターネットで「委託型募集人」や「委任型募集人」で検索されると関連記事がずらりとでてきますので、そちらをどうぞ。(「改正保険業法の中身が判明 代理店を襲う淘汰の波」週刊ダイアモンド)
それでは、今回は生命保険商品について今年を概観してみたいと思います。
目次
医療保険やがん保険について 今年は「医療保険戦争」に
まず第三分野商品(医療保険やがん保険)から。昨年半ばから今年の秋にかけて医療保険大手から商品改定や新商品のリリースが相次ぎ、今年は「医療保険戦争」の感がありました。
特に売れ筋商品の特長としては、がんや脳血管疾患、心疾患等の特定疾病による入院の場合、医療保険特有の「日型」による入院給付金上限日数を撤廃し、入院日数無制限としたことです。
また、がん保障の充実により、がん診断一時金特約だけでなく、抗がん剤や放射線治療のような通院治療にも対応したがん通院特約が発売されました。これらにより、単体のがん保険の存在価値がほぼなくなったと言っても過言ではないでしょう。医療保険とがん保険を別々に加入するのではなく、がん保障を充実させた新しい医療保険に加入することで保障性が上がるだけでなく、コストも落とすことができるからです。
一方で単体のがん保険のほうでは、新商品のリリースはありませんでした。AIG富士生命の優良がん保険だった「がんベストゴールド」が約3年間の短い販売期間で終了し、がん保険の歴史に終止符を打った感さえあります。
今後単体のがん保険の存在意義は、医療保険に加入制限がついたり、加入できない方を対象としていくしかなく、また今後の商品開発としては「緩和型がん保険」のマーケティングが期待されます(現在一社のみ発売)。汎用告知書の「がん告知」項目を今年撤廃した会社もあり、今後はそちらの方面での市場開発が進めらて行くのではないでしょうか。
死亡保険、養老保険、年金保険について
次は第一分野商品(死亡保険、養老保険、年金保険)です。こちらのほうは、昨年の予定利率改定により円建て貯蓄系商品の商品性が総じて落ちましたが、各社なりにそれ以外のところで工夫をこらしてきました。
例えば、収入保障保険や終身保険で介護保障を加えたことです。通常、死亡や高度障害時でないと保険金請求できませんが、要介護と認定された場合に保険金請求できる商品が増えてきました。要介護2以上で対象となる商品もあれば、要介護4以上でないと駄目な商品もあります。但し、要介護保障は定期系保険商品ではなく、終身系保険商品に付けるのが理にかなっています。
養老保険については、10年程度の保険期間であれば、「満期保険金額」<「生命保険料累計」となってしまう「保険料逆転現象」が現在発生しており、商品性に問題が生じてしまっています。保険会社によっては商品販売を停止したところもありました。
養老保険の一種である学資保険も現在数社しかリターンがプラスになりませんが、どの会社も運用だけでは無理で販促費を投入してプラスにしています。例えば、ソニー生命は学資保険に3タイプありましたが(無配当)、金融情勢の低迷から今年10月に2タイプを販売停止しています。今後も現在の低金利が続くようだと、学資保険自体の商品存在が危ぶまれかねない状況です。
かと言って、現在の普通預金や定期預金の金利では、設計によっては120%程度のリターンを得られる学資保険には敵いません。私の試算では20年程度の期間でお金を普通預金や定期預金で学資保険並みに殖やすためには、平均金利が1%ないと実現できませんでした。
ちなみに銀行預金の利息には20%の源泉分離課税がかかりますが、学資保険は生命保険料控除に該当しますので、所得税や住民税の軽減に寄与できます。また、保険金額を過大にしない限り、満期金受け取りの際の一時所得(所得税)も実質的には非課税となるでしょう。
個人年金保険も次第に厳しくなってきました。例えば東京海上日動あんしん生命の個人年金保険ですが、積立期間を最長45年間で設計でき、その場合に設計によってはリターンを200%近くにすることができましたが、この10月に改定が入り、35年間が最長となってしまいました。最大リターンも170%台まで落ちています。
外貨建て保険や変額保険の特定保険について
次に外貨建て保険や変額保険の特定保険分野です。通常、円安期は外貨建て商品を買う時期ではありませんが、円安トレンドが長期化していますので、そろそろ買い時期にきたかなといった感があります。
但し、円転時の為替リスクを管理するため、一時払いで購入し、市場価格調整を睨み、適当な時期に解約益を得るのが良いでしょう。ドルコスト平均法は毎月いくらでドルを買ってるかの管理ができなければ絵に描いた餅ですので、為替レートを確定できる一時払いでの購入を勧めます。
解約タイミングとしては、1) 解約時の利率が契約時の利率より低くなっているか、2) 解約時の為替レートが契約時のそれと比較して円安になっているか、3) 1)と2)の両方、のいずれかであれば検討価値ありです。
市場価格調整率の公式は各社のカタログや約款に記載されていますから、エクセル等の表計算ソフトを用いて公式を入力し、日々の為替レートを入力すれば、現時点で解約益が円ベースでいくらでているかすぐ分かるようにしておけばいいでしょう。
変額保険については、保険会社の負担が大きい商品で、昨年にも変額保険を長年扱ってきた会社が販売停止しました。こちらの商品は確定拠出年金のポートフォリオ管理と一緒ですが、現在のような株高基調のときは特定の特別勘定一本買いのような買い方も良いと思います。
次回は損害保険の今年を振り返りたいと思います。(執筆者:伊藤 克己)