今年も確定申告のシーズンが始まった。確定申告書提出期間は毎年2月中旬~3月中旬であるので、2月に入り所得税確定申告書の作成にそろそろ取り掛かろうか! という方々が私の周辺でも増えてきている。
ただし、「マネーの達人」の読者の多くは会社員や公務員であると思われるので、過去に住宅ローン控除(※)の適用を受けたことがある人以外は、確定申告をした経験がなく勤務先の年末調整で税務申告手続きが完了するケースがほとんどかもしれない。確定申告を一度も経験せずに、現役時代を過ごすということは、ある意味不幸なことかもしれない。
たとえ現役時代は確定申告にまったく縁がなかったとしても、リタイヤ後、年金受給世帯になれば、原則として自分自身で確定申告を行う必要があるので、今のうちから確定申告制度について理解を深め、本コラムで話題にする「医療費控除」等で税金還付を受けられる可能性が高い場合は、積極的に確定申告手続きをされることをお勧めする。
※住宅ローン控除とは、住宅を購入する際(もしくは増改築する際)、その資金手当てとして金融機関等からの借入金が発生した場合、その借入金の年末残高と居住年の控除率に応じて、税金を減額してくれる、持家の取得を促進するための優遇税制のことである。
目次
「医療費控除」は受けなければ損
「医療費控除」は、一般のサラリーマン世帯にとっておおいに関わりがありそうなテーマだ。「マネーの達人」では、すでにFPや専門家の方々が医療費控除の仕組みや具体的な手続き、さらには事例の紹介・説明が十分になされているので、制度や手続きの詳細については割愛をする。
ただ、家族をお持ちの世帯主の方は、同居家族が夫婦だけであろうと、お子さんがいる家庭であろうとなかろうと、必ず医療費に関する領収書やレシートを保管する習慣を持とう!
医療費控除の対象にならない美容・審美関連の治療費もあり、控除対象になるかどうかの判断が難しい場合もあるが、とりあえず支払った際の領収書は捨てずに取っておくことが大切だ。
尚、年間の医療費の支払額(医療機関の窓口で支払った自己負担分や、治療のための薬代等)が年間10万円を超えないと医療費控除は受けられないのでは? と誤解されている人もいるかもしれないので、控除対象となる医療費の金額基準について、簡単に説明しておこう。
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控除対象となる医療費の金額基準について
給与収入のみでおおむね320万円程度以上を受け取っている世帯は、年間10万円以上の医療費の支払いがあれば医療費控除が受けられるのだが、それ以下の給与収入の世帯(給与所得控除後の所得金額が200万円未満の世帯)は所得金額に応じてその5%の金額を超える医療費であれば、医療費控除が受けられる。
要するに、年間10万円未満の医療費の支払いであっても、給与収入がおおむね300万円前後以下(給与所得が200万円未満)の世帯であれば、医療費控除は受けられるのだ。念のために付言すると、収入金額と所得金額は違うので、2つを混同することのないように!
例として、給与収入が250万円の世帯が、年間9万5千円の医療費を支払ったケースを考えてみよう。
医療費支払い額から差し引く金額=所得157万円×5%=7万5千円
医療費控除の金額=医療費支払い額9万5千円-7万5千円=2万円
つまり、年間10万円未満の医療費支払いであっても、医療費控除2万円が受けられるのだ。実際の所得税の還付金は、1千円(2万円×適用される所得税率5%=1千円)となる。
「数千円単位の所得税還付だと、確定申告手続きの手間を考えれば医療費控除の適用は受けなくてもいい!」と考える読者がいるかもしれないが、もし還付金が数万円単位もしくはそれ以上になるのであれば、多少の面倒や手間をかけても医療費控除を受けた方がいいとアドバイスしたい。
筆者が実際に受けた相談案件において、お子さんの歯科矯正で年間100万円近くの費用を支払ったケースがあった。仮に年間100万円の医療費(自費および、保険医療の自己負担を合わせた合計)を支払った場合、年収500万円の会社員世帯であれば、医療費控除により単純計算で18万円の所得税が還付される。
領収書やレシートの原本をなくした場合は?
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さて、この医療費控除の適用を受けるためには、確定申告書に医療機関が発行した領収書やレシートの原本を添付する必要がある。
家族が多い世帯だと年間の医療費関連の領収書はかなりの枚数になると思われるので、定期的に整理し、台帳を付けるなどして医療費の総額を把握できる様にしておけば、確定申告書を作成する際、添付すべき領収書類の準備がすぐにでき、また医療費控除の計算もスムーズにできるだろう。
原則として、領収書の原本を確定申告書に添付する必要はあるのだが、もしレシートや領収書をなくした場合はどうするか?
領収書をなくした場合でもすぐにはあきらめないでほしい。医療費控除の対象として税務署に認めてもらう方法はいくつかあるからだ。以下に方法を挙げてみよう。
(2) 病院に領収書の再発行ができないといわれた場合は、領収書の代わりとなる「領収額証明書」の発行(通常は有料)をお願いする
※病院によっては、「領収書の再発行は致しませんので、なくさないようにして下さい」という方針のもと、再発行に一切応じないこともある。その場合でも少々手間がかかるが、あきらめずに医療費を支払ったことを証明できる書類を入手しよう。
(3) 治療を受けた家族の氏名、支払年月日、支払先の病院名、支払金額などの明細を税務署へ提出する
※「領収額証明書」等の入手ができなかった場合は、医療費を支払った記録をまず整理しよう。家計簿等を付けていれば、過去1年間の支出内容等の記録などをもとに、税務署に対して医療費の支払いが実際にあったことを説明するのだ。
支払年月日・金額・支払先等がしっかりと記録されていれば、税務署に医療費としての支出を認めてもらえる可能性は十分ある。
いずれにしても、医療費等の支払いを証明する領収書を確定申告書へ添付するのが原則であるので、それらをなくさないことが一番ではあるが、支払った実態があるのであれば、記録や記憶を頼りに、あきらめずに確定申告を通じて医療費控除を申請し、所得税の還付を受けよう。
また、確定申告書の提出期間になって慌てるのではなく、日頃から医療機関からもらった領収書・レシートを大切に保管し整理しておくことを忘れないようにしたい。また、一度、医療費控除を申請する経験をすれば、所得税の確定申告作業に対する理解も深まり、所得税の還付と合わせて一石二鳥だ。(執筆者:完山 芳男)